Vaporwaveアーティストの来日公演 “NEO GAIA PHANTASY” equip, R32X, death’s dynamic shroud JAPAN Tour が開催

MASSAGE /

MASSAGEでもずいぶんVaporwaveのアーティストを取り上げてきたような気がしますが、アンダーグラウンドなこのムーブメントもここにきてその果実が様々な形で現れてきた、という実感を持っています。リリースが多過ぎてついていくのが大変だったひところに比べたら、熱さが落ち着いてきた分、しっかりとしたリリースと出会えることも増えてきました。子供から大人へと進化を遂げた、今のVaporwaveの生態系の一部をなす更新されたプレイヤーたちの今後の活躍もとても楽しみにしています。

さて、今回は100%ELECTRONICA, Dream Catalogueなどのレーベルから、代表アーティスト3組が来日。この前代未聞の稀有なムーブメントが作り出した特殊な空気を体験する貴重な機会です。ぜひ目撃しに来てください。

全日程出演:
equip (100%ELECTRONICA)
R23X (Dream Catalogue
death’s dynamic shroud (Dream Catalogue, Orange Milk Records

11/2(fri) 岡崎ひかりのラウンジ
11/3(sat) 京都Cafe La Siesta
11/9(fri) 大阪pehu
11/10(sat) 神戸Otohatoba
11/14(wed) 東京・幡ヶ谷Forestlimit
11/16(fri) 東京・渋谷O-nest

2018/11/10(土)
NEO GAIA PHANTASY JAPAN TOUR at KOBE
神戸Otohatoba
OPEN// 18:30 START// 19:00
DOOR// ¥1500 +1Drink ¥500
w/ Tsudio Studio (Local Visions), pool$ide, UMrooms, Adiem Ouskyer Reyskuo

2018/11/14(水)
K/A/T/O MASSACRE
幡ヶ谷forestlimit
START// 19:00
DOOR// ask
w/ hakobune, Dirty Dirt, and more…

2018/11/16(金)
New Masterpiece
渋谷O-nest
OPEN// 17:30 START// 18:00
DOOR// ¥3,000.-(w/1D)
w/ さよひめぼう (Business Casual, PLUS100), DJ badboi,
kissmenerdygirl (ピンクネオン東京), 常盤響,
909state, 数の子ミュージックメイト, DJ消しゴムはんこ,
捨てアカウント VirtualDJSet (Local Visions), ΔKTR
VJ// 玉田伸太郎, fm

http://newmasterpiece.tumblr.com/post/179077349618/20181116
https://www.facebook.com/events/1879787208805223/
http://nnnnnnnnnnnnn.web.fc2.com/n/neogaiaphantasy.html

マティアス・ガルシア個展 “SOMBRE PRINTEMPS” 暗い春

MASSAGE /

フランス・パリを拠点に活動するペインター、マティアス・ガルシアの個展が中野のKGギャラリーで開催されています。子供たちや悪魔、人魚などが描かれた暗く幻想的なムードの下には、諸星大二郎の漫画の世界に登場するようなおおらかで不思議な愛らしさと、Arcaの音楽にも通じるような、夢のような錯乱した喜びが流れています。そのキャンバスは、透けるほどの薄い顔料で塗られていて、艶めかしい質感を持つ輝きを放っていました。この世界の正常さに嫌気がさしているのでしたら、ぜひこの怪しく奇妙な事物たちが持つ美しさに触れてみてください。

@CORNER PRINTING KG
〒164-0001 東京都中野区中野3丁目 47-14
2018.10.19[金]-11.02[金] 12:00-20:00 *月曜日休廊

​https://www.kg-cornerprinting.com/matthias-garcia-soloshow

彼の世界観に触れることができるInstagramもおすすめです。

https://www.instagram.com/galilanguille/

MASSAGE MONTHLY REVIEW – 9

MASSAGE&ゲストで、9月の音楽リリースをふり返る。

MASSAGE /
MASSAGE / S=Yusuke Shono, T=Kazunori Toganoki, N=Shigeru Nakamura, C= Chocolat Heartnight

食品まつり – ARU OTOKO NO DENSETSU

Sun Arawのレーベル〈Sun Ark/Drag City〉からリリースされた食品まつりのアルバム。JUKEをルーツとしながらも、既成のフォーマットに囚われない隙間の多いスカスカしたリズムやエレクトロニックでカラフルな音色は、極めて自由奔放なフリーキーさを持ちながら、その佇まいにはいつも不思議な普通さが宿っている。アルバムを聴き進めるに従い、サイケデリックな独特の風情を持つ音の感触はまろやかになり、匿名の心地よさのなかに溶けていく。既視感も未視感も、陳腐さも前衛も、ノスタルジーも未来への憧憬もすべてを独特の懐の深さで包み込んでしまう。この奇妙で予想のつかない音の動きの奥には、日常にあるユートピアが広がっている。めちゃくちゃひねくれているのに、こんなストレートな楽しさに貫かれた音楽はほかにはない。(S)

