By Yusuke Shono
イタリアの実験レーベル〈Presto!?〉より、東京のコレクティブBaconのメンバーとしても知られるBRFによる、2016年にリリースされた「BRF-KU」以来となるTasho Ishi名義の作品。来たるべきオリンピックを前に変容していく都市の意識をサウンドに見立てて表出したかのような、綿密なコンセプトのもと組み立てられた「サウンド・トレンディドラマ」。薩摩琵琶師、鶴田錦士の召喚や、サトシナカモトへの言及、パークハイアット新宿52階で録音されたというラグジュアリーフィールドレコーディングなど、高密度に編まれた情報性と突拍子もない発想に、サウンドのテクニカルに構成を施されたドラマ性が結合される。豊かすぎるバリエーションを持って紡がれるその複雑な一種の物語には、しかしながらとても馴染みも感じる。それは私たちが巨大なメディア空間を通して、脊髄反射的に眺めている光景と似ているからかもしれない。パケットのように分割され送り出されていく、オートメーションのような感情と、そして仮想であるがゆえの空虚。それは、過大な差異化のエネルギーが生み出した巨大なメタ意識かもしれない。いつしかその虚空にわたしたちは慣れ親しみ、居心地の良さすら感じるようになった。しかしこの夢心地は、いつか私たちを殺すだろう。