Joey Dosikの歌声を初めて聴いた時のことは今でもよく覚えている。それはあるアーティストの来日公演だった。バンドメンバーのひとりである彼はさらりと紹介された。オリジナル曲を披露するという。失礼ながら彼のことを知らなかった私は、特にこれといった感情は持たずにステージを見ていた。彼が歌い始めた瞬間、いわばニュートラルな状態だった私の中の針がぐわんとふれた。その場の空気が変わったのがはっきりとわかった。歌い出したとたん、その歌声に誰もがはっとしてひきつけられる……なんて物語の中だけのことだと思っていた。その時に披露された曲が、アルバム『Inside Voice』のタイトル曲“Inside Voice”。この曲の発売を、私は3年近く待っていたことになる。歌声からもジャケットの写真からも、彼の音楽をやる喜びが伝わってくる。そしてその喜びは、聴いているものを心地良くゆるめ、柔らかく満たしていく。