Interview with H.V.R.F. CENTRAL COMMAND

逃避から、新しい現実へ。Hardvapourを推進する
音楽レーベル〈H.V.R.F. CENTRAL COMMAND〉が発信する抵抗の試み。

Text: Yusuke Shono, Translation: chocolat

Vaporwaveから生まれたミームミュージックの新しい支流、Hardvapour。東ヨーロッパの都市の荒廃を思わせるその暗く硬質な厳しさをたたえたサウンドは、Vaporwaveの資本主義ユートピアと同様の虚構であることには変わりがないが、明るいユーモアから暗いユーモアへの転回といった気分の転向がある。高速に消費されるこの領域では変化こそが善なのだ。〈H.V.R.F. CENTRAL COMMAND〉は、そのHardvapourを最もハードに推し進める音楽レーベル。活動一年にしてアッパーに活動を続け、100作品ものリリースを達成。活動を記念したコンピレーション「HVRF-CC 100: VARIOUS ARTISTS – SAMPLER #4」をリリースした。多くのファンを過去へのノスタルジックな逃避に誘ってきたVaporwaveに対抗する姿勢や、さまざまな世のトピックに反応するかのように矢継ぎ早にリリースされるテーマ性のあるリリース。そこから伺える姿勢は、レーベル名に違わずアクティブで攻撃的。Hardvapourとはいったいなんなのか? そのミステリアスなその活動について、レーベルのオーナに聞いた。

拠点であるウクライナのPryp’Yat’はチェルノブイリで無人になった都市ですね。ウクライナという場所について、あなたの考えを聞かせて下さい。

Hardvapourの最初のレーベル〈ANTIFUR〉はウクライナのムィコーライウを拠点として始まった、だから、僕たちもウクライナをベースにすることにしたんだ。東ヨーロッパをストーリーの出発点にしたのは、それまでVaporwaveで探求されてきたものよりもずっと“ハード”な物語性を出すという意図があって。実際にウクライナ出身だっていうHardvapourのアーティストも何人かいて、ロシアとウクライナでの僕たちの知名度を上げるのに一役買ってくれているよ。ロシアとウクライナの友人たちとは素晴らしい相互作用が数多くある。

レーベルの名前に“Resistance”という単語が入っていますが、あなた方が抵抗しているものとはどんな存在ですか?

Vaporwaveのサウンドがずっと追い求めてる現実逃避や懐古主義的な思考に対する抵抗だよ。多くのVaporwaveのプロデューサーたちがHardvapourに宣戦布告して、自分たちのRedditやFacebookのグループでHardvapourについて語るのを禁止にしたけど、彼らは負けが見えている戦いを選んだんだ。彼らのほとんどは完全にクリエイティビティに欠けていたからさ。今、Hardvapourに取って代わられつつあって、そういったVaporwaveのプロデューサーたちの多くもHardvapourっていうジャンルを受け入れ始めてる。the Kroko_Borgのことばを借りると、彼らは“吸収”されてきているということだね。

実際の出来事に関係したコンピレーションがとても興味深いと思いました。「THIS IS THE ZODIAC SPEAKING​.​.​. “I AM NOT TED CRUZ”」や、「WORLD WAR 2020 – EPISODE FOUR (2016 VERSION​)​: WIKILEAKS VS. DNC」など。レーベルのコンピレーションに、実際の出来事を関係付けるのはなぜでしょうか?

さっきの質問の答えと同じような理由になるんだけど、過去へ逃避したVaporwaveに対して、僕たちはHardvapourを今世界で起こっていることについてのものにしようとしているんだ。どのHardvapourのリリースも全部そうっていうわけではないし、本質的にかなりフューチャリスティックなものも多いけど。でも、例えば、WIKILEAKSは、人々が彼らのリーダーや政治家をどのように信用している(あるいは、信用していない)かを形にするためによく起こる、現代の現象だ。だから、この主題では多くのアーティストが超高速でその解釈をして盛り上がったんだよ。WIKILEAKSで明らかにされた事実には、ほとんどの人がある程度興味を持っているものがとてもたくさんあるからね。

加えて、PZAの騒動を扱った“PZA FILES: THE FIRST SLICE”は秀逸でした。この作品が生まれた経緯をお聞きしてもいいでしょうか?

ありがとう! PZAが他のアンダーグラウンドのアーティストのトラックを盗んで、自分のトラックであるかのようにリリースして捕まったっていうスキャンダルがあって。その中には何も変えていないものもあったんだよ、曲のタイトルが違うだけ、とか。PZA FILESの製作者は、PZAのラジオでのインタビューを見つけてきて、そこから一部を抜き出して、そこにHVRFがさらにコラージュに加えるパーツを提供したんだ。すべてがすごく速くできた。そして、僕たちの人気のリリースになった。なんといっても、スキャンダルが起きていた、まさにその時だったからさ。その後も、僕たちがPZAと一緒にやっていることに驚くかもしれないけど、彼は謝罪したし、この事件以降はオリジナルの音楽だけをつくるって約束したから。僕たちは彼が作る音楽がとても好きだし、彼はセカンドチャンスを与えられるに値するアーティストだと思ってる。それに、基本的にほとんど全部盗まれた音楽でできてるジャンルの音楽を盗んだことでPZAは悪者にされているんだから、これは皮肉すぎるよね。

非常に幅広いアーティストたちが参加していますが、どのような基準でアーティストを選んでいるのでしょうか?

