本作はLondon Contemporary Orchestra とのセッションを基礎とするもので、その試みは2016年に始まる。クラシカルな楽器と同時にビニールのレジ袋なども楽器として採用しつつ、Actressの鳴らす不穏なノイズとともにさまざまな表情を見せる。Actressは古典と現代という時代の軸において対置される要素(楽器)を組み合わせて、未来を目指す音楽的な実験を行いながら-興味深いことに-オーケストラのメンバーとセッションを行ったロンドンのBarbicanという文化施設の設計図も参考にしている。Barbicanはコンクリートの打ちっぱなしが印象的な、合理主義に貫かれたブルータリズムの流れにある建築物である。コンクリートのように、Actressの音楽はいつも冷たい。しかし、その音像は暗闇の中で揺れ動くカーテンのようで、その風景がどこから来たのか、そしてどこへ聴き手を導くのかは不明瞭である。断片的に分析すればそこにはテクノやハウス、ヒップホップの姿が見えてくる。しかし、その肩を叩いても表情まで確認することはできない。幾重にも重ねられた生地のような音楽ともいえるだろうか。そのインダストリアルな感触はモダニズムと結びつくものだが、本作での音楽的実験によりさらに増幅された「(カーテンのように動く人間の心の)ゆれ」のような不確実性こそ、合理主義とは切り離された「何か」であり、だからこそ聴き手を揺さぶってくれる。冷たくて果てのない建物の中で。