Jan Jelinek – Zwischen

ジョン・ケージ、スラヴォイ・ジジェク、レディー・ガガ、ヨーゼフ・ボイス、シュトックハウゼン、マルクス・エルンストといった、見慣れた思想家や芸術家、文化人の名前と共に、それぞれに与えられた、質問のような疑問文。作名には決してふさわしくない固有名詞と、長々とした文章の組み合わせがタイトルとして羅列する、ヤン・イェリネックの新作『Zwischen』は、ドイツの公共ラジオ局のために制作された音源集であり、同局で行われたインタビューの回答を素材として用いたコラージュ作品。ただし、抜粋された言葉は全て、正確にいえば「言葉」ではなく、タイトル『Zwischen』の訳に当たる「between」≒「間」、つまり言葉と言葉のつなぎ目となる、話し手の意図しない余白の音声部分である。通常の会話において、直接的な意味以外に、パラ言語と呼ばれるアクセントや身振り、イントネーションといった周辺的側面を含めて、話し手は言葉を伝達する。このアルバムではその中でも、ポーズ、しかもそれがスムーズに行われ損なった箇所だけがフォーカスされており、例えば言葉の頭に着く無駄な音(「あ〜」のような)や吃音、ブレス、口腔内の摩擦音、あるいは伸ばされた語尾、といった二次的な伝達レベルにおけるエラーが切り取られては、執拗に繰り返し、変調されている。会話において捨象される無駄な発音が、一つのサウンドという単位で音楽内に用いられたとき、現れるのは「言葉の残滓」とも言うべき疵や綻びが彷徨する、異様なまでに不気味で艶かしい音響空間。もはやそこでは固有性は完全に失われ、所有者を離れ、ヴェールを剥ぎ取られた無数の塊が、ぽっかりと宙に浮かぶ。傑作『Loop-Finding-Jazz-Records』で見られる卓越したサンプリングの手法を、イェリネックは今作でさらに細かく突き詰めて脱構築し、入念に練られたミュージック・コンクレートへと仕上げた。