結構前の話ですが露骨KITの別名義、虫ミュージックの「月へ行くなら」というアルバムをよく聴いてた頃がありました。その独特の感触はどこにも当てはまらないパズルのピースのようで、当時はうまく形容するのが難しかった。時代がちょっと早すぎたのかなと思うと同時に、今ならそんな特異なスタイルの作品とも毎日のようにインターネットを介して出会える。幸せだけどちょっと恐ろしい時代になったと思うわけです。
そんなはまらないピースのような感覚に、ピタッと当てはまるような新しい名前があるかどうか。たとえばVaporwaveも今、その名前がなかったら集まることのなかった繊細な感覚の受け皿になっている側面がある。曖昧な感覚をより多くの人々の間で共有していくために、輪郭をはっきりさせていく仕事が必要なのは間違いないことです。
あまりしっかりした音楽メディアがない代わりに、その輪郭を描くことがもしかしたら今の音楽レーベルの役割なのかもしれません。日本にもいくつもレーベルがあるけれど、Vaporwaveと接続した〈New Masterpiece〉の最近のリリースが際立ってきている気がします。
ちょっと前にDiploがRihannaに曲を聴かせたとき、「空港でかかってるレゲエみたい」と発言したことが話題になりましたが、その逸話を受けて作られた架空のジャンル「エアポートレゲエ」を集めた〈New Masterpiece〉のコンピレーションは、ひねりが効いていて痛快、内容も非常に良かったです。最近の音楽家たちのメタ的な視点というのは、アカデミックなそれというより、あくまでも空想の奥に、夜中のチャットルーム的な感覚を確かに感じ取ることができる。その地に足がついた新しい生活感が私たちの同時代性なのだと感じます。
一方で、〈New Masterpiece〉は虹釜太郎の膨大なリリースを2週間に一度2作配信。別アカウントではありますが、故人となってしまったうっど漫まん aka WOODMANの作品をアーカイブするなど、過去に作り出されてきたさまざまな異色の感覚を持った音へのアクセスを作り出してもいます。
https://woodtapearchives.tumblr.com/post/156311755353/information
https://woodtapearchives.bandcamp.com
対照的に、札幌在住のVaporwaveアーティスト・豊平区民TOYOHIRAKUMINや、Vaporwave的な感触を更新した作品をリリースするSAYOHIMEBOUのリリースや、爆速で売り切れた『蒸気波要点ガイド』の発行などといった現代のあたらしい音楽性を紹介する仕事も行っています。日本の音楽の過去と現在をつなぎ合わせる彼の試みは、世代間の断絶が大きくなってしまった現在だからこそ、より価値のある刺激的な試みなのではないかと。今後のリリースも楽しみにしています。
北海道のvaporwaveレーベル〈seikomart〉へのインタビュー
http://newmasterpiece.tumblr.com/post/165762468663/seikomartinterview
New Masterpiece
https://newmasterpiece.bandcamp.com
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