ロンドンのクラブ・シーンを牽引し、進化させてきたナイトクラブfabricを救うための111曲収録のコンピレーションがリリース #savefabric

ロンドンのクラブ・シーンを牽引してきたナイトクラブ、fabricを救うためのコンピレーションが先日リリースされました。

fabricはさまざまな文化をハイブリッドし、進化させてきたロンドンという都市を象徴するようなナイトクラブ。しかし、今年始めにクラブ内で10代の少年がドラッグにより亡くなるという事故が起きたことをきっかけに、営業ライセンスが停止され、1999年の開店以来17年に渡る歴史に一旦幕を下ろしている状況です。

警察から「ドラッグの温床」と呼ばれてしまっている現在の状況に対して、fabricはセキュリティー体制の見直しなどを行いながら、“Save fabric”の看板をクラブの玄関に掲げ、閉店という事態の見直しを図るためのメッセージを発信。今後のアクションのための費用を捻出するため、募金や支援のためのグッズを販売するなどさまざまな活動を展開してきました。

さらに、外部メディアやアーティスト、そしてクラブ・ミュージックを愛する多くの人々からの支援も始まりました。たとえば、fabricの閉店をきっかけに現在のクラブ・カルチャーについての討論会を催したり、Clams Casinoのようなアーティストはフリーで音源を配付。また、ある青年は24時間耐久で踊り続け寄付を呼び掛けるなど、有名無名、規模の大小を問わずに様々なアクションが展開されています。

そのほか、これまでの活動と現在の状況については#savefabricのハッシュタグを追うことで確認することができますが、上述したfabricへの寄付は9月末までに£300,000(日本円換算でおよそ4500万円)にも上ります。

今回リリースされたコンピレーションは義援金を募る活動の一環であると同時に、これまでfabricを支え、またfabricに支えられてきたイギリスに留まらずヨーロッパ、そして世界のエレクトロニック・ミュージックのアーティストたちからの「恩返し」とも言えるものとなっています。

コンピレーションには様々なジャンルで影響力をもつアーティストによる新曲や未発表曲などが合計111曲も収録。提供しているアーティストを見れば、先に述べたようにfabricがジャンルを横断しながらエレクトロニック・ミュージック全体の進化にとって如何に重要な場所であったかがわかるでしょう。

たとえばµ-ZiqやClarkといった電子音楽のレフトフィールドからダンスフロアを繋いできたアーティストがいる一方、SkreamやRuskoといったダブステップの黎明期からシーンを膨らませてきた立役者、またロンドンのベース・ミュージックにおける現在のトップランナーの1人であるPalemanなども顔を並べています。他にもレイブカルチャーの再興を牽引するSpecial Request、最先端のUKガラージを鳴らすtqdなど、イギリスのクラブ・カルチャーの長い歴史を象徴するような人選です。もちろん、イギリス以外からもRoman Flügel やMachinedrum、FiSなど様々な国、ジャンルから楽曲提供がなされています。

大型のクラブであるfabricの内部は3つの「ROOM」というフロアで構成され、一晩で3つの異なるパーティーが共存できます。多岐にわたるジャンルを牽引するアーティストやレーベルがそれぞれのROOMでフロアを沸かせることで、音楽はさらにハイブリットなものへ、そしてシーンはますます大きくなっていきました。つまり、fabricは多くのシーンにとって「ゆりかご」のような場所と言えます。fabricがどれほど大きな存在だったのかをコンピレーションに収められた111曲を聴く事により鮮明に理解できるのではないでしょうか。

Fabricという1つのクラブを救うためだけでなく、この先の全てのエレクトロニック・ミュージックの発展のためにも、更なる支援と注目が必要とされています。まずは一聴を。そして希望を繋ぐためにも是非、サポートを。

本コンピレーションのリリースに際してのfabricによる声明

fabricの閉店は、援助への15万筆以上の署名から我々の法的な戦いを支援する30万ポンド以上の義援金に至るまでの、完璧なまでに控えめでありつつも圧倒的なリアクションを引き起こしました。支援は、抑圧され営業停止とされている数多くの異なる会場にて義援金を募るイベントとともに、さまざまな方面から集っています。この反応は完璧なまでに、電子音楽のコミュニティが示す全てを要約したものです。

〈Fabric Records〉と アーティスト主導レーベルである〈Houndstooth〉はともに、このような魂を埋め込むことになる作品のリリースは我々のコミュニティがもつ集団としての力を示す、さらに強力な方法であると決意しました。我々は上記2つのレーベルと親交のあるアーティストに、素早く行動することが必要であり、合計たった3週間の〆切で始めからマスターを仕上げるまで頼みながら、我々の運動のために1トラックを提供してもらえるように依頼しました。その要点とは、我々に新曲か古いクラシック・トラックの別バージョンを未発表曲として提供してもらいたいというシンプルなものです。

驚異的な楽曲を届けてくれたアーティストたちの陣立てを含め、我々からの依頼への返事は期待をはるかに上回るものでした。この寛大さを考慮し,最終的に適した順番にすることを意図して、アルファベット順にして提供された全ての楽曲がこのリリースに含まれています。

ツアーや時間的制約のため、実際にはさらに多くのアーティストが関わっていただけたでしょうし、寛大にも所属アーティストに楽曲の提供を許可していただいたすべてのレーベルには、いくら感謝を捧げても十分ではありません。

プレイリストの時代において、このコンピレーションは実験的冒険という電子音楽の周縁からダンスフロアに対応したものまで、電子音楽の包括的な要約を表すものです。

Fabricの長期的な将来を左右するであろう裁判の日を前に、このコンピレーションをこの瞬間のドキュメントとしてだけでなく、fabricの全てを完全に体現し,表すものとして我々は発表したく思います。

(Text: 中村繁)