Anne Imhof – Faust


2017年のヴェネチア・ビエンナーレで金獅子賞を受賞したAnne Imhofのパフォーマンス作品「Faust」のサウンドトラック。〈PAN〉レーベルのオフシュートとしてリリースされた。ヴェネツィアに旅行した際に幸運にも遭遇することができたビエンナーレの会場で展開されていた彼女の作品は、ドイツ館の建物をガラスの床板と壁で仕切った空間の中で、インスタレーション作品の中で散発的に行われるパフォーマンスを鑑賞するというもの。優美な動きを見せるドーベルマン(動物愛護の観点から後に廃止された)、さまざまな場所に配された存在感を放つパフォーマー、日常を切り出したかのうような断片的で幻想的なイメージがオペラとともに観客と演者の間に折り重ねられていくという、多層的な構造を持った作品だった。多くの人々が詰めかける場で鑑賞するには複雑すぎる作品であり、そのエッセンスを掴めたとは言い難いが、そのような場でも印象に残ったのはサウンドであった。中心となるのはパフォーマであるEliza DouglasとFranziska Aignerによって書かれ歌われる物語性を持った3つのオペラだが、Billy Bultheelによるインダストリアルに歪められた抽象的なピースが、インターリュードのように場面を転換する。その基底にあるのはメタリックで電子的な響きを持った憂鬱なムードであり、その多次元的な構造を展開しながらゆっくりと聴くものを人工的な高揚へと導いていく。20代には、クラブやテクノの文化が花開いていたフランクフルトで、クラブのバウンサーとして働き、コミューンで作曲などを手掛けていたという彼女の作品には、アートや音楽だけでない多様な文化の壁を横断するような姿勢を感じる。空間と時間をイメージの力で繋ぎその閉塞を外へと打ち破ろうという意思を感じるパフォーマンスの一方で、ヨーロッパの音楽の歴史性を反映したかのようにも聴こえるこのサウンドには、むしろカオティックなエネルギーを内向きに凝縮させたような印象を放つ。

Faust by Anne Imhof