2016年の日本の豊穣な地下シーンを50組のアーティストと楽曲で振り返る。Japanese track maker / musician 2016。#26-50

26. Nozomu Matsumoto, “Pre-Olympic”

バーチャル聴覚室EBM(T) のメンバーとしても知られるNozomu Matsumotoの夢と消えたZaha Hadidの建築イメージが、切ない幻想性を掻き立てるシングル。人々の集合の力が生み出す巨大建造物の背後にある儚さ。資本主義が見る夢のような虚構性がエレクトロニックなサウンドの背後で鳴る荘厳でクラシカルなサンプルから響いてくる。

27. nukeme band, “Tower Mansion”

nukeme bandは、メンバー全員が寅年生まれのヌケメ、ドリタ、9s9、pagtas、suzukiiiiiiiiiiによるドローンをテーマにしたバンド。セカンドとなる本作は抽象的ではあるものの持続音に重さはなく、即興の遊びにより構築されたさまざまな音色が楽しく飛翔していく。シンセポップ的な要素が新鮮な新世代のドローン実験ユニット。

28. Rhucle “Yellow Beach”

Rhucleは東京在住のアンビエント作家。早朝のまどろみのような、やさしさと温かみを感じさせるあいまいなものの美しさ。奏でられる持続音の中に、森林の空気のような清々しい幻想が広がっていく。繊細さの奥に強い芯を感じさせる作品。

29. Ryo Murakami, “Esto”

Ryo Murakamiは大阪を拠点に活動するアーティスト。アラブ首長国連邦のレーベルより。硬質な響きが蠢き、聴くものの感覚を歪ませるようなインダストリアルな世界観が構築されている。どこまでも深くてどこまでも黒い、ドローン/エクスペリメンタル。

30. §✝§

音源は数少ないが、VRを用いたライブが評判。サウンドだけでなく、オンラインが現実に結実したかのようなパフォーマンスは、サウンドとヴィジュアルの稀な幸福な結合であり、唯一無二のもの。もっと聴きたいし、もっと見たい。

31. Seiho, “Collapse”

大阪の出身で、〈Day Tripper Records〉の主宰者。ロスの〈LEAVING RECORDS〉から認められ、その稀有な才能が「Collapse」に結実した。Arcaにも通じるフェティシズムを通過したその音の異形を愛でる美学は、崩壊直前の絶妙なバランス感覚の上に成立している。エレクトロニカ、ビート、アンビエントなどさまざまな音の要素が、溶け合うように結合した、優しくも美しい作品。

32. 食品まつり a.k.a. Foodman, “Ez Minzoku”

Juke/Footworkが日本で独自の進化を遂げた。スカスカした独創的で脱力した奇妙なサウンドは、あれよという間に世界中の音楽メディアに捕捉され、その多くから本年のベスト作品としてノミネートされた。既存のカテゴリーにはけして分類できない、まさに異能の天才が作り出した作品。その奥からは職人的な探求というより、子供の心を覗き込んでしまったかのような、純朴な即興性と素朴な音への関心の追求が聴こえてくる。

33. Sugai Ken, “鯰上 -On The Quakefish”

日本の伝統的意識を現代の意識で消化した、風変わりなエレクトロミュージック。想像を超えて奔放に形を変化させていく美しく奇妙な音の生き物たち。豊穣な暗がりの中からどこかユーモラスなファンタスティックな光景が浮かび上がる。動と静の垣間見える捉えどころない間が、聴くものを中毒性のある音像の世界へと導いていく。

34. Takahiro Mukai, “Bubble Over”

日本の〈Birdfried〉や〈Phinery Tapes〉、〈Hylé Tapes〉など国内外のレーベルから精力的にリリースを続ける大阪在住のアーティスト。電子パルスのパターンが変化しながら泡のように浮かび上がっては消えていく。絞り込まれたミニマルな要素のなかに新鮮な感触が作り込まれており、硬質な弾性を感じさせるその音の構築物は、ただ純粋にカッコよい。

35. takao, “V”

さまざまな音楽の響きが聞こえては遠くへ消えていく。彩度の低いくぐもった音響が重なり合いゆれうごく、フィルターを通して世界を眺めているような幻想性。ストイックな美しさを持つアンビエント作品。

36. Theater 1

Theater 1は、D.J.FulltonoとCRZKNYによるコンセプチュアルなシリーズ・プロジェクト。日本のジューク/フットワーク界を代表する二人がタッグを組み、月一でその可能性を探求。本作は完成したトラック群の総集編的なアルバムとなる。ミニマルでテクノライクなそのサウンドは、その裏にあふれんばかりの熱量と強烈な刺激を含んでいる。

37. toiret status, “◎omaru◎”

プリセット音のみで作られたという高音質な音の破片が歪みの中でかき混ぜられ、聴覚の酩酊の中で新しい姿を形成していく。強い重力により音が放たれる空間自体を歪ませたようなそのサウンドは、聴くものの予定調和を次々と破壊せずにはおかない。このような新鮮な才能が、食品まつりらと同じく〈Orange Milk〉から作品を発表したということも驚き。本作にも参加している同郷であるKenji Yamamotoとのユニット、Toiret $egatasにも注目したい。

38. TOYOMU, “印象VII : 幻の気配”

京都のビートメイカー/プロデューサー。カニエ・ウェストの新作を妄想で作り上げた作品に続いて作られた宇多田ヒカルの「Fantôme」の妄想作。感覚が先走ったその組み立てには、Vaporwaveの奥にあるコンセプトとの共通性も感じさせる。乱暴なまでに斬新で、かつ奇妙な独自の世界を作り上げている。

