By Yusuke Shono
ボルチモアのようなミニマルビートから、モジュラーシンセの実験的なサウンドまで、スケッチを描くようにさまざまな形態を持った電子音響が自在にその音を響かせる、2013年までに作られた未公開作品とリマスター音源。音楽とそうでないものの境界の上で遊びながら、BPMなどおかまいなしに自由自在にその姿を変化させていく。現代の既製品ではない音楽がだいたいそうであるように、けして入門者が入りやすいものではないが、そうではない音楽だけが持ち得る、新鮮な創造性が満ち満ちている。そのひとつが、変容の感覚かもしれない。放たれた音が描いた形を即興的に変化させ、喜びに満ちいた驚きを持続させていく。それはどの方向にも進んでいける、刺激に満ちた余白である。その可能性に満ちた世界で、わたしたちはダンスすることも、あたらしいビジョンを紡ぐことも、すべてなにもかもが可能なのである。