Dirt on Tape Vol.01

カセットテープコレクターDirty Dirtがマンスリーでお送りする、連載第一回。カセットテープに関するあれやこれやをご紹介します。

Text: Dirty Dirt, Title: ancco

2015年はまさかなカセットテープのブーム、といってもレコードでいうそこまでではないけれども、あちらこちらの国でレーベルが乱立、アメリカ最後のカセットテープ工場が過去最高の黒字っていう事態にまでなって、〈Captured Tracks〉〈Drag City〉などUSのインディレーベルはレコードといっしょにカセットもリリースするのが普通になってるし、日本でも雑誌やテレビで取り上げられたり、中目黒に中古カセットテープのお店ができたり。でも日本ではどちらかというとノスタルジックなものっていう取り上げ方しかされてなくって、きょねんは現行のものばかり450本買った側としてはすこし残念だし歯がゆい。なので、ことしも現行のカセットのことについてすこしでも広めてゆければとおもい、現行のレーベルこと、その月でよかったものなどについてかいてゆければとおもいます。

この数年のブームのなかで特徴的なのはテクノだとおもいます。USのエクスペリメンタル、インディな方面は世間が盛り上がろうがどうだろうがカセットを出すだろうし、これまでも出してきたしで、なにがこれまでとちがうのかというと、UKをはじめとするテクノを主にだしてるレーベルの躍進があって。

UKといえばBasic HouseのStephen Bishop主宰な〈Opal Tapes〉がやはり有名だけれど、ここ2年のあいだのカセットブームをひっぱってきたのはやっぱり〈Where To Now? Reocords(WTN?)〉

2011年に発足、エクスペリメンタルな電子音楽を主にリリースしていて、これまでに〈Pan〉からもリリースするインダストリアルノイズのHelm、クラシックからアフリカ音楽までと幅広い音楽の知識とそれらを消化したテクノで注目を浴びる才女Beatrice Dillon、フィールドレコーディングに電子音が沈殿するポルトガルのOndness、モントリオール地下電子音楽の中心人物FDG-、フランスのインダストリアルテクノDecember、イタリアの映像的なサンプリング使いのドローン、テクノのMorkeblaなどなど、どちらかというとローカルなリリースが多いカセット界隈(それもカセットレーベルのよさではあるけれども)で、はじめからエクスペリメンタルな電子音楽に特化してさまざまな国のひとたちをリリースし、〈WTN?〉 らしさをしっかりとつくりあげてきていて。

音だけでなく、Jカード(レコードでいうジャケットの紙。折り返すかたちからJカードという)のデザイン面でも、これまでの電子音楽、ドローンだったらサイケデリックな紋様、コラージュだったりが主流なところに、それぞれの作品でかたちをかえた文字を配した鮮やかなリゾグラフ印刷で見た目もうつくしい。

音、デザインともにもっとも現行のカセットテープというものを体現している気がします。

もうひとつ、カセット界隈の盛り上がりを象徴してるレーベルとしてヴァンクーヴァーの〈1080p〉があって、ここもダンスミュージックを中心に、レコードきれるようなものを、ただただ出す、その身軽さ。DJ向けではないカセットテープっていうメディアで地下なダンスミュージックが量産されてるっていう流れが、おもしろい。そしてきょねんは両レーベルともにレコードにもちからをいれてきていて、Beatrice Dillonをはじめ、普段カセットをきかないあたりでも話題になってたりと、底力もしっかりあって。

〈WTN?〉 は東京のアンビエント新鋭H TAKAHASHI、大阪のミニマルアシッドTAKAHIRO MUKAIなど日本人のリリースもあるので、そのあたりからカセットに入ってみてはいかがでしょうか。

Beatrice Dillon ‘Blues Dances’
https://wheretonow.bandcamp.com/

 

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1月にきいたものでよかったものをいくつか。

ことしはなにか滑り出しが遅い気がします、各レーベル。そして年末に注文したものもなかなか届かなかったりして。そのなかでもよかったもの。

WANDA WANDA GROUP “A MAN MOVES OUT OF HIS SKELTON”
http://sunaraw.com/sunarkshop.html#WANDA

Sun ArawのCameron StallonesのレーベルSun Arkから。

これまでにWTN? や〈NNA Tapes〉などからリリースしてきたLouis Johnstoneによるノイズ、フィールドレコーディング。正直、毎作なにをやってるのかわからない。微弱な電子音やサンプリング、フィールドレコーディング、それらをかきけしてゆくノイズ。これまでの作品のなかではかなりノイズな質は抑えめだけれども、明るい雰囲気の会話なフィールドレコーディングにうっすら闇が迫ってきてるようでこわくてよいです。

Cameron StallonesはバルセロナのParalaxe Editionsから写真集を出すなどヴィジュアル面でも活動していて、Jカードのデザインもよいです。
http://www.sunaraw.com/sunarkshopzone.html


P.H.O.R.K. “Time Is The Instrument”

ニューヨークのPastel Voidsから。

実はまだ現物が届いていないんだけれどもガマンしきれずにきいてしまってます。これまでに〈Opal Tapes〉、〈NNA Tapes〉、〈Noumenal Loom〉などカセット界隈主要レーベルをわたりあるいてきたLAのNeal Reinaldaの新作。

声サンプリングを細切れにしてミニマルなビートのうえに舞い散らせたり、そこにノイズのサイケデリックな舞い上がりや、変異電子音を飛び散らせたりという音のつくりが独特で。今作は声のサンプリングをなくし、よりミニマルなつくりに。それぞれ長尺な曲たちはミニマルにつきすすむなか、ノイズとともにまいあがってゆく高揚感。

0006668509_10 https://solitudesolutions.bandcamp.com/merch/kdk-8-rottenlava-mother-c
Rottenlava “MOTHER C”

東京のレーベル〈Solitude Solutions〉からRottenlavaの初リリース。

台湾留学経験のある東京の作家。これまではノイズ、ドローンを主に制作、演奏していたのが、テクノ化しています。PCではなくアナログな機材を使ってな冷たいビートとその背後にうっすら流れる郷愁ドローン。早急なビートの唐突さ、そしてドローンの音がアジアなかんじがあってとてもよいです。

Dirty Dirt
現行のカセットテープコレクター。2015年は450本購入。カセットテープに関するブログ、zine、雑誌への寄稿、たまにカセットDJなど、現行のカセットテープのことならなんでも。 http://dirtydirt2.blogspot.jp