2017年はみなさんにとってどんな年でしたか? ふつふつと沸騰する日本の地下音楽シーンは、その土台を着実に固め、今年も数多くの素晴らしい作品を生み出しました。特に印象的だったのは、オンラインを経由したアンダーグラウンドの拡張を実際に体験する機会が多くあったこと。Infraフェスティバルの新世代クラブや、日本のアーティストと縁の深い〈angoisse〉のショーケース、そして150回目を迎えたK/A/T/O MASSACREなど、このシーンにいる多くの人々の情熱が結晶化したイベントを多く体験できた年でもありました。
またフィジカルリリースも多かった印象があります。日本からは、〈CNDMM〉の限定7インチシングルのコンセプトを感じるリリースの手法が印象に残りました。またミックスをアーカイブするプロジェクトGrey Matter Archivesや、Dirty Dirtさんと舘脇悠介さんのマンスリートークイベント”Buy Nowers Club”など、ゆっくりとだけど、さまざまな方向であたらしい何かが始まりをみせています。
ぼくらといえばやはり紙の雑誌を出すことができず、あまり沢山の人々を紹介できなかったことを悔んでいます。その代わりといってなんですが、この年の最後に今年よかったリリースのリストを作りました。ぼんやりとですが、そのうちMASSAGEでもなにか音源をリリースしてみたいとも思っています。
それでは今年の50です。順位が付けられないので、アルファベット順に並べてみました。
Ak. – uuuurrrraaaauuuunnnnyyyy
Snow Contemporaryでおこなわれたuraunyの展覧会の一部として構成された、ハードでダーティな6曲。uraunyと彼が集めたアーティストたちによって作られたこの展示は、普段意識に上らない禁忌を作品を介して体験するものだった。わたしたちはネットを介して、人々の欲望に毎日素手で触れている。集合的な欲望の痕跡は、加工された画像、文字、音のなかに見つけられる。切り刻まれ、捻じ曲げられたその残骸は、私たちの欲望が通過した軌跡であり、同時に自分自身が存在した証明なのだ。(S)
Aki Tsuyuko – Empty talk
もともとは2016年にリリースされていた自主制作CDが、LPとなって今年再び発売。生ピアノとキーボードから溢れでる音群たちは、偶然に交差しては互いを照らし合わせ、曇りは白に変わり、やがて透明となって消滅する、かのようにみえるが、じつはそこにいる。「ある」と「ない」の余白にじっと耳をすませば、かすかな息吹や震えにも似た、気配を感じることができるはずだ。イラストレーター松井一平氏によるジャケットからも、アルバムに潜む気配が共通して漂っており素晴らしい。(T)
Alma – イノセント・スキン
「救済」というより、「変容」のような感覚。その瞬間を目の当たりにできるライブはスペシャルだし、彼女の作品を買う行為にもやっぱり特別な意味が存在している。受注生産で作られるという「イノセント・スキン」は、カードを付属のHOLY WATERで浸すと浮かび上がったコードでデータのロックを解除できるというもの。USBには、作品のバックグラウンドになったストーリーが入っている。(S)
Asuna – Mille Drops
金沢在住、国内/外で活躍するサウンド・アーティストASUNAの、3曲入りの新作。フランスを拠点に活動するレーベルRECITから発表されたこの作品は「水や雨、水滴や波紋」をテーマとしながら、彼の作曲に一貫してみられる音の「発生」と「持続」を、より広義の意味と手法で捉え直したものといえる。アルバムタイトル曲である『Mille Drops』の、細かく砕かれた、断続的な音の粒子が集合体となって、大きなうねりを伴った波形を生み出す様子は、一滴の雫が結合して水溜を作るかの如く、滑らかで流動的な運動を描き出す。発生と減衰という音の自然的な現象が幾多にも重ね合いながら、全てはひとつのまとまりへと収斂していく。(T)
https://soundcloud.com/recit-rec/mille-drops
bonnounomukuro – HerbLessDUB
神戸を拠点に活動するbonnounomukuroのライブセットを〈New Masterpiece〉が音源化したもの。この世界のどこかに人知れず存在する音楽。偏在するその密やかな痕跡を耳をそばだてるようにしてわたしたちは聴く。繊細なテクスチャーにはさまざまな国を旅するような感覚があって、世界の裏側を覗いているような気持ちになる。(S)
ブギーアイドル – 音楽より遠く
過去に遡って、きらびやかで美しい日常にそっと触れる。クリアな音質、スムーズで心地よいムード、全てのディテールで破綻がない。楽天的で希望に溢れた資本主義の価値観も、今は夢と消えた。そんな幻となった希望や憧れ、都市のきらめきがくっきりとした輪郭で立ち上がる完璧なフューチャーファンク。(S)
