手法を変化させ続けることにより、フレッシュなままに音を作り続ける。そんな食品まつりの制作観は、このフリーフォームなインタビュー会話にも表われていた。どこまでも身軽で、多分目に入るものをすべて吸収してしまうような貪欲性、たぶんそこに形を与えるためのセンス。それらがフラットに彼の中で結びついて、これまで聴いたことのなかったようなオリジナルな楽曲を生み出し続ける。だからそれはいろいろなものに似ているけれど、そのどれとも違うものになっている。そんな彼の制作環境について聞いたインタビュー前編に続き、ここでは少し時間を巻き戻して、名古屋在住時のジュークとの出会いから始めたいと思う。インタビュー後編は、彼の制作のルーツであるジューク観について聞いていく。
名古屋出身だそうですが、どうして横浜に住むことにしたんですか?
Dommuneで「ジューク解体新書」を見たことがきっかけで、ジュークを作りたいと思ったんです。最初はSNS上で、Booty TuneやLEF!!! CREW!!!の人たちと繋がって。それがきっかけで、名古屋以外にも住んでみたいって思うようになって。横浜ならLEF!!! CREW!!!のメンバーやPAISLEY PARKSいるし、行ってみようかなと。来てよかったです。皆さんバイブスが高いっつうか。
Dommuneの「ジューク解体新書」は2011年でしたよね。トラックは、そこからつくりはじめた?
ずっと音楽は好きなんですけど、ま、ちょっとつくってみよっと思って。それまでは制作はしていたんですけど、表立ったリリースをしたことがなくって。録音して、それがどんどんたまっていくだけ。それでジュークをつくって、アップしていたら、反応が返って来るようになったんです。思い起こせば、2012年のジュークのSNSの盛り上がりが結構やばかった。北海道にジュークをつくっているやつがいるよとか、広島にひとりいるらしいじゃんとか。なんか捜索みたいになって。
それでジュークを作っていたトラックメイカー同士が繋がっていったと。
それでみんな繋がっていった。今の日本のジュークシーンは完全にSNSですね。ずっと音楽やってて、あるジャンルがはじまる瞬間みたいなものってなかなか体験できない。その音楽が根付く瞬間に出会えてるっていうことに、ものすごく興奮した。こんな経験って音楽やっててできると思わなかった。そこにみんな熱いものを感じたんでしょうね。
そのSNSからジュークのコンピが出来上がるわけですが、その経緯はどんなかんじだったんでしょうか。
「Bangs & Works」っていうジュークのコンピがあったんですけど、CRZKNYさんや、Booty Tuneの秋岡さんが、ツイッター上でその日本版が作れたらいいねっていうような会話になって。そこからメンバーを募集していって。募集したら結構な人数が集まりました。40人くらい。バックグラウンドも色々な人達がジュークやばいって思って、それぞれ思うジュークをつくった。それがまた楽しくて。
なるほど。
それで日本のジュークって、自分の解釈で勝手にやっちゃってるから、不思議なものになってる。結果的に本場のジュークとは違うかたちになってるのが、おもしろい。Rolling Stones誌にも日本のジューク/フットワークが取り上げられたんですけど、そういう部分を面白がってくれているのかなって。
最初のアルバムのリリースは、2012年の〈Orange Milk〉からですよね。
あれもサウンドクラウド経由で連絡が来て。ジュークっぽい曲をいくつか上げてたんだけど、レーベルのKeith Rankinってやつが、これリリースしようよってメッセージが来て。ジュークじゃないんだけど、ジューク的なものが確実にあるよねって。それが、外国の人に伝わったってのが嬉しかった。ジュークじゃないんだけど、感覚的なジューク。
そのリリースを経由して、海外の人にも知られていくという流れですか?
それがTiny Mix Tapesで紹介されて。それからちょくちょく声かけてもらって、リリースするような感じになりました。たぶんあの頃、フットワークのダンスミュージックじゃない方のおもしろさを、注目してた人がいたんでしょうね。リスニングとしてのフットワークというか。そこから結構聴いてもらえるようになって。〈Orange Milk〉のSeth Grahamは日本語を結構しゃべれるんですよ。元々関西にいたらしくて。それでやりとりができた。
これまで作った音楽はずっと温めていたけれども、ジュークと出会ったことで、やっと外の人たちに聴いてもらえる形になったんですね。
それまでは、全然反応がなかった。ジューク聴いた時に、それまで自分がつくっていた音楽に考え方が似ているものを感じて、親近感がわいたんです。ジュークだったら、俺も何か表現できるかもっていう。それまでは、ちゃんとしている音楽への劣等感があった。でも、ジュークを聞いた時に、ちゃんとしなくていいんだってわかったんです。実際はちゃんと考えてつくってるんですけど、わりと感覚だけで作ってもいい。そこからジャンルも関係なしにやればいいって。そういうやり方でも、ジュークとして聴いてもらえるのが嬉しかったんです。
ジャンルと出会ったことでジャンルレスになったっていうのは、面白いですね。
ジュークからメッセージをくらったじゃないですけど、そこからより一層やろうっていう気持ちになった。ジュークじゃない曲もあるんですけど、個人的にはジュークの発想が自分の中にある。
自由度が高い音楽とはいえ、一方で、ジュークっていうジャンルを成り立たせている要素もあるわけですよね。それについてはどう思いますか?