Nico Niquo – Timeless

Orange Milk〉主宰のSeth Grahamのツアーに帯同し、日本のオーディエンスをその特異なアンビエント空間で包み込んだNico Niquo。友人のju caとCorinがスタートさせた新しいレーベル〈Daisart〉から発売された、彼の作曲とアンビエントミュージックの進化について書かれた書籍付きの新作レコードである。フィーチャーされているサックスは幼馴染だというJared Backerによるもの。ECMレコードなどのジャズに影響を受けたという楽曲は、ジャズの手法をアンビエントミュージックの文脈から昇華したような、ユニークな内容。鉱石のように硬質で、繊細な緊張感のある響きに貫かれている。眩しいほど澄んだ厳かな美を作り出している音の佇まいは、この世のどこからも隔絶された世界をくっきりと浮かび上がらせる。そこに流れる特異な時間感覚の持つ圧倒的な贅沢さは、おそらく現代のアンビエントミュージックの最良の成果といえるだろう。その作品の背景は、AVYSSマガジンによるNico Niquoインタビューで詳しく知ることができる。(S)

🐴 – Garden City

何かを好きになる時、その理由が比較的明確にわかることもあれば、なんだかわからないけど好きだと思うこともある。たまたま聴いた10分にも満たないこの作品は明らかに後者だ。好きというほどにもはっきりしていなくて、なんとなく気になるとでも言ったほうがいいかもしれない。けれど、初めて聴いた時は手を止めて最後まで聴いてしまったし、その後もついつい再生ボタンを押してしまう。そこにあるのは、誰も知っている人がいない雑踏に身を置くような心地良さ、それでいて暑かったり寒かったり風に吹かれたり雨に濡れたりすることもない安心感、意味とか別に考えなくてもいいのかもしれないという安堵感。「あともう少しここにいたら、立ち上がっていくことにしよう。ずっとここに座ってはいられない」 そう言われているみたいに音はとうとつに切れた。(C)

Jay Glass Dubs – Plegnic

アテネを拠点とするDimitris Papadatosによる、既発のリリースをまとめた編集盤である。彼自身がその名前で示しているように、一言で表すならばダブの作品である。しかし、これはあなたが聴いたことのないダブかもしれない。
「ダブ」とは音楽のジャンルであり、音を処理する手法でもある。JGDの作品は、主にその後者に寄っているものだ。1曲目のTemple Dubを聴くと驚くのは、リズムが3拍子である点でレゲエとは異なる構造を持っているところだ。その音の質感もレゲエよりも、耽美的でゴシックなものである。音の質感から想起されるものはたとえばDead Can Danceのような圧倒的に日陰の、そして暗闇のもつ美しさを描く世界であり、ザラザラとした触感、そして硬い音はポスト・パンク的ともいえる。しかし、音楽的な構造を理解しながらも耳をゆだねているうちにそこで鳴っているものは一言で「ダブ」だと感じるようなものだ。ダブ処理だけでこのように音がなるのだろうかと驚かされる。アルバムは3曲目で曲がり角にぶつかる。ダブ処理された音として目立つのはスネアぐらいのもので、硬く暗い音で幕を開けならがもゆっくりと柔らかいエレクトロニカへと移っていく。しかし、4曲目からは明るく、レゲエに寄ったダブの世界へと移り、ラストの5曲目Fealess Dubは1曲目と同じ3拍子に戻る。音の質感は決して派手な音はなく、チープな部分もある。音質の点ではTapesなど様々に広がるダブの世界とも繋がるように思える。
全体を通して改めて形容するならば、まるで埃まみれのDead Can Danceのアルバムを倉庫から引っ張り出してダビングしたテープを再生したような作品であり、レゲエのファンからは見向きもされないかもしれない。しかし手法を小手先だけの音色のために使うような安いものではなく、過去を引き離すような独創性がある。それは様々な種類の音をそれぞれダブ処理し、ゴシックな流れの中でまとめ上げる彼の手法がなすものである。1970年代に生まれたポスト・パンクは21世紀になってもリバイバルを経て、息が長いのかもしくは死んだまま動かされているのかわからない状況と言えるかもしれない。Jay Glass Dubsをポスト・パンクの系譜に連なるものと言えるのならば、単なるリバイバルではないのだ。装飾ではなく、手法としてのダブによるラディカルな「ダブ」なのである。レゲエとポスト・パンクの邂逅は何十年も前にあったわけだが、その徹底的にラディカルである姿勢は確かにポスト・パンクのそれに近いかもしれない。(N)