Cemetery – Vessels
CONDOMINIMUMの主催者でもあるKota WatanabeのソロプロジェクトCemeteryの作品。柔らかくきらびやかな表情を持つメロディが、ゆっくりと揺れ動く光景を描き出すA面。そしてB面には、希望を描くように飛翔感のある旋律に心地よいドラムパートがフィーチャーされ、聴くものを幻想的な霧がかったサウンドの世界に引きずり込む。アンビエントをポップな感覚で昇華した、まさに今の感覚を持った作品。(S)
CRZKNY – MERIDIAN
広島の鬼才CRZKNYによる3枚目の3枚組アルバム。まるで大地を通して鳴っているような、重低音。再生する環境そのものが問われているような、極限に振り切れたその音はちょっと聴いたことがないバランス。遅れてやってくるようなテクノライクな質感のリズムは、その響きでありとあらゆるものを振動させる。(S)
CVN – XXXII
Nobuyuki SakumaことCVNによる2020年の東京オリンピックにインスパイアされたという作品。金属的な電子音響が、切り刻まれて破片となり、さまざまな質感を持つ抽象的な形を作り出す。音楽と音との間をチューニングされながら行き来するように、作り出された音の連なりが、ときに凶暴に、ときに優しく、不定形で歪な電気的グルーブを作り出していく。東京から拠点を移したCVNは、さまざまなアーティストのミックスをリリースするGrey Matter Archives も開始。独特のグラフィックにも素晴らしいセンスを発揮している。(S)
dagshenma – EDIROL
むき出しになったデジタルなテクスチャーの感触が嵐のように吹き荒れる。即興的につくられるエレクトロニックな彫刻みたいに、それはいまだ聴いたことのない新しい音の姿を次々と表出させる。これは可能性としての音楽なのかもしれない。抽象絵画のように、その孤立した存在感を楽しみたい。(S)
dok-s project – Daily Sound Collection
〈Orange Milk〉から日本人の作品が出るたび、自分の知らない音楽家がまだまだ日本にいるのだと驚かされるのだけど、dok-s projectもそんな感じで知ったうちの一人。このテープが届いたのが、東京在住最後の日だったとツイートしてたから、今はきっと東京ではないどこかで活動をしているのかもしれない。複雑な構造とリズムをまとってはいるけれど、どこかアナログ的な柔らかさも兼ね備えている。手を伸ばしたら届きそうなスケール感の幸福に、ほんの少しの切なさを漂わせた傑作。もっともっとたくさんの作品を聴いてみたいアーティスト。(S)
emamouse – Build a parallax
ゲームのBGMのような疾走感のあるインストルメンタルと、おなじみの不思議な歌詞とボーカルで構成されたアルバム。続々と打ち出されるシンセが作り出す独特のメロディには、過去でも未来でもあるようなどこか懐かしい感覚が宿る。皮膚という設定のマスクを被って行うパフォーマンス含めて、その背後でシュールで強固な世界観を作り出している。漫画のリリースや映像の発表なども、精力的に行っている。(S)
Enitokwa – o.n.s.a.
京都の老舗茶門屋「宇治香園」共同でのリリースとなる今作品は、茶園で録音されたフィールドレコーディング音や、実際に茶が器に注がれるまでの具体音といった生の音に、電子音やピアノが精密に配置されミックスされた、ドキュメンタリー手法がとられている。しかしそこには「記録」としての一面だけではなく、日常的時間と音楽的時間が互いを含有し、同調しあって、また別のひとつの姿が顕れている。「生活」という現実の次元、「音楽」という想像の次元、それぞれの境界が融和した、稀有な一枚。(T)
Former_Airline – The Discreet Charm of the Ghostmodern World
Former_Airlineの7番目のアルバム。冷たく研ぎ澄まされたミニマルなトラックと、幽玄的なノイズの配合が、不思議なハーモニーを奏でる。バリエーション豊かな音色が、独特のストイックさでゆっくりと重ねられていき、独特のダビーな音像を作り出していく。抽象的だけど、どこかユーモラスな構えもあって、とてもバランスがよい。レコードで聴いてみたい。(S)
日本の豊穣な地下シーンを50組のアーティストと楽曲で振り返る。50 Japanese track maker / musician 2017。#26-50
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