ファッションブランドHatraと、ファッションデザイナー/アーティストのnukemeによる新ブランドOkayが発足しました。先月開催された展示会に行ってきたので、その様子をレポートしてみたいと思います。
Hatraは長見佳祐により2010年立ち上げられたユニセックスのウェアレーベル。ブランドの顔とも言える、スエットの素材感とゆったりめで未来的なシルエットのフードウェアが特徴的で、カオス*ラウンジなどさまざまなアーティストとのコラボレーションを行うなど、単なるファッションという枠組みにとどまらない活動を行ってきました。
そのHatraが同じくファッションデザイナーであり、アーティストのnukemeとタッグを組んで発足させたのが新ブランドの「Okay」です。
アーティストと名乗るようになってnukemeくんの活動もどんどん拡張してきており、単体の記事で紹介しきるのが難しいほどですが、彼の作品の代表となるのは、(ヌケメ帽を除くとしたら)やはりイメージやデータを破壊する「グリッチ」を取り入れた洋服たちということになると思います。
手法が注目されてしまうとどうしても「グリッチをやる人」という認識がつきまとってしまうと思いますが、もっと重要なものが彼の世界に対するその「接し方」にある気がします。
グリッチはものごとの成り立ちに近い部分にほんの少し手を加えただけで、世界がまったく異る見え方になることを教えてくれました。そういう種類の操作は、手法というよりも、アーティストたちが普段行っているもっとも普遍的な所作のようなもののように思えます。ucnvさんの一連の作品もそうですし、グリッチを使用していないnukemeくんの作品の流れにも、それがとてもくっきりと表れています。だから彼が最近アーティストを名乗るようになったのもの、その延長で考えるととても頷けるのですね。
その彼がいよいよ本格的なブランドに携わっているというので、とても楽しみにしていたのです。
結論から言えば、その内容は予想を超えた素晴らしさでした。
個人的にもっとも印象に残った一着。ストッキングを用いたという生地が特徴的で、装飾のように用いられているのはシリコンコーティングが施された艶のあるパイピングテープ。素材自体の湾曲がゴージャスなドレープを生み出しています。色展開として、ベージュと赤があります。
こちらはソックスですが、元になっているのはなんと懐かしのルーズソックス。既製品を染めたそうですが色が変化するだけでアイテムの印象がここまで変わってしまうのかという衝撃が走りました。濃紺とカラシ色の2色展開。
アクセサリーは日本の伝統文化「鍵っ子」からインスパイアされたという鍵の束を留める金具。白シャツは特徴的な細いファスナーは、ドレスなどの後ろを留めるために用いられるコンシールファスナーと呼ばれるファスナー。ポケットの位置が変わっていますが、手を入れるとこの写真のようなポーズになることを意識して作られているそう。何がしかを抱きしめようとしているような感じになりますね。
グリッチの雰囲気が残っているのがもしかしたらこのアイテムかもしれません。規則的にハサミを入れて独特のパターンを作り出しています。切り込みの仕方が、どことなく七夕の折り紙を切って作る飾りを思い起こしました。
非売品だそうですが、大人気だったスリッパ。旅館にあるようなふつうのものだそう。
このスリッパに象徴的に現れていると思いますが、僕らが普段目にしている気にも留めていないようなもの、そういうものってハイファッションの目から見ると、これまではダサいものに分類されてしまうものだったと思います。そのダサいものが反転しておしゃれになる時、そこにはささやかだけれど新鮮な驚きが生まれます。Okayは、その最もよい見本を示してくれた展示だと思いました。
最後に、ブランド名「Okay」について。そのネーミングにはささやかな前向きな感情に加え、どこかなげやりな肯定感を感じました。ポジティブに生きるのが難しいこの時代にあって、そこに彼らの時代感や空気感が表現されているような気がしました。
OKAY Collection “NEW DAYS”
Photo: Mayumi Hosokura, Model: Mijika NAGAI, Hair and Make: Yosuke Toyoda
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