「京極流箏曲 新春譜」は、彫刻家/京極流2代目宗家 筝曲者/ハープ奏者の雨田光平が、昭和30年頃に青木繁が描いた神々のイメージを創作源に作曲したもの。本作品は、昭和45年に自主制作LPのために琴、笙、ハープを含めた6名で合奏・歌唱して収録したものと、日本古来の美や伝統芸能・民族芸能を電子音楽に昇華する音楽家SUGAI KENによるリワークが収録されており、大阪のレーベル〈EM Records〉よりリリースされた。かすかな心覚えをたどって聴くと、ハープと箏の音色が生み出す不思議な質感の倍音や、雅楽風の調弦や奏法を超えた古の明るく美しい世界観に心が洗われる。
一方、SUGAI KENのリワークは、暗くうっすら光が入る空間でどんどん物語が展開されていく。静けさ中に広がるけだるいリズム、縦横無尽に走る電子音や和の気配を纏ったフィールドレコーディングの群れたちが現代に「新春譜」を紐解き、聴こえないはずの演者同志の間合いや音の余白を体現している。終盤のモールス信号にはどんな意味が込められているのだろうか。