Interview with Visible Cloaks

日本のニューエイジを通過した、新しいアンビエント・ミュージックの姿。
Dip in the Poolとの共作「Valve」からみえてくる、その音楽愛と試みとは

Text: Kazunori Toganoki

ポートランド在住、Spencer DとRyanの二人によるVisible Cloaksが先月ブルックリンの〈Rvng Intl〉から二曲入りシングル「Valve」を発表した。2014年に出たファースト・アルバム「Visible Cloaks」ではヴァリエーション豊かで丸みのある電子音楽を聞かせてくれた彼らであったが、今回の作品ではかねてからファンであったという甲田益也子と木村達司による日本人デュオ、Dip in the Poolとの共同制作に挑戦している。甲田の特徴的な日本語の歌詞に呼応するように振動とビブラフォンが沸き起こり、いくつかの環境音、フラットなシンセ音がそれを包んでいく。音と音はぶつかり合うようでいて、ゆるやかなテンポのもとにひとつに溶解しあい、奇妙な「調和」を生み出している。Brenna Murphyによる、美しい彩色とデジタルの立体性が印象的なジャケットワークも、彼らの音楽性を見事に視覚化し、その調和に加担する。今回の作品に応じて発表されたヴァーチャルメディアソフトをインストールすれば、このジャケット内の空間を自由に動き回ることができ、より「Valve」を多次元で楽しむことができるので、チェックしてみてほしい。

全体を通して見受けられる「調和」のどこかに、私たちは日本的な何かを嗅ぎ取ることができるが、メンバーのSpencerは自身の音楽制作に大きく日本の音楽から影響を受けたと公言しており、レコード・コレクターでもある彼の知識はとても豊富だ。数年前には80年から86年まで限定のジャパニーズ電子音楽/アンビエントのミックスアルバム「Fairlights, Mallests, and Bamboo」を発表しており、これまで開拓されることのなかった、未知で、異国の「ニューエイジ」の存在を人々に知らしめた。西欧の人間だけではなく、当の我々にとっても刺激になるような曲ばかりなので、ぜひダウンロードして聴いてほしい。

彼らの音楽に胚胎する、深い日本のニューエイジへの造詣と、それらをリヴァイズさせた新しいアンビエント・ミュージックの在り方、そして現在のポートランドについて、メンバーのSpencer Dに訊いてみた。

Valve / Valve (Revisited) by Visible Cloaks

Visible Cloaksはどのように結成されたのでしょうか? それまで異なる名義で活動はしていましたか?
はじめはソロ名義として“Cloaks”として活動していたのが途中で“Neon Cloaks”になり、メンバーにEternal TapestryのRyanが入ったタイミングで“Visible Cloaks”という今の名前になったよ。Cloaks/Neon Cloaksをやっていた時は、結構な量の作品をリリースしたんだけれど、全てEasel Recordsという日本のレーベルからのみリリースされていて、アメリカでは手に入らないんだ。きっと探せばすぐ見つかると思うよ。

「Valve」は最近アムステルダムのレーベル「Music From Memory」から12インチシングルがリイシューされ、話題を呼んだ日本人デュオのDip In the Poolとのコラボレーション作品です。このプロジェクトがどのように始まったのか、教えて下さい。
うーん、話すと少々ややこしくなるんだけれど、僕たちが最初Dip in the PoolのMiyako Kodaのヴォイスを彼女のソロアルバム「Jupitar」からサンプリングしていた時、〈RVNG〉のマットがもう一人のメンバーである木村達司とあるプロジェクトで関わりがあって、僕たちの代わりにサンプリングの使用を許諾してもらったんだ。そうするとマットは単なるサンプリングだけでなくて、一緒に彼らと曲を作らないか、とアイディアを出してきて、そのおかげで僕と達司の間で、メール上のファイル交換を通しての作品作りが始まったのさ。益也子はそこに新しい歌詞とヴォーカルをのせてくれたよ。

この作品にはアンビエント・ミュージックと日本的な美学の調和が感じられるように思います。どのようなアイディアがあなたの頭にありましたか?
「Valve」は日本語と英語という二つの言語を用いながら、それらをMIDIへと落とし込んだ一連の実験作品のひとつなんだ。なだらかな展開と余白を含んだメロディーは、益也子の豊かな声のリズムから来ている。そこにペンタトニックスケールを使うことで、複合的に組みあわされたサウンドが生まれるんだ。音色に関しては、日本の音楽、とりわけ小野誠彦(清水靖晃や吉村弘、そしてDip in the Poolらを手がけている!)がミックスしている作品に影響を受けているね。輪郭を鮮やかに浮かび上がらせるような音像と、彼の録音物が持つような立体感、奥行に近づけようとした。

