Leif- Loom Dream

言うまでもないが、音楽は作り手の意図やそこに込めた気持ちからはこぼれていくものだ。ある音がどのように受け止められるかは、個々のリスナーやメディアによるジャンルに落とし込もうという試みによるものだが、音楽の鳴らされる場としてインターネットの影響が強くなり、ジャンルが細分化され、一つの確固たる区分がますます効力を失いつつある現在では当然にリスナーの感じ方に左右される(もちろん、そこで「批評」の形が変わっていくことは言うまでもない)。時々の大小さまざまな音の流行りはある中で、作り手は確固とした「自分らしさ」を打ち出す必要があるのかもしれない。
 ロンドンのレーベル〈Whities〉は上述のような状況の中で、ベースやエクスペリメンタル、そしてテクノといったキーワードではくくられようが、「自分らしさ」をわかりやすく打ち出すことなく、奇妙な存在であり続けてきた。KowtonやAvalon Emerson、そしてMinor ScienceやGiant Swanなど多様なラインナップからも「わかりにくさ」を打ち出すその姿勢を感じることができるだろう。そんなレーベルの最新作の一つが、これまで決して目立つリリースはなかったが着実に支持を得てきたLeifによるLoom Dreamである。アンビエント、そしてニューエイジへの注目が強まる昨今の流れを考慮すれば、Leifの新作は快く迎えられるだろう。しかし、そこは〈Whities〉である。リスナーからの一方的な「定義」をさらりと避けていくような音が迎えてくれる。
  Leifのこれまでの作品は、一言でいえばおとなしく耽美的なものであった。〈UntilMyHeartStops〉からリリースされた前作Taraxacumではエクスペリメンタルな要素はちりばめられているものの、基軸としてのディープハウスはしっかりと聴きとれていた。つまり、クラブ・トラックとしても機能するようなものであった。しかし、今作の基軸は一聴してはわかりにくいかもしれない。全体で34分ほどの短いミニアルバムは17分ずつ、つまりA面とB面にわかれていてそれぞれが1トラックとして聴くことができる。フィールドレコーディングによるものと予想される音が鳴っていく中で、リスナーは「アンビエント」という言葉を持ち込むだろう。しかし、その中でゆっくりとキックが入ってくる。その音はまさしくUKのベースのそれである。もちろん、たとえばRandomerなどUKベースにおけるテクノとトライバルを狂気的に混ぜ合わせたものとは音はまったく異なる。あくまでも自然に、あらゆるバランスが計算されたうえで、アンビエントともベース・ミュージックとも聴くことが可能な、ある種の違和感と気持ちよさが同居している。眠ることも踊ることも許されている。
 音楽がBGMとして流されている場所にいく度に、その音楽の意味や機能について考えてしまう。メッセージを与えるもの、ある種のメタメッセージを与えるものなど様々だろう。癒されてもいい。踊ってもよい。ぼく個人は、Leifの音楽をBGMとして聴くことは難しい。新たに環境を作り出すもの(としてのアンビエント・ミュージック)であっても、何かしらの環境に上手くフィットするように使える便利なものとは思えないからだ。機能性といったリスナーの都合によって容易に消費されず、聴き手の耳を文字通り奪っていく。おとなしい音と思われることもあるかもしれないが、強力なミュータントである。(N)