Sean McCann – Saccharine Scores

Sean McCannの新作『Saccharine Scores』が、自身が運営するレーベルRecitalよりリリース。
ストックホルムのアート施設フィルキンゲンで演奏された表題曲のライブ音源ほか、新/既存の全4曲が収録されています。
またCDに付随するブックレットには、それぞれの曲にまつわるリーディングテキストやスコア、本人による解説やイラスト、演奏写真などがたっぷり掲載されており、彼のコンポジションをより深く知ることができる内容です。
約26分の長さから成る新曲『Saccharine Scores』は、実験音楽家John Chantlerが主催するフェスティバルでのパフォーマンスのために作曲されたもので、管楽器やコントラバス、ピアノなどのパートを含む10人の演奏者によってテキストのリーディングと楽器の演奏が行われながら、両者が混合していくという構成です。全体を統一する定まったリズムはなく、プレイヤーが与えられたテキストをそれぞれが好きなタイミングで読みあげ、次に楽器の演奏に移行し、またテキストの読みあげに戻る、という流れを繰り返し、その比重がテキストから演奏へと徐々に変移していくように指示されています。
休止や空間的な余白を強調しつつ、非常にゆったりとした速度で描かれる各々の音のラインは、抽象と具体の狭間を行きかうようにして鮮やかな色彩を帯び、そしてその色彩はまた次の色彩へとって代わられていきます。そんな様々な色が混濁しながら形成される全体のハーモニクスは、束ねられた「持続」を稼働として、絶えず変化を続け、また偶発的な生成を続けていきます。「動く」ことによってはからずも「結ばれていく」、そんな状態としての美しさが、この曲には意図されずに現れていると思います。レコーディング音源版もぜひ出してほしい。(T)

すべてのVaporwaveファンに捧ぐクールな書籍「Memphis Megahertz and the Kansas City Fractal」

MASSAGE /

Robness ロブネスより、すべてのVaporwaveのファンへ捧げられた日本語と英語のハイブリッド言語の書籍が届きました。機械翻訳によって生み出された愛すべき奇妙さに満ちた、詩のように涼しくて爽快な空気が詰まっています。それはインターネットの集合知が生み出した、無という資本主義の最高のプロダクツです。私たちの20年間の営みのように、ここには塵のような空虚が含まれています。その夢はまだ続いている。そう、私たちが目覚めた後でさえ。Amazonでも入手可能。amzn.to/2NB2Ddt

アーティースト集団DISが「SSENSE」本店にて、映像3部作「XOXO, Safety Net」を発表

MASSAGE /

カナダに本拠地を置く高級オンラインセレクトショップ「SSENSE」が、NYのアーティースト集団 DISが手掛けた映像3部作を10月11日よりモントリオール本店にて上映するとのことです。

「XOXO, Safety Net」は2000年代半ばの金融危機が、ミレニアル世代のリアルな日常にもたらした政治的や経済的な影響を描いたコメンタリー映像作品。3つの短編フィルム、ティーザーキャンペーン、そして実店舗での展示があるとのこと。彼らはサイト上で教育と映像というテーマで活動すると予告していたので、そうしたテーマの作品になっているのかもしれません。

第2次世界大戦の直後、ウィンストン・チャーチル(Winston Churchill)は、『せっかくうまい具合に起きた危機を、利用しない手はない』と言ったとされています。今回制作された3部作は、2008年に起きたサブプライム住宅ローン危機とそれに端を発した金融危機による文化的、経済的、社会的な影響、そしてミレニアム世代が直面する不透明な経済の先行きについて考察しています。SSENSE が持つ若い顧客層と幅広いリーチを鑑みるに、私たちが歴史から学ぶべき今回の教訓を拡散するプラットフォームとして、SSENSEは理想的です

2010年に設立されたDISは、ニューヨークを拠点に、特定のサイトでの活動からオンライン全般まで、幅広いメディアやプラットフォームで活躍するクリエイティブ集団。最近では、2018年1月に立ち上げられた動画ストリーミング プラットフォーム DIS.ART で、教育の未来をエンターテインメントとして捉える作品を発表している。今回、SSENSE の依頼で制作された映像は、DIS.ARTによるリリースのシリーズ第2弾にあたる。

