高校生のときの自分にとって、音楽の全ての基準は「速さ」にかかっていた。毎日謎にわき出てくるフラストレーションや虚無の感情をもろとも打ち消してくれるハードコアパンクは救世主的な存在で、速度と音量とエネルギーのマキシマムを追求する美学は、参照する見識や価値観を持ち合わせていない当時の自分にとって、極めて単純明快な存在でリアリティーにあふれており、信頼を置いて身を委ねることができた。速さに対してそんな一端のエモい感情を抱いていた自分だったが、ウガンダのNyege Nyege TapesからリリースされたSisso a.k.a モハメド・ハムザ・アレーのデビュー作『Mateso』はかつての自らの感傷を一蹴してくれるくらい、尋常じゃないレベルの速さだった。同レーベルからリリースされ昨年話題を集めた『Sounds of Sisso』は、「Singeli」と呼ばれるタンザニア発祥の新しいダンスミュージックのアーティスト達をフィーチャーしたコンピレーションアルバムだったが、Sissoは若くして(現在25歳)そのシーンを担っている中核人物の一人。Singeli自体はガバやハッピーハードコアに比較されるが、平均BPM200以上の圧倒的なテンポに加え、低音よりも高音を強調して生まれるチープで意味不明なドライブ感と、ローカルな音楽エッセンスを多分に取り入れつつ、それらをハイピッチにして繰り返す催眠的ループ(Carl Stoneを彷彿とさせる?)を掛け合わせたSissoのサウンドは、西欧産のクラブミュージックとは全く異なったリズムと狂気を放っている。これはアフリカという土地固有の時間史観や、鋭敏なリズム感性から由来しているのか、それとも切迫する現実社会への何らかのアンチテーゼを示しているのか…。 その理由が何にせよ、こちらのイマジネーションを差し挟む余地もないほどに、彼の音楽は確かな強度を持って、底抜けの明るさと美しさと速さを呈している。