日本の豊穣な地下シーンを50組のアーティストと楽曲で振り返る。50 Japanese track maker / musician 2017。#1-25

MASSAGE /
MASSAGE / S=Yusuke Shono, T=Kazunori Toganoki, N=Shigeru Nakamura

2017年はみなさんにとってどんな年でしたか? ふつふつと沸騰する日本の地下音楽シーンは、その土台を着実に固め、今年も数多くの素晴らしい作品を生み出しました。特に印象的だったのは、オンラインを経由したアンダーグラウンドの拡張を実際に体験する機会が多くあったこと。Infraフェスティバルの新世代クラブや、日本のアーティストと縁の深い〈angoisse〉のショーケース、そして150回目を迎えたK/A/T/O MASSACREなど、このシーンにいる多くの人々の情熱が結晶化したイベントを多く体験できた年でもありました。

またフィジカルリリースも多かった印象があります。日本からは、〈CNDMM〉の限定7インチシングルのコンセプトを感じるリリースの手法が印象に残りました。またミックスをアーカイブするプロジェクトGrey Matter Archivesや、Dirty Dirtさんと舘脇悠介さんのマンスリートークイベント”Buy Nowers Club”など、ゆっくりとだけど、さまざまな方向であたらしい何かが始まりをみせています。

ぼくらといえばやはり紙の雑誌を出すことができず、あまり沢山の人々を紹介できなかったことを悔んでいます。その代わりといってなんですが、この年の最後に今年よかったリリースのリストを作りました。ぼんやりとですが、そのうちMASSAGEでもなにか音源をリリースしてみたいとも思っています。

それでは今年の50です。順位が付けられないので、アルファベット順に並べてみました。

Ak. – uuuurrrraaaauuuunnnnyyyy

Snow Contemporaryでおこなわれたuraunyの展覧会の一部として構成された、ハードでダーティな6曲。uraunyと彼が集めたアーティストたちによって作られたこの展示は、普段意識に上らない禁忌を作品を介して体験するものだった。わたしたちはネットを介して、人々の欲望に毎日素手で触れている。集合的な欲望の痕跡は、加工された画像、文字、音のなかに見つけられる。切り刻まれ、捻じ曲げられたその残骸は、私たちの欲望が通過した軌跡であり、同時に自分自身が存在した証明なのだ。(S)

Aki Tsuyuko – Empty talk

もともとは2016年にリリースされていた自主制作CDが、LPとなって今年再び発売。生ピアノとキーボードから溢れでる音群たちは、偶然に交差しては互いを照らし合わせ、曇りは白に変わり、やがて透明となって消滅する、かのようにみえるが、じつはそこにいる。「ある」と「ない」の余白にじっと耳をすませば、かすかな息吹や震えにも似た、気配を感じることができるはずだ。イラストレーター松井一平氏によるジャケットからも、アルバムに潜む気配が共通して漂っており素晴らしい。(T)

Alma – イノセント・スキン

「救済」というより、「変容」のような感覚。その瞬間を目の当たりにできるライブはスペシャルだし、彼女の作品を買う行為にもやっぱり特別な意味が存在している。受注生産で作られるという「イノセント・スキン」は、カードを付属のHOLY WATERで浸すと浮かび上がったコードでデータのロックを解除できるというもの。USBには、作品のバックグラウンドになったストーリーが入っている。(S)

