本作のタイトルは、“A land without a people for a people without a land”(土地をもたない人々のための、人々のいない土地)からの引用だろう。これは現在に至るまで様々な場面で引用されるフレーズであり、「シオニズム」(ユダヤ人によるイスラエル復興を目指す運動)の文脈で用いられてきた。このフレーズを引用しつつ、その頭にNEVERという否定の語を配している。ここに、その土地に住んでいたパレスチナ人の存在を広め、売上を募金することで彼らをサポートしようとするキュレーターのJaclyn Kendallの強い意志があらわれている。また音楽は社会においてどんな力を持ちうるのかと、改めて考えさせられる。本作は30名のアーティストから提供された楽曲を収録している。たとえば〈L.I.E.S〉や〈Desire〉からリリースを重ねてきたS. Englishをはじめとしたロウなテクノ/ハウスが取り上げられる中、白眉と言えるのはObject Blueの神経症的でありながら、揺れるリズムが4/4のリズムを脱構築するトラックだろう。参加アーティストはいずれもカセットテープのリリースを主にするような、アンダーグラウンドでフレッシュな面々だが,そのバラエティとクオリティには舌を巻く。彼らの楽曲を音そのものとして楽しむならば、ロウでインダストリアルな、昨今のテクノ/ハウスの流れを押さえたものだといえる。しかし、音楽は言うまでもなく音の組み合わせたもの以上の「何か」である。ダンス・ミュージックがマイノリティを包摂する機能を持つ文化であれば、それはパレスチナやイスラエルに暮らす人々に対してどのような意味を持つことができるのか。音楽が力であるとすれば、その力を連帯につなげるために受け手に求められるのは享楽だけでは不十分だ。このアルバムはそんな消費を許さない力強さがある。ヒリヒリとした空気で満たされているし、その空気こそがある種の連帯を示しているのかもしれない。音楽に政治を持ち込むな?そんな享楽はここでは許されていない。