すべてまったくランダムに、だよ。そのアーティストのサウンドがどんなものか知る前に依頼することも多い。(レーベルに)合ったものを作る人たちかどうか、パーソナリティだけで推測する。だからある意味、基準を持つっていうのとは正反対だね。メールで連絡してくるアーティストもいる。多いのはTwitterで知り合ったアーティスト。どんなものにも可能性はあるから、僕たちはどの人の音楽も全部聴くことにしてる。

レーベルに影響を与えたものを教えて下さい。音楽でもなんでもかまいません。

そうだな、フォローしているYouTubeのチャンネルSTYXHEXENHAMMER666、もちろん、ALEX JONES & INFOWARSも。それ以外のYouTubeチャンネルだと、LIONEL NATION。僕らはチェスゲームが大好きで、 ヒカル・ナカムラっていうプレイヤーが気に入ってる。HVRFのアーティストDJ Raj Kapoorはヴィスワナータン・アーナンドのものすごく熱狂的なサポーターのひとりなんだ。Vishy(ヴィスワナータン)を驚かせて、ワールド・チェス・チャンピオンシップの歴史上最大の失敗をさせてしまったっていう、あの悪名高い“エアホーン事件”のは彼のせいだったんだよ。それから、毎週末マラソン形式でPS4のFIFAのゲームをやってるアーティストも多い。FALLOUT 4っていうゲームも僕らの美意識のもとになってる。あとは、ADIDAS、ロックバンドのPUDDLE OF MUDD、映画『HARDWARE』もあるね。NJPW(新日本プロレス)も僕たちにすごく大きな影響を与えてる。サクラ・ジェネシスやレッスルキングダム10での、オカダ・カズチカの柴田勝頼やケニー・オメガとの対戦の素晴らしさは、僕らのレーベルの参加者についての多大なインスピレーションになったよ。

Vaporwaveという音楽が生まれてからしばらく経ちますが、現行のシーンについてはどう思いますか?

僕たちの友人であるVapor Sleuthが最近こう言ってた。

“長いことこの街にいる。今、この辺りはゴーストタウンみたいだ。でも、正しい場所を探せば、まだ酔える。昨日のことのように思い出す。――あの時、狼の一群にふり返らずに角を曲がることはできなかった。今や、狼たちは見つけた肉を全部食べつくしてしまい、街を後にしたようだ。魂の抜けた企業ロゴの光を夜の空に発している見捨てられたメガタワー、その他には何もない。そのいくつかにまだ最新の修正をしようとしている猫たちもまだここにはいる。しかし、雨は降り続けている。この行き止まりの都市はいつも雨だ”

あなたの思うHardvapourの定義はどんなものでしょうか?

ルールはない。自由だよ。〈Dream Catalogue〉のHKEが、Neon Dystopiaとの昨年のインタビューで、Hardvapourを完璧に説明している。

“君が描いたhardvapourの絵はかなりてきとうだけれど、それでいてすごい解釈だ。しかし今、ただそれだけではない、それ以上のものになってきていると思う。全世界が、社会的にも政治的にも、完全に狂気でカオスの道に向かっているということを誰も否定できない。そして、僕にはHardvapourがこの物語の高速の変化を代表する新しい世界的な音楽のような気がするんだ。それは、第三次世界大戦というゲームが始まる前のサウンドで、不幸なことに僕たちは今現在もうそれが見えているところにいるらしい。Vaporwaveが奇妙な催眠麻痺状態に入っていく80年代や90年代のアメリカンドリームのサウンドだとしたら、Hardvapourは至福の見て見ぬふりから完全に目覚め、冷たく厳しい現実の世界を見つめるサウンドだ。しかし、そういった事実の中になぐさめを見つけ、僕たちがみなこの地球上にいるということを実感しようともしている。世界を救うことができるかもしれない。世界的な新しい音楽の形、全ての世界のための。”

今後のリリースについて教えていただけますか? 

次のリリースは、#100、100タイトル目になる。1年経たないうちに100タイトルリリースすることになる。とてもたくさんのアルバムが準備できているから、#100の後は、1週間に3タイトルリリースするスケジュールになる予定。たぶん、徐々にゆっくりになってはいくだろうけど。予測するのは難しいね。2020年になる前に戦争が始まって、僕らのリリース計画が途中になってしまうかもしれないと思うと恐ろしいよ。人間は絶滅する前に表現するものがまだまだたくさんあるよね。

HVRF-CC 100: VARIOUS ARTISTS – SAMPLER #4

H.V.R.F. CENTRAL COMMAND
https://hvrfcentralcommand.bandcamp.com