Tujiko Noriko - Kuro(OST)

現在はパリを拠点に活動しているツジコノリコが、映像作家のジョージ・コヤマと共同で制作した
2017年発表の長編映画「Kuro」のオリジナル・サウンドトラック集。監督・脚本・主演をツジコが務めているほか、この劇伴も彼女が手がけている。パリに住む日本人ロミは、麻痺状態になったフランス人の恋人ミルを介護しながら生活している。ロミはミルに、二人が共に日本に住んでいた頃に経験した、とある話を語り始める。それは介護士としてロミが老人オノの家に住み込みで働くようになり、そこにミルが移り住んでから始まった、謎に満ちた出来事だった…という物語なのだが、映像と音、お互いが別々の次元に位置しながらも、関係を及ぼし合うという構成のギミックが、プロットに従属されない重層的な空間を作り出し、怪談話や民話、奇譚とも判別のつかない独自の異様さ、深淵な空間をあらわにしていく。ツジコ本人のモノローグによって出来事のあらましが語られていく中、画面が淡々と捉えるのは、描写された部屋や場所の、年月が経って荒廃した姿。過去と現在、映像とモノローグのあわいで、暗雲が立ち込めながらも温かみを帯びた電子音が、両者の衝突や空白を縫いながら、恐怖と居心地の良さが一体となったような、いいがたい感覚を紡いでいく。個人的には、ツジコがおぼろげに歌う「ゴンドラの唄」に心を打たれていたのだが、映画内のシーンでみると意外な印象を受けた。映画は彼らのオフィシャルサイトのVimeoページから見ることができるので、音楽だけ聴いた人はぜひチェックを。