「XOXO, Safety Net」は、10月11日から25日まで、SSENSEモントリオール本店にて上映されるとのこと。

XOXO, Safety Net
10月11日 – 10月25日
オープニング | 10月11日 7-11 pm
SSENSE モントリオール本店
418 Rue Saint-Sulpice

https://www.ssense.com/ja-jp/locations/montreal

MASSAGE MONTHLY REVIEW – 8

MASSAGE&ゲストで、8月の音楽リリースをふり返る。

MASSAGE /
MASSAGE / S=Yusuke Shono, T=Kazunori Toganoki, N=Shigeru Nakamura, I=Hideto Iida, C= Chocolat Heartnight

SWARVY – No. 1 | Lavender Blend

記憶に残る2016年春のStones Throw 20th Anniversary FestivalでのMNDSGNのDJ。まだバンド編成でリリースしたアルバム”BodySoap”を発表する前だった。彼のパートナーでもあり、Akashik Recordsを主催するAlima Leeがアナログのカメラを回し後ろで踊っていた。時にレコードをかけるMNDSGNは自身昇天フロアも上がっていた。その後彼のSoundCloudを聴いていると、Swarvyというベーシストの音源が良い感じに実験的かつグルーブ感ある音が流れていた。よくよく掘っていくとMNDSGNのバンドメンバーで多くのミュージシャンに曲を提供するキーマンのようだった。8月に入り彼のリリースをBandcampでチェックしていると、最近デジタルで”Blend”シリーズで立て続けにリリースされている。ここで紹介するのはその第一弾、”Lavender Blend”。楽器の演奏とサンプリングで新旧織り交ぜて厚みのある音に仕上がっている。BlendシリーズのジャケットはLAのアーティストkeren ooの作品で統一されている。(I)

V/A – PRIMORDIAL CHAOS

国籍もバックグラウンドも関係なく、人々が織りなす不可思議な感覚に出会い続ける気持ちよさ、混乱したこの世界の縁に立たされて、不安と喜びを感じるそんなオンラインでの現代の感覚を体現しているのが今の「音楽ブログ」という存在ではないだろうか。特に、VaporwaveやHardvapour以降の音楽シーンが織りなすカオティックな生態系を追いかけ続けているMMJは、数少ないそんな変わった景色を見せてくれるブログの一つである。その主催である、Marcel Slettenが始めたレーベル〈Primordial Void〉が第一弾にリリースしたコンピレーションまさにど真ん中というというラインナップで、とても素晴らしい。海外勢としてはHKE、Gobby、Jeff Witscher、Mukqsなど、日本からはConstellation Botsu、YolichikaやEmamouse、Kazumichi Komatsuなど今まさにカテゴライズ不能な音楽を鳴らし続けているメンツが並ぶ。現代の研ぎ澄まされた感性が織りなす、そのリアルに是非触れてほしい。 (S)

George Clanton – Slide

チルウェイヴ時代のMirror Kissesから、Vaporwaveシーンにさっそうと現れ旋風を巻き起こしたESPRIT空想が、いよいよ本名名義George Clantonへと帰還。100%Electronicaから、3年以上の期間をかけて作り上げたという新しいアルバムである。綺羅びやかでノスタルジックなサウンドが飛翔しながら、常に視点を移動しながら心地よく歪んだ音像を結び続ける。新鮮でありながら、どこか懐かしい。鮮やかにポップに、わたしたちのこの倒錯した欲求を掻き立てる。この泡のようなはかなく消えそうな過去の残滓が作り出した幻影は、荒廃とユートピアというわたしたちの心が向かうべき未来の二面性を暗示してはいないだろうか。(S)

Joey Dosik – Inside Voice

Joey Dosikの歌声を初めて聴いた時のことは今でもよく覚えている。それはあるアーティストの来日公演だった。バンドメンバーのひとりである彼はさらりと紹介された。オリジナル曲を披露するという。失礼ながら彼のことを知らなかった私は、特にこれといった感情は持たずにステージを見ていた。彼が歌い始めた瞬間、いわばニュートラルな状態だった私の中の針がぐわんとふれた。その場の空気が変わったのがはっきりとわかった。歌い出したとたん、その歌声に誰もがはっとしてひきつけられる……なんて物語の中だけのことだと思っていた。その時に披露された曲が、アルバム『Inside Voice』のタイトル曲“Inside Voice”。この曲の発売を、私は3年近く待っていたことになる。歌声からもジャケットの写真からも、彼の音楽をやる喜びが伝わってくる。そしてその喜びは、聴いているものを心地良くゆるめ、柔らかく満たしていく。(C)

