Label Interview: Hausu Mountain

未来と過去のはざまに見つかった、レーベル〈Hausu mountain〉の実験と探求。

Text: Yusuke Shono, Translation: chocolat, Goh Hirose

〈Hausu mountain〉はDoug KaplanとMax Allisonの二人によって2012年に設立された音楽レーベル。電子音楽の実験的な作品をリリースし続け、深海のように豊かなその未知の領域を開拓してきました。レーベル名のもとになった日本の映画、そしてMax Allisonが手がけるカバーアートなど、彼らが作り出す世界観の底には、漫画やレトロゲーム、サイファイ文化、そのほかさまざまな領域のサブカルチャーへの愛が貫かれています。

彼らはまたGood Willsmithというトリオのメンバーとしても知られており、〈Umor Rex〉からリリースされた最新のアルバム「Things Our Bodies Used To Have」が、高評価を得たことも記憶に新しい。その音楽性は、レーベルカラーともシンクロするローファイな感覚を持った実験性。時代と空間を旅しているような幅広いムードや感情。それらを作り出している電子音から生音まで含めた、豊かな音色も特徴的です。

過激な実験性と飽くなき探求の奥に、どこか人間的な温かみすら感じさせるレーベルカラー。独自のスタイルを持つ〈Hausu mountain〉は、Good Willsmithメンバーのソロ作を3作揃ってリリースしたばかり。その彼らにレーベル設立の経緯からコンセプトの由来、バンドプロジェクトなどについて聞いてみました。

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レーベル設立の経緯はどのようなものだったのでしょうか? 二人の出会いについて聞いても良いでしょうか?

僕たち(DougとMax)はエバンストンにあるノースウェスタン大学で出会ったんだ。すぐにベストフレンドになったよ! それからThe Earth is a Manっていうバンドを一緒に始めて、2011年に卒業した後は一緒にシカゴに引っ越しして音楽を作り続けた。〈Hausu Mountain〉は、2012年に、もともとは自分たちの音楽、Good WillsmithやThe Big Shipのようなバンドの音楽をリリースするために始めたレーベルで。ほかのレーベルからリリースしてもらうのは難しいってわかったから、自分たちでやることにしたんだ。その後すぐに、友だちとか、自分たち以外のプロジェクトの音楽を主にリリースするようになっていった。Doughと僕はずっといい友だちだし、僕たちはレーベルを良いものにしていくために一生懸命動くのがとても好きだよ。

レーベル名は大林宣彦の映画のタイトルからとったと聞いたのですが、ほんとうですか?

ほんとうだよ。レーベルの名前は大林宣彦監督の映画『ハウス』からつけたんだ、ホドロフスキーの『Holy Mountain』と組み合わせてね。僕たちはこのふたつの映画が大好きだから。サイケデリック・アートのクラッシックで、とてもたくさんの不思議、ユーモア、恐怖、驚きが含まれてる。独自のルールや雰囲気があって、作品全体でその独特の世界や宇宙を描いていて、すごく好きなんだ。僕たちのレーベルでやろうとしていることも同じ。新しいサイケデリックの世界を構築することとか、シリアスにやりすぎないこととか。観るといつも楽しくて驚きがあるから、これらの映画はクラッシックになっているんだね。

Good Willsmithの活動のレーベルへの影響はありますか? その音楽性も含め、音楽活動とレーベル運営の仕事に連動している部分はありますか?

