Ragnar Grippe – Symphonic Songs


70年代中期から現在にいたるまで精力的に活動を続けてきたスウェーデン出身の電子音楽家、ラグナー・グリッペの1980年の貴重な未発表音源集が〈Dais records〉より2枚組のLPでリリース。アートワークを手がけるのはAscetic Houseの主宰者でもあるJS Aurelius。クラシック音楽の演奏者としてのキャリアを若くして諦めたラグナーは、当時彼にとっては未知の領域であった電子音楽を追求するために、フランスのGroupe de Recherches Musicale(GRM)で本格的に作曲を学び、その後大学での研究を続けながら、実験音楽の分野で着実に才能を開眼させていく。この『Symphonic Songs』はコンテンポラリー・ダンスの振付師であるスーザン・バージュからの依頼を受け、彼女の新作公演の劇伴のために用意された作品。音楽史に名を残した77年の怪デビュー作『Sand』が、もともと交流のあったリュック・フェラーリが個人運営するALMスタジオで録音されたのに対し、今作はミュージックコンクレート/エレクトロアコースティック界ではGRMやIRCAMと肩を並べて知られる、ラグナーにとっては馴染みの深い地元ストックホルムのElektronmusikstudion(EMS)で録音された。ブックラシンセイザーやマルチトラックレコーダーをはじめ、潤沢な機材が揃ったEMSスタジオの環境のおかげで、前作には見られない新たな挑戦が色々試みられている。「Sand」のコンクレートかつミニマルなテクスチャー(前述したスタジオでの機材の制約が翻って、こういう独自の音楽性が編み出されたのか)は消失し、今作では異なるレイヤー同士を重ね合わせながら、ブックラによるサウンド実験を心ゆくまで楽しんでいる。全体で80分を超える長尺で、劇場面に沿った音のパートがどんどん繋がれていくという構成のため、特に一貫したテーマ性は見られないのだが、電子変調された男女の声音や突発的な金属音の挿入が緊張感を持続させながら、ぬめりを帯びた音の弛緩と収縮が繰り返され、独特の飽和した感覚がなんとも居心地良い。ちなみに実験度全開のこの作品の翌年に発表された『Lost Secrets』では一転して鮮やかなニューウェーブ色のバンドサウンドを披露していて、現在の視点からは全く不可解な、クロスオーバーともいえないこういう音楽性の脈絡のなさは、ある種テクノロジーがジャンルを先行していた時代の特権性を示すものでもあって面白い。