Lukas Grundmann – timestretched-ACID

ベルリンに拠点を置くサウンドアーティスト/DJのLukas Grundmanによる、Oqkoからの新作。インスタレーションの発表やワークショップの開催といった活動が中心で、まとまったソロ名義の音源をリリースしたことはこれまで多分なかったはず。2014年にアーティストのMonika Dorniakとコラボレーションした『Emological Symphony』は、パフォーマンス中のダンサーの心拍数や呼吸速度、体温などを測定し、そのスコアを音のパラメーターに変換するという試みで、異なるメディウムの相互関係性をリアルタイムに外在化させるという興味深い内容でした。今回の『timestretched-ACID』は、アシッド・ハウスを定義づけたベースシンセサイザーのTB-303にフォーカスして、ダンスミュージックにおけるテクスチャーの考察と脱構築をコンセプトにした作品。IRCAM Labのタイムストレッチソフトを用いて、あの独特な太身のベース音を引き伸ばしながら、ピッチとリズムを自在にずらしていきます。勿論ソフトウェアの影響はかなりありますが、フレーズを消失して逆にうねりが強調されたTB-303は、ぬめりがあって湿気多分、そしてきらびやか。星空の下で沼を眺めているような気持ちになります。アシッド・ハウスという文脈には完全に相応せず、どちらかというと60年期のGRMの作家を彷彿とさせる音響物の仕上がり。ジップ付のビニールにSDカードというフィジカル形態も中々渋みがあって良いです。(T)

Szun Waves – New Hymn To Freedom

Luke Abbottと彼との共作で存在感をアピールしたサックス奏者のJack Willie、そしてPVTのメンバーであるドラマーのLaurence Pikeの3人から構成されるのがSzun Wavesである。Luke Abbottの音楽を知るリスナーは彼の音楽がクラウト・ロックを想起させることを頭に置いて欲しい。そこには、ClusterやHarmoniaなどから続く流れが、また彼がいくつもリリースを重ねてきた〈Border Community〉においてそのカタログが示すような「インテリジェンス」がキーワードとして上ってくるだろう。Abbottの音は多くの曲で前面に出ることはなく一定の位置に留まって基調となる空気を作り、確かに先述したClusterなど偉大なるエレクトロニック・ミュージックの形が生き続けているように感じられる。しかし、決して頭でっかちな音楽ではない。録音が即興演奏かどうかは定かではないが、Willieのサックスが泳ぐように、Pikeのドラムは緩急入り混じりながら川の流れを作っていく。Abbottの作る空気の中で軽やかに踊るように、二つの楽器が決してそれぞれの音域の中でケンカすることなく、美しく絡み合っていく。
この作品をどのように言い表すことができるだろうか。なるほど、他のいくつかのレビューでDon Cherryの””Brown Rice””などが参照されてジャズの視点から語られているように、この作品は複合的な視点から評され得る厚みがある。しかし、聴いている時には彼らのバックグラウンドを意識させるような記名性は強くない。そしてジャズ、エレクトロニカ、そしてエクスペリメンタルやクラウト・ロックというキーワードもこの音楽を捉える際には十分ではないように思う。サックスの音が入っていれば、そしてドラムが即興的な音を立てていれば「ジャズ」だと判断する人も、またAbbottが全体の空気を作る中で、エクスペリメンタルと呼ぶ人もいるかもしれないがそんな考えも包むような開かれた空間を作るような音楽だろう。リリース元のレーベルである〈LEAF〉は、即興演奏におけるリスナーと演奏者の間のギャップを埋める、リスナーを音の中に引き込む音楽であるとのコメントしている。この作品はそれゆえ「アンビエント」の一つとして位置付けることができるかもしれない(私はSun Electricによる20年ほど前にリリースされた傑作のライブ盤を思い出した)。しかし、この「アンビエント」性は音が作り出す雰囲気にとどまらない。その独特のオープンな感覚はCANをも連想させるような、つまり様々な音楽が想起されるようなものなのである。さらに、全体の音色からはBoards of Canadaを思い出すリスナーも多いだろう。アナログとデジタルのどちらの音も絡み合い、柔らかいサイケデリアを描いていく。
実力のあるプレイヤーが集まったバンドではあるが、このレコードでは「誰」が演奏しているのかは問題ではない。そこで鳴っている音が全体としてどんな経験をリスナーに与えるのか。演奏の瞬間を切り取ったもの、もしくは個々に録音された音を重ねたものであれ、録音物としてパッケージングされたものには「死」のイメージが付きまとうかもしれない。しかし、このレコードに入っているものは生きている。それ以外の言葉が見つからない。(N)