Good Willsmithを始めたのとほぼ同時期にレーベルを始めたから、Good Willsmithはレーベルのフラッグシップ・プロジェクトのようなものになったけど、Good Willsmithは〈Umor Rex〉や〈Baked Tapes〉のようなほかのレーベルとも仕事をしているし、もちろん〈Hausu mountain〉はとてもたくさんのほかの色んなプロジェクトと一緒にやってる。Good Willsmithのサウンドは僕たちがレーベルでやろうとしていることをとてもよく表していると思う。ライブ演奏の音楽、ノイズとテクスチュアが元になっている音楽、とても多様で説明するのが難しい音楽、ムードで変化して色んな雰囲気の間を素早く行ったりきたりする音楽、ヘビーでノイジーな音楽、美しくもある音楽、エレクトリックとエレクトリックでない楽器を組み合わせた音楽、即興の音楽。これはGood Willsmithにも、僕たちがやっているほかのプロジェクトのほとんどにも当てはまることだね。でも、音楽活動とレーベル運営がつながっていることで一番大きいのは、全部一度にやらなければならないってことかな! 人生には限られた時間しかないし、僕たちは忙しい。Good Willsmith、〈Hausu mountain〉の全責任、ソロプロジェクトの作業、たくさんのショウでプレイすること、そしてもちろん、音楽以外でやらなければならないほかの仕事、それらを全部やりくりするのはたいへんかもしれないけど、僕たちはそうするのがとても好きだし、ほかのやり方ではできないんだよね。

トリオであるGood Willsmithのメンバーの一人、TALsoundsことNatalie Chamiによる作品。日々の即興的なセッションの過程により生み出された、複雑で叙情的な「声」の世界。衣擦れのようなソフトさとスモーキーな気だるさ。その絶え間ない音の旅により作り出されたアンビエントノイズ。

レーベル主宰者の一人、Doug KaplanによるMrDougDoug名義の作品。Geocities MIDI CollectionでみつけたMIDIファイルで作られたという本作には、ロックやレゲエやカントリー、ヘビメタのブラストビートのようなサウンドの片鱗を聴くことができる。そのサウンドは微小な断片へと砕かれていき、スピードとエネルギーだけが抽出される。形を変えながら蠢めく靄のような、サウンドテクスチャーとビートが複雑に交錯した作品。

レーベル主宰者の一人でもあるMax AllisonによるMukqs名義としては初となるフルレングス作品。ゲームミュージックの古典に触発されたというメランコリックで叙事詩的なメロディが、オーガニックなシンセの音色と共鳴し合うアンビエント。オーバーダブなしのライブレコーディング作品。

2012年から活動していますが、レーベルの方向性には変化や進化はありましたか?

自分たちの音楽をリリースするっていうことから、ほかの人たちの音楽をリリースするっていうことへ、単に変化という以上のものがあったね。僕たちのレーベルは2012年からたくさん変化してきていると思う。スキルは向上してるし、音楽をリリースできるようになるまでも速くなっているし、それを発表して世の中に広めることも上手くなってきてる。もちろん長い間やっていて、興味を持ってくれる人の数が増えてくれば、これは自然なことで、一生懸命やってきたこと、そして決してあきらめなかったことの成果なんだ。音楽自体に関しては、たくさんのおもしろいミュージシャンたち(たいていはGood Willsmithとツアーをやってくれたり、たくさんのショウでプレイしてくれたりした人たち)に会って、時間を過ごしてきているから、以前にも増して数多くの、幅広いアーティストたちと一緒にできるようになってきてる。僕たちが今リリースする音楽のほとんどは、The Big Shipのような初期のリリースのアコースティックでギター志向のサウンドと比べると「エレクトリック」寄りになることが多い。今は、音楽を作るのにさまざまな方法を使う色んなアーティストたちがとてもたくさんレーベルにいるから。ドラムマシンやコンピューターで作るビートミュージック、アナログシンセサイザー、モジュラーシンセサイザー、機械でミックスしたボーカル(声)、あらゆる種類の作り方をね。

実験性を尊ぶレーベルカラーが非常に明確ですが、あなたは自分のレーベルのコアなコンセプトはなんだと思いますか?

