Rachel Bonch-Breuvich、ソビエト連邦時代のロシアのアウトサイダーピアニスト、コンポーザー。Bandcampのページにある写真に写っているのは、袖なしのワンピースを着て、白い花の咲く庭にたたずむ女性。この人がRachel Bonch-Bruevichなのだろうか。その表情は、微笑んでいるようにも、今にも泣き出しそうにも見える。横にある木にはわずかに赤みを帯びた丸い果実がいくつも熟っている。練習曲のように次々に奏でられるピアノの音の背景には、時折、赤ん坊の声らしきものも聞こえる。しばらくすると音は突然途切れ、まったく脈略のない音が一瞬流れる。そしてまた、なにごともなかったかのようにピアノの音が流れ始める。おそらくテープの重ね録りのためだろう。なんとも雑な録音だ。それにしても、Rachel Bonch-Breuvichとは誰なのか。実在の人物なのか。この重ね録りはどういうことなのか。何もかもが不確かだ。それでも彼女の(おそらく)ピアノの音は響く。晴れた土曜日の午後、どこかの家から流れてくるピアノの音のように。時間は永遠だと思っていたころ、そもそも、そんなことを考えてもいなかったころの甘い感覚が蘇る。危険だ。そんなことをよそに、彼女のエチュードは時を超えて(おそらく)こうして流れている。