39. UNKNOWN ME, “AWA EP”

UNKNOWN MEはやけのはら、P-RUFF、H TAKAHASHIにより結成されたアンビエントユニット。自身の分野で才能を開花させている3人がアンビエントの新機軸となるファーストカセットから、はやくも7inchのEPをリリース。日常における気持ち良さを拡大し持続させたような、透明で美しい幸福の気配に包まれたアンビエントハウスの傑作。

40. Ultrafog, “Faces, Forgotten”

〈Solitude Solutions〉よりリリースされたUltrafogのファーストカセット。厚みのある音像空間に、ミニマルな音の襞が優しく広がっていく。サイケデリックでほのかな温度を感じるローファイなアンビエント作品。

41. ROTTENLAVA, “KDK-8 ROTTENLAVA – MOTHER C”

メランコリックな響きを持つシンセサウンドの揺らめきに包まれながら、暗闇で微かな光を頼りに進む方向を確かめるように、もったりとしたビートがどこからかやってきては消えていく。反復によって作られるその感触はドローンのようだが、気がつくとダンストラックのような姿をしていたりする。不安定だが、儚さゆえの美も感じる作品。

42. Ryota Mikami, “Wedding”

Ryota Mikamiは東京を拠点とするアーティスト。Weddingというタイトル通り、希望を感じさせるメロディのループが高らかに鳴り響く。躍動感のあるサウンドの表面には、多彩な音の色や形が敷き詰められており、ポップさの中に荘厳な美しさのある世界を作り出している。9つの波で構成されたミュージックビデオ「Pyre」も発表した。

43. WoopHeadClrms, “日本の鎌倉母”

WoopHeadClrmsは愛知在住のトラックメーカー。変則的なビート、ボーカル、サンプルから作り出される脈絡のなさが際立つそのサウンドコラージュはMADの影響を受けたものだという。拡散的でノイジーなサウンドテクスチャーで構成されるそのグルーヴは、無重力で三半規管がかき混ぜられるようなカオスの中にある気持ち良さがある。

44. world’s end girlfriend, “LAST WALTZ”

world’s end girlfriendは前田勝彦によるプロジェクト。6年ぶりとなるこのアルバムはこれまででもっともパーソナルな哲学の領域に踏み込んだものだという。粒子の粗いメロディが深層へ語りかけるように静けさのなかに荘厳に響き渡り、その独自の物語空間へと聴くものを誘いながら、次第に耳へと重くのし掛かってくる。この重力の質感と、彼岸へと暴走するような虚無感は、どこかウィッチハウスとも共通する感触を感じる。

45. xoltev, “zero”

〈Wasabi Tapes〉より、鹿児島を拠点に活動する音楽家、xoltevのリリース。そのサウンドには空想的な明るさのようなものがあり、邪気のない心で希望に満ちた世界を映し出す。天上へ突き抜けていくような上昇感をまとったハーモニーに、変則ビートが空気のような軽さで交絡み合い、それらが美しい光景を描きながら、生命の喜びに満ちた躍動感で跳ね踊る。

46. Yoshitaka Hikawa

Yoshitaka Hikawaは東京を拠点に、〈CVLT〉や〈Astral Plane〉、O Fluxo Magazineなどに楽曲やリミックスを提供するプロデューサー。本作は、ju caとYoshitaka Hikawaのスプリット作品となる。さまざまな音のマテリアルが切り刻まれ、重ねられて生み出された靄がかった音像が、抽象的だがくっきりとした美学を感じさせる構造物を作り出していく。オンラインで生まれたばかりの新しい身体感覚をここに聴くことができるだろう。

47. 夕方の犬(U ・ェ・), “Choir and Room”

犬推しのイメージで聴くものを混乱させる音楽家、夕方の犬(U ・ェ・)。賛美歌とミュージック・コンクレートを結合。おもちゃのような不思議な感触がある環境音を背景に、神々しい響きを持つメロディが響き渡る。繊細な美しさと奇妙さが同居した幻想的な作品。

48. YPY, “The Rusted U.F.O”

goatリーダーのHino Koshiroのソロ名義YPYがJMT Synthのみを用いて制作した作品。もちろんただのデモンストレーションではなく、Hinoのストイシズムの中に無限とも思える豊かさを作り出すその才能がここでも存分に発揮されている。聴き心地の良いテクスチャーが形作った音のカーペットは、驚くほどいろいろな姿を映し出す。そのストラクチャー全てに聴くものをダンスへと誘う強い引力が存在している。

49.YYOIY

マドリード在住の日本人トラックメイカーでファッションデザイナー。ボーカルサンプルをスクリューしたR&B/ベースミュージック的な感触のある楽曲。去年〈Day Tripper Records〉から発表された「Hyper Pastelism」にも通じる、オンラインやポップ、ストリートなどに遍在するさまざまな要素をハイブリッドし独自に昇華したような、純粋に楽しく、新鮮な未来的感覚が存在している。

50. Yuta Inoue, “Piercer”

こちらも〈Day Tripper Records〉から作品を発表するアーティスト。粒子感のある様々な音像がマーブル模様を描くようにビートの上で混じり合い、帯状の分厚い音の層を作り出していく。モノトーンの色彩で描かれた抽象画のようなビートミュージック。

https://soundcloud.com/yuta-inoue-3/piercer

[関連]Japanese track maker / musician 2016。日本のトラックメイカー/楽曲50。#1-25