僕たちはエクスペリメンタルミュージックが一番好きだよ。でも、もちろん、色んな種類の「エクスペリメンテーション(実験)」がたくさんある。自然の中で静かにやっていたり、極端にゆっくり進めることに特化していたりするようなエクスペリメンタルミュージックには僕たちはもうあまり興味がなくなってきてる。僕たちは、複雑で、多様で、ジャンルにしばられない、わくわくするような音楽に興味があるんだ。リスナーとして、僕らはすぐに飽きてしまうからね。40分間変化しないドローン・パフォーマンスや現代のノイズの多重録音にはもう興味が持てなくて。音楽を刺激的なものにするために、そして、聴く人々を楽しませるために、考えて、変えて、作業をする、そんなクリエイターの頭の中を見せてくれるような音楽が好きなんだ。流行りに乗ったり、ほかのアーティストそっくりにしようとしたりしない音楽が僕たちは好き。アーティストからダイレクトに個人的な表現、その人独自の、ほかの誰かにはできない形の表現、そういうものを受け取っているように感じられる音楽が好きだね。これが僕たちにとっての「エクスペリメンタル」の真の定義なんだ。

〈Hausu mountain〉の面白い部分はその時代感覚だと思います。古いようでもあり、新しいものでもあるような感じと言ったらいいのでしょうか。このような感覚はどこからくるのでしょうか?

ありがとう。その発想、とても好きだよ! 「アナクロニズム(時代の風潮に逆行していること)」っていう概念が僕たちにとって大切なんだと思う。たぶん、より潜在意識レベルでの。間違った時代にはまってしまったみたいな感じがする何かとか、時代遅れのように見える奇妙なものとか。そういったことは、テレビゲームやマンガからの素材をよく使ってるレーベルのビジュアルアートにも現れてるよ。アルバムのアートワークのテーマは「フューチャリスティック(未来的)」のことが多い。ロボットとか科学技術とか宇宙空間みたいな。ただ、未来的といっても、そういうテーマの表現方法はわざとお決まりのマンガっぽいものにすることもよくある。そうやって、過去と未来の間の境界をあいまいにするんだ。これは音楽自体にも当てはまることで。僕たちのレーベルの多くのアーティストは(Good Willsmith、Moth Cock、Davey Harms、Long Distance Poison、Piper Spray、Radiator Greysなどのようなプロジェクトも含めて)、音楽を演奏するのにコンピューターやソフトウエアを使わないで、意図的にアナログやハードの機材を使うことにこだわってるんだ。そうすることで、サウンドを過去から持ってきたもののようにすることができる。そういった機材の限界のせいでね。けど、アーティストたちは、「古い」機材を使って、新しく、奇妙で、独特に聞こえるものを作ることに成功してる。これは僕らにとってはパーフェクトなコンビネーションだね。僕たちは、未来的で、耳触りがいい、サイバーっぽいタイプのレーベルだって思われることにも興味がないから。自分たちの基準でクールな音楽だと思うものをリリースしたい、それに合ったクールなビジュアルを音楽に合わせたいだけなんだ。

デンバーの21歳Jesse BriataことLockboxによる「Demonoid」は、ローファイなビートの探求から高解像度のプロダクションへと舵を切った「Prince Soul Grenade」に続く作品。切り刻まれたサンプルと複雑なビートパターンによりつくられたデジタル雲のような音の造形が、その形態を液体のように変えながらさまざまな風景を横断していく、ノイジーな実験テクノ。

HeadboggleことDerek Gedaleciaは、〈Spectrum Spools〉、〈Hanson Records〉、〈NNA Tapes〉そして〈Experimedia〉などから60以上のリリースを行う、サンフランシスコのシンセシスト、作曲家。モジュラーシンセの音色への探求と、タブーを恐れない実験精神を特徴とする彼の最新作、「In Dual Mono」はモノラル録音が二つのスピーカーから同時に乱打されるという、電子音響の実験盤。

クリーブランドのプロデューサー、パフォーマーTim ThorntonことTiger Villageによるシリーズ作品、「Tiger Village VI: Effective Living」。濁流のように押し寄せるシンセのメロディとリズムが、コラージュのように速度を変えながら予測不能なパターンを描いていく。囁くようなどこかメランコリックな声のサンプルが、電子音響と融合し、未来の歌声のように響く。

Maxさんのアートワークも毎回素晴らしいですね。ゲームやコミックがモチーフになっていますが、そうしたサブカルチャーからの影響は強いのでしょうか?

