Nile Koetting “Sustainable Hours”

アーティストNile Koettingが提唱するAmazon時代のレディメイド。
無機的なものの調和が作り出す、人なき世界の気配。

Text: Yusuke Shono, Photograph: Yoshihiro Inada

Nile Koettingは「無機的なもの」を「身体」と水平線上に見る視点から映像・インスタレーション・サウンドアート・パフォーマンスなどの分野で活動する、神奈川生まれでベルリン在住のアーティスト。その彼が銀座のメゾンエルメスで開催中の異色の3名のアーティストが名を連ねる「曖昧な関係」展にてインスタレーション「Sustainable Hours」を公開した。

展示空間に並べられているのは、無線LAN、ダイソンの加湿器、スピーカー、時計といった現代的な製品たち。それらが各々の時間軸で稼働し、空間に見えない影響を与えていく。展示物はAmazonで購入したというまさに現代のレディメイドであり、今風にデザインされたプロダクツは発光するLEDを備え付けられ、高度な資本主義が削り出した現代彫刻といった雰囲気を醸し出している。レタッチされた広告写真を思わせる漂白された空間の中で、個性的な機械たちが発生させる光、音、香りが一日を通して変化し、環境そのものが全体として音楽のような有機的な体験を作り出す。持続した緊張を破るように、時折、電子的に合成された音声がさまざまな年代のパンクバンドの歌詞を朗読していく。

この展示の特徴は、展示物たちを稼働させているエネルギーが自然光から採取され、蓄電池から機械群へと供給されている点だろう。展示空間の中で完結するように設計された閉じたエコシステムの中で、無機的な存在は製造主の意図から解放され生命のような気配を獲得する。同時にそれは人間なしで機械たちが労働を続けるバイオスフィアのような、荒涼とした光景のようにも思える。

何もないことに美を見出す、すなわち無の肯定がパンクカルチャーの特性なのだとしたら、Nile Koettingが共鳴するパンクの空虚は人間が不在であるという点がとても独特だ。わたしたちは非人間的なものに美しさを感じることができるが、けして自分自身は身体を捨てることのできないという矛盾を抱えている。だから人間なき後のモノとモノの関係の調和は、とても奇妙な感覚を呼び覚ます。テクノロジーは人間を超えていくだろうという予感。そこに自分がいないことの孤独感、自立した子供の自立を味わうのに似た喜び。そしてそれらのアンビバレンス。

Nile Koetting
http://nileshaw.org

「曖昧な関係」展
会場:銀座メゾンエルメス フォーラム
住所:東京都中央区銀座5-4-1 8階
会期: 12月21日~17年2月26日
時間:11:00~20:00(日曜日は19:00まで、入場は閉館の30分前まで)
入場無料
http://www.maisonhermes.jp/ginza/