例えばダンスミュージックだと、だいたいどのジャンルでもフォーマットがありますよね。テクノの4つ打ちとか。ジュークって、キックの置き方とか、スネアの置き方とか、一応こういうサウンドみたいな枠組み。ただジュークは、その許容範囲が広い。本来ならこう来てこう来るだろうというのが、来なかったりする。パターンがない。あと、弾き語りとかでもジュークを感じる時がありますし。
俺、最初にジューク聴いた時に思ったのが、初めて機材を買って音を出して、自分が作った音だって感動するじゃないですか。その時の感じがそのまま残ってるなって。ある程度やっていくと洗練されがちなんですけど、洗練されていない状態のまま高みに上っていってる。ダンスミュージックというより、宅録遊びのような楽しさ。自由な感じというか。ジュークはシカゴのものだけど、そういうふうに各自が過大解釈してもいいっていう気がしてて。
実際、シカゴからの反応ってあったりするんですか?
シカゴの人って、俺らは俺らみたいな感じがあるから。たぶんあまり他の国のジュークをそこまで聴かないんじゃないかな。自分たちで勝手にやばくなって行っているイメージがある。だから逆に、そういう人の反応は聴きたいですよね。RP Booなんかが、自分がリリースした曲をいいっていってくれたらしいんですけど。どうなんだろう。自分が作ったものを、シカゴの人達も取り入れてみようみたいになったらいいなとか思いますね。ライバル心ではないですけど、そういう気持ちはありますね。だから俺、シカゴのジュークはあんま聴いてないです。
えっ、ほんとですか。
聴かないことでリスペクトするというか。同じことをやっちゃいかんなって。逆に、インタビューとかには影響を受けます。
ジュークにも踊るっていう機能性の部分があるじゃないですか。ダンスミュージックなので。やっぱりその機能性の部分は意識しませんか?
確かにダンスのことは、たまに考えるんですよね。頭の中をぐちゃぐちゃとするイメージ。脳のしわとしわをこうフットワークのイメージにからませるというか。あと、作りながら指で踊りを真似してやったりとか。この音で踊ったらどうなるんだろうなって。
でも、踊れる踊れないっていうことについては、昔から疑問に思ってて。何をもって踊れると言ってるんだろうって思う時がある。踊ろうと思えば、無音でも踊れる。たとえば低音がまったくない音で、踊りに行ったらやばいみたいな感じ。実際に、そういう経験ありますよ。ポクポクポクって音だけで踊ったら、いけないことをしている感じがして。こんなことしていいのかなって(笑)。
おもしろいですね。食品さんのジュークを聴いた時の衝撃は、低音があまりないっていう部分でした。
それは嬉しいですね。最初に一番食らったジュークは、ラシャドの「Reverb」だったんですけど、たまたまノートPCで聴いていたので低音がぜんぜん聞こえなかった。聴こえた音にすごく共感したんですが、そんときはジュークで低音がどうとか高速ビートがどうってのに反応したわけではなくて、そことは違う部分に反応してた。音の並び方というか。音楽の聴こえ方って、それぞれ違うはずで、みんな同じ聴こえ方してるはずないだろうと。俺は俺でこういう聴こえ方してるんだから、それはそれでいいんじゃないかって。
食品さんの音楽性って、なかなか一言で伝えるのが難しいんですが、今日もお話ししていて、奥にルーツが何本かあるのかなという気がしました。
すぐ影響を受けるタイプなんです。いろんなことを、バラバラにやっちゃってた。それがジュークでまとまったみたいな。ジュークが方程式みたいに。すべてがジュークで説明できたみたいな。そういう感じがあるかもしれない。
曲ごとに全部コンセプトが違うのに、バラバラな印象は全然ないです。
それはありがたいですね。飽き性ってのがあるんですよね。1曲つくってる途中で飽きたら次の曲つくってみたいな。同じジャンルをつくるのは苦手なのかもしれない(笑)。
食品まつり aka foodman
2012年にOrange Milkよりデビューした、横浜在住の日本の電子音楽作家。シカゴ生まれのダンスミュージック、ジューク/フットワークに刺激を受け、作品を作り続けている。 https://soundcloud.com/shokuhin-maturi