ありがとう! Maxはレーベルのほとんどのアートワークをやっているんだ。自分で自分のリリースのアートをやったり、友だちにやってもらっているアーティストも多いけどね。でもMaxはレーベルの専属デザイナーで、マンガやテレビゲームのコラージュのアートワークは全部彼がやってる。テレビゲームとマンガはどちらもMaxの人生にとても大きな影響を与えてるんだ。彼は1990年生まれで、SNES(海外版スーパーファミコン Super Nintendo Entertainment System)、N64(Nintendo64)、Playstationのような初期のテレビゲームの頃に子どもだったりティーンだったりしたからね。ビジュアルスタイルに関して、それから、音楽に関しては特に、こういう形のアートは究極に人の心を開かせるよ。マンガやグラフィックノベル(大人向け長編のマンガ)もそうだし、アニメは特にそう。こういうタイプのアートすべてがMaxのビジュアルと音楽のスタイルに影響を与えているんだ。でも2016年の今、テレビゲームをやったり、マンガを読んだりする時間がMaxにはもうない。レーベルやバンドなどのためにやらなければならない、たくさんの楽しいことのおかげでね。だから今度は、テレビゲームやアニメやマンガのスタイルをレーベルのアートワークに取り入れるのがベストなんだ。Maxの目標は、ピクセルで構成されたテレビゲームアートのシンプルで美しい質感を復活させること、それをテレビゲームの歴史の外で、新しいやり方で使うこと。ノイズ音楽のアルバムのジャケットにテレビゲームのピクセル画っていうのは奇妙に見えるかもしれないけど、テレビゲームのイメージの認識を変える、あるいは進化させるひとつの方法なだけ。古いアートの形を懐かしむっていうことじゃない。こういった古いアートの形は決して置き去りにされたりしない、いつだってふつうに美しいし、楽しいんだって、アートワークは伝えようとしているんだよ。

最後にレーベルに影響を与えたものがあれば教えて下さい。音楽でもそれ以外でもかまいません。

すごくすごくたくさんのものが僕たちのレーベルに影響を与えてるよ。主なもののリストを書いてみた。

  • Terry Riley、La Monte Young、Steve Reichのような20世紀のミニマル音楽の巨匠たち。
  • Miles Davis、Sun Ra、John Coltrane、Alice Coltraneのような20世紀のジャズの巨匠たち。
  • Captain BeefheartとFrank Zappa。
  • Jim O’Rourkeと彼の無限のプロジェクト。
  • Sunn 0))、Boris、EarthのようなSouthern Lord(サザンロード・レコーズ)を代表するバンド。
  • the Grateful Deadに関連するすべてのこと。
  • Can、Faust、Neu!、Cluster、Harmoniaなどのようなバンドを含む「クラウトロック」の流儀。
  • 今現在アメリカのアンダーグラウンドで僕らの友だちが運営している、とてもたくさんのレーベル。〈Patient Sounds〉、〈Orange Milk〉、〈Baked Tapes〉、〈NNA Tapes〉、〈Hanson Records〉、〈905 Tapes〉、〈Haord Records〉、〈Refulgent Sepulchre〉、〈Moss Archive〉。それから、〈Umor Rex〉、〈Phinery〉、〈Singapore Sling〉のような、ほかにももっともっとあるインターナショナルなカセットレーベル。
  • Moebius、大友 克洋、Roland Topor、Brenna Murphy、Keith Rankin、Rob Beattyのビジュアル・アート。
  • 湯浅政明の映画とテレビ番組。
  • 世界中の友だち、みんな。

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Hausu mountain

http://hausumountain.com
https://hausumountain.bandcamp.com