Brenna Murphyが手がけたデザインが素晴らしいですね。不思議と音楽にリンクしているような気もします。何かヴィジュアル面において担当した彼女に注文したことはありますか?
ただ僕の思ったいくつかのことだけ聞いてこれを描いてくれたんだ。明確な指示はしていないよ。彼女とはもう何年も共に作品を制作していたから、お互いの気持ちが自然と伝わっているのかもしれないね。

valvecover

使っている楽器を教えてください。
だいたいはPCで、そこにいくつかシンセとビブラフォンを足すぐらいかな、相方のRyanはYAMAHAの楽器のコントロール用にWX11を使っている。

あなたは日本の音楽、中でも清水靖晃や吉村弘、細野晴臣らといったニューエイジのアーティストらがお好きなようですね。実際にあなたの作る音楽に影響は与えているのでしょうか?
君が挙げたその三人は確かに僕にとってはとても重要な人物だね。アメリカでも彼らがどれだけ偉大なのか、人々がようやく最近気がつきはじめたところで、僕は早い段階で知る機会に恵まれていたから、このタイムラグに驚いているね。

〈RVNG〉や〈Leaving Records〉、〈Aguirre〉、〈Music From Memory〉といったレーベルらが主体となってここ数年で起きている、リバイバル・ニューエイジのムーブメントについてどう思われますか?
日本のニューエイジはまさにファッショナブルだけれど、それはなにもアンビエントやニューエイジといったジャンルだけではない。賞賛に値すべき音楽だから、一時的な流行で終わらないことを願うだけだよ。最近のニューエイジに集まる関心についてだが、バイヤーのAnthony PearsonとDouglas Mcgowan(2013年にシアトルのリイシュー・レーベルLight in the atticからリリースされたニューエイジのコンピレーションアルバム『I am the Center』を監修)、アーティストであるGreg Davisら、この三人が最初にその素晴らしさに気がついて、ブームの火つけ役となった人物だ。彼らは三人ともカリフォルニアで育っていて、ありとあらゆるレコード、そして異種混合化された文化に幸運にも触れることができたのさ。カリフォルニアがカルチャーの再盛期だった時だね。

普段ポートランドではどのような場所で演奏を行っていますか? Xハーチ(ポートランドの実験的なアーティストらが集うインディペンデントな共有スペース。元々教会であった場所を改築して、現在はヴァーチャル・メディアを用いたイベントや、アンビエント・ミュージック限定のショーなどを不定期で行っている)界隈の人たちと関わりが深そうに思えますが。
そうだね、Xハーチはできて以来、ずっとプレイしているお気に入りの場所だ。とても良いところだよ!RyanとBrenna Murphyが関わってVRのイベントも開催されているね。他で言えばHoloceneでもよくプレイしているし、S1ギャラリーも好きな場所だよ。

valve2

ポートランドにはMSHRやGolden Retriever、Grouper、Pulse Emitter、そしてあなたたちVisible Cloaksといった独自の音楽を追求しているアーティストがいますよね。ポートランドの電子音楽のシーンについてどう思われますか?またそういったポートランドの環境や土地性はインディペンデントな文化を育むに適しているのでしょうか?
君が挙げた人たちはみんな友達だけれど、BirchとBrennaは悲しいことに活動場所をニューヨークに移してしまったし、Grouperのリズは今オレゴンの海岸の方に住んでいて、街の方に来ることはほとんどない。そういったアーティストたちは個別にはいるけれど、電子音楽のシーンはまだまだ限られているよ。あくまでポートランドのシーンの基盤になっているのはロックやパンク、ハードコアといったジャンルさ。周縁のサブカルチャーを維持していくにはこの街は十分な大きさではないから、音楽活動だけで生計を立てるのは実際難しいのが現状だ。

あなた達のファースト・アルバムは昨年ポートランドに新しくオープンしたレコード屋でもある〈Musique Plastique〉からリリースされていますよね。
そこを経営しているTonyとLukeとは昔からの友達なんだ。かつて街のレコード屋でバイヤーとして働いていたことがあって、レコード屋を経営している知り合いが多いんだ。クリントンストリートにあるLittle Axeというレコード屋も素晴らしいよ。

最近のお気に入りの作品をいくつかリストアップしてください。
10枚を挙げるとすれば、
Hamlet Gonashvili – Georgian Folks Songs
Pepe Maina ‎– Scerizza
You’re Me – Plant Cell Division
Studio der frühen Musik – Vox Humana
Instrumental Music of the Kalahari San
John McGuire ‎– 48 Variations For Two Pianos
Gabriele Emde ‎– Die Natur Der Klänge – Neue Musik Für Harfe
Les Halles – Transient
Mayumi Miyata and Midori Takada – Nebula
Luis Cilia ‎– A Regra Do Fogo
かな。ちなみにSeaver and Witscherというポートランドの二人組が作る音楽は素晴らしいよ!

visiblecloaks2