音楽NFTが実現する、
新たな試聴体験とコミュニティの形

Text=Yusuke Shono

SNSのように新しいアーティストと繋がりを持つことができたMyspace、無料で音楽を聴くことができ、次々と新しい音楽を見つけることができたSoundCloud、そしてインディペンデントのレーベルや個人が作品を売ることができるBandcamp。音楽の領域には、時代精神を反映したプラットフォームが常に存在している。そして同時に、ミュージシャンや我々リスナー自身も、そうしたプラットフォームからの大きな影響を受けてきた。

しかし収益面では、ビジネスモデルが異なるために、プラットフォームごとのアーティストへの分配の比率は大きく異なっている。特にAppleMusicやSpotifyなどのストリーミングサービスでは、90%の収益がアーティストのトップ1%にしか分配されない、という問題点が指摘されている。

そんな現状に、新たな収益モデルを提案しているのが、音楽NFTを専門とするプラットフォーム群である。クリエイターが主役となるWeb3の世界において、その変化は音楽NFTにおいても例外ではない。

しかし言ってしまうと、プラットフォームからクリエイターへという力点の変化は、SoundCloudやBandcampがすでに実現してきたことでもある。特に無数のアーティストたち、個人である彼ら彼女らが最も力強く輝いてきたのが、この広大な音楽というフィールドなのである。そのためか、音楽NFTのプラットフォームはまだ実験段階で、デジタルアートに比べて目立った成果をまだ上げていないようにも見える。むしろ今の時点で音楽NFTの持つ可能性は、新しい試聴体験の形や、それによって作られるコミュニティの形を提示することにあるのかもしれない。

今回は、そんな音楽NFTプラットフォームの領域で独自の体験や可能性を提案しているサービスをいくつか紹介してみたい。

Async Art

Async Artは、音楽専門ではないが、ブロックチェーンならではの新しい試聴体験を創造することができるプラットフォームになっている。面白いのが、NFTアートを作る際に、マスターNFTとレイヤーNFTという2種類のNFTを重ね合わせることで、さまざまに変化させることができるNFTを作り出すことができるという点。音楽も同じく、ステムと呼ばれる別々のレイヤーを最大9つ持つことができる。例えば、歌詞の異なる9つの楽曲を1つのNFTにすることも可能となる。オーディエンスが試聴するたびに、最大362,880の固有の組み合わせから、新たな楽曲が生成される。カバーも同様の仕組みで変化させられるようである。

https://edition.async.art/blog/programmable-music-coming-to-async

royal

royalのサービスは、ほかの音楽NFTプラットフォームとまた違っていて面白い。アーティストは楽曲のロイヤリティの所有権を、NFTとして販売することが出来るのである。購入者は、購入した楽曲で発生するロイヤリティの分配を受けることができる。リスナーはお気に入りのアーティストが人気になれば、利益を直接受け取れる形になる。リスナーとミュージシャンが共に成長していける収益モデルとなっている。まだ今はアーリーアクセス状態で、アーティスト3LAUのロイヤリティのみの販売となっているが、今後ファンとのミュージシャンを繋ぐ様々なツールが実装されていく予定となっている。

https://royal.io

Catalog

Catalogは、アーティストが1枚もののデジタルレコードをプレス・販売するためのWeb3音楽プラットフォーム。アーティストがCatalogでレコードをプレスすると、Catalogの永久オープンライブラリに音楽がアーカイブされる。レコードを販売したり、オークションに出品することはもちろん、トークンゲートと呼ばれる、音楽NFTをコンテンツ、ウェブサイト、リンクなどの特別な特典などへの独占的なアクセス権としても使用できる。それにより、レコードの所有権に新たな付加価値が加えられる。アーティストは、最初の売上の100%を受け取り、レコードが再販されるたびに手数料を獲得する。たとえCatalogが消滅しても、NFTはプラットフォームを超えて生き続けるので、アーティストは自分の音楽の価値を永遠に獲得することができる。

