謎の匿名アーティスト、Glåsbirdのセカンドアルバム『Svalbarð』。ひんやりとしていながらも、どこか温かみを感じるサウンドはあまりに心地良く、聴いているとすっぽりと何かに覆われたかのような感覚になる。あるときは聴きながら思いのほかやっていたことに集中してしまい、聞こえているはずの音が聞こえなくなっていた。けれど、ふと集中が途切れて再び音が耳に流れ込んでくると、旅先から自分の家に帰ってきたときの安堵感のような、また格別の心地良さが訪れてくる。この「a sonic expedition of Greenland(音のグリーンランド遠征)」は、Google Earth、360° photos、グリーンランドに住む人のブログ、地図、動画などを参考に作られているという。Glåsbird自身がグリーンランドに滞在して制作した作品ではないということだろう。ひょっとすると、グリーンランドを訪れたこともないのかもしれない。実際にその場に行くだけがイマジネーションを広げる手段なわけではないこともある。行ったことがないからこそ、自由に広がるイメージもある。1年の半分が昼間ばかりの日、残りの半分は夜ばかりの日で、全土の80パーセント以上が雪と氷に覆われていて、人間より白クマの数のほうが多い……そんな北極圏の国、グリーンランド。今こうしている部屋の窓を開けたら、外はまっくらで静かな雪景色なのではないだろうかという気がしてくる。