11月14日、seihoのアルバム「collapse」より「Peach and Pomegranate」の360度のミュージックビデオが公開されました。
Matthewdavid主宰のLEAVING RECORDSからLPレコードとしても発売された「collapse」ですが、水の滴る音や絶妙に変化するノイズが組み合わさった実験的な一枚です。音圧が増幅してから転調するダンスミュージックらしい曲調の中、音と音の間の空白、鳴り響くカウベル、艶やかな女性の声。Electronica、ジャズ、IDM、Acid、Vaporwaveといったさまざまなジャンルの音楽がミックスされていると感じます。
seiho, Peach and Pomegranate
調べてみたところ2015年の5月ぐらいからYoutube上には360度のVRミュージックビデオが登場していて、IDM系のアーティストではSquarepusherが「Stor Eiglass」のMVを公開しています。アイドルやバンドも360度ミュージックビデオを公開していますが、今回はVaporwaveのVR、360度のミュージックビデオをご紹介したいと思います。
360度見渡すことができる動画ですのでPC環境か、スマートデバイスからは動画右下のアイコンからYoutubeアプリでご覧になるのをオススメします。
WHEREAREYOU Feat. FrankJavCee’s VaporTrap (360 VR) 4k 60FPS
この曲を構成しているPCの起動音やアラート音などは、だれもが一度は聞いたことがあるサウンド。背景にはWindowsのロゴやエラー画面、メーラーなどのアプリケーションのアイコンが飛び交い、ほとんどの音とビジュアルが既成のオブジェクトによって構成されていることが分かります。空間を感じるキック、細かく刻まれるハイハットやサンプルの連打、アナログなパッドが遠い場所で鳴り響き、その緩急は異次元へのトリップを誘う陶酔感を呼び起こします。既成のオブジェクトをサンプリングして、新しいものを創造するVaporwaveの特徴が表現された作品なのではないでしょうか。
#dicksoutforharambe: Legends Never Die – Harambe tribute (360/VR Video) 4K 60FPS
「dicks out for harambe」という危なげな曲名ですが、Harambeとは2016年5月にアメリカのオハイオ州で射殺されてしまったゴリラのこと。徐々に聴こえてくるシンセリードのアルペジオがアシッドのように蠢き、キックの裏で鳴るパッドにより、独特のグルーヴが生まれています。振り返ると彼の写真(思い出)は消えていますが、それは歴史の儚さを表しているかもしれません。
Bengfang – Never Ends (Official 360 VR Music Video)
この曲の中で出てくる「奔放」の意味は「常識や規範にとらわれないで、自分の思うままに振る舞うこと」で、そのタイトルからも彼の音楽性を感じることができる。映像は建造物の中から、サイケデリックな背景の空間へと変化していき、#dicksoutforharambeのMV同様、視点は次々と新しいシーンへと突入していく。バンドの360度MVビデオの視点は固定されたものが多いですが、Vaporwaveの360度MVにおいて視点は移動していくものが多い。刻々と変容していくインターネットカルチャーを表現しているのでしょうか。
今回紹介したものはあくまでも一部分で、いつなくなるかもわからない蒸気(Vapor)のようなもの。2015年10月ぐらいからはVaporwaveと並行してSIMPSONWAVEがインターネット上の掲示板にアップされはじめ、その作り方までアップされています。
Guide to Simpsonwave
Vaporwaveというインターネット上に散開した掴みどころのないカルチャーは、VRの導入で、その世界観にさらなる広がりと深みが加わったように思います。今後もビジュアルと音楽両面で私たちを楽しませてくれるのではないでしょうか。
(Text: 小松塚悠太)
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