https://beta.catalog.works

Sound

Soundは、音楽NFTを通じて、ミュージシャンとリスナーとの間にエクスクルーシブなコミュニティを作り出すメンバーシップクラブ。アーティストがよりコアなファンを獲得し、収益化することを目指すツール群を提供している。例えば、新曲をリリースすると、そのNFTにはエディションに基づく固有の番号が割り振られる。リスナーは初期のナンバリングを所有することで、新曲発表会での最前席を獲得する。リスナーが初期のサポートをアピールできるという仕組みだ。また、NFTの所有者は楽曲に対するコメントを行うインセンティブも与えられる。NFTを売却すると、そのコメントは消え、新たな所有者のものに置き換えられる。リスナー自身に楽曲の価値を高めるための機会が与えられるのである。同時に音楽NFTを、アーティストとリスナーがコラボレーションプロジェクトなどを通して交流するDiscord上のサウンドコミュニティへのアクセスパスとしても使用できる。

https://www.sound.xyz

MintSongs

MintSongsは、Polygonブロックチェーン上に構築された、アーティストが自身の楽曲をコミュニティに販売できるツール。アーティストはオーディオとアルバムアートワークを手数料なしで、NFTにミントすることができる。楽曲のNFT化の際にガス代としてMaticを貰えるようで、ミントの手軽さが大きな売りとなっている。また、新しいアーティストを見つけ、曲を購入することのできるマーケットも備えており、アーティストに持続可能な収益をもたらすことを目指すプラットフォームとなっている。

https://www.mintsongs.com

Audius

Audiusは、ブロックチェーンとトークンエコノミーを活用した音楽配信サービス。独立系のアーティストが多く楽曲を配信するSoundCloudから影響を受けており、SoundCloudのオルタナティブなプラットフォームとなることが目指されている。Audiusの大きな特徴が、独自通貨「AUDIO」の発行と供給をおこなっているという点。アーティストは楽曲がランキング入りすると、AUDIOを獲得できる。そして、AUDIOの保有比率によってAudiusの経営に関わることが出来る。サービスの永続性を確保するために、資金調達の方法とアーティストへの対価のシステムを両立しているのである。また最近「TikTok」と提携し、Audiusにアップロードの楽曲をTikTokにワンクリックで送信できるようになった。またそのサービスを、イーサリアムからSolanaに移行することが発表されている。

https://audius.co/

Arpeggi

Arpeggiは、クリエイターが音楽をオンチェーンで作曲・コラボレーション・販売を行うためのツールを提供する、唯一のブロックチェーン音楽作成プラットフォームである。ユーザーが自分の曲をチェーンに直接作曲してミントすることができるブラウザ内のデジタルオーディオワークステーション(DAW)、Arpeggi Studioを提供している。また、派生物を自由に作ることのできるCC0サンプルライブラリも備えている。特定のサーバーやIPFSにデータを保存する他の音楽NFTと異なり、楽曲のデータが直接イーサリアムのブロックチェーン上に保存されるため、そのデータは永続性を保証される。楽曲を作成するには、Arpeggi Studio Passが必要であるが、600しか鋳造されていないため、現在は二次流通で手に入れる必要がある。

https://www.arpeggi.io/

まとめ

音楽NFTプラットフォームは、現在多額の資金調達などで大きな注目を集めている。しかしそれらが、力強く活動を維持しているWeb2.0のサービス群の勢力を転換するほどのマーケットシェアを獲得できるかはまだ不確定だ。今はWeb3の思想をベースにしたさまざまなサービスが、独自にプラットフォームの実験を行っている段階と言えるだろう。しかしそのプラットフォームが描くアイデアの先には、多くのインディペンデントのアーティストたちが自身の表現で生活していける未来が垣間見える。そのヴィジョンこそ、多くの人々がこの新しいプラットフォームに魅力を感じるもう一つの理由なのだ。まずは、この先実現するかもしれない未来を感じることができる、NFT音楽プラットフォームの可能性をぜひ自身でも確かめてみてほしい。