Asuna – Mille Drops

金沢在住、国内/外で活躍するサウンド・アーティストASUNAの、3曲入りの新作。フランスを拠点に活動するレーベルRECITから発表されたこの作品は「水や雨、水滴や波紋」をテーマとしながら、彼の作曲に一貫してみられる音の「発生」と「持続」を、より広義の意味と手法で捉え直したものといえる。アルバムタイトル曲である『Mille Drops』の、細かく砕かれた、断続的な音の粒子が集合体となって、大きなうねりを伴った波形を生み出す様子は、一滴の雫が結合して水溜を作るかの如く、滑らかで流動的な運動を描き出す。発生と減衰という音の自然的な現象が幾多にも重ね合いながら、全てはひとつのまとまりへと収斂していく。(T)

bonnounomukuro – HerbLessDUB

神戸を拠点に活動するbonnounomukuroのライブセットを〈New Masterpiece〉が音源化したもの。この世界のどこかに人知れず存在する音楽。偏在するその密やかな痕跡を耳をそばだてるようにしてわたしたちは聴く。繊細なテクスチャーにはさまざまな国を旅するような感覚があって、世界の裏側を覗いているような気持ちになる。(S)

ブギーアイドル – 音楽より遠く

過去に遡って、きらびやかで美しい日常にそっと触れる。クリアな音質、スムーズで心地よいムード、全てのディテールで破綻がない。楽天的で希望に溢れた資本主義の価値観も、今は夢と消えた。そんな幻となった希望や憧れ、都市のきらめきがくっきりとした輪郭で立ち上がる完璧なフューチャーファンク。(S)

Cemetery – Vessels

CONDOMINIMUMの主催者でもあるKota WatanabeのソロプロジェクトCemeteryの作品。柔らかくきらびやかな表情を持つメロディが、ゆっくりと揺れ動く光景を描き出すA面。そしてB面には、希望を描くように飛翔感のある旋律に心地よいドラムパートがフィーチャーされ、聴くものを幻想的な霧がかったサウンドの世界に引きずり込む。アンビエントをポップな感覚で昇華した、まさに今の感覚を持った作品。(S)

CRZKNY – MERIDIAN

広島の鬼才CRZKNYによる3枚目の3枚組アルバム。まるで大地を通して鳴っているような、重低音。再生する環境そのものが問われているような、極限に振り切れたその音はちょっと聴いたことがないバランス。遅れてやってくるようなテクノライクな質感のリズムは、その響きでありとあらゆるものを振動させる。(S)

CVN – XXXII

Nobuyuki SakumaことCVNによる2020年の東京オリンピックにインスパイアされたという作品。金属的な電子音響が、切り刻まれて破片となり、さまざまな質感を持つ抽象的な形を作り出す。音楽と音との間をチューニングされながら行き来するように、作り出された音の連なりが、ときに凶暴に、ときに優しく、不定形で歪な電気的グルーブを作り出していく。東京から拠点を移したCVNは、さまざまなアーティストのミックスをリリースするGrey Matter Archives も開始。独特のグラフィックにも素晴らしいセンスを発揮している。(S)

dagshenma – EDIROL

むき出しになったデジタルなテクスチャーの感触が嵐のように吹き荒れる。即興的につくられるエレクトロニックな彫刻みたいに、それはいまだ聴いたことのない新しい音の姿を次々と表出させる。これは可能性としての音楽なのかもしれない。抽象絵画のように、その孤立した存在感を楽しみたい。(S)

dok-s project – Daily Sound Collection

Orange Milk〉から日本人の作品が出るたび、自分の知らない音楽家がまだまだ日本にいるのだと驚かされるのだけど、dok-s projectもそんな感じで知ったうちの一人。このテープが届いたのが、東京在住最後の日だったとツイートしてたから、今はきっと東京ではないどこかで活動をしているのかもしれない。複雑な構造とリズムをまとってはいるけれど、どこかアナログ的な柔らかさも兼ね備えている。手を伸ばしたら届きそうなスケール感の幸福に、ほんの少しの切なさを漂わせた傑作。もっともっとたくさんの作品を聴いてみたいアーティスト。(S)

emamouse – Build a parallax

ゲームのBGMのような疾走感のあるインストルメンタルと、おなじみの不思議な歌詞とボーカルで構成されたアルバム。続々と打ち出されるシンセが作り出す独特のメロディには、過去でも未来でもあるようなどこか懐かしい感覚が宿る。皮膚という設定のマスクを被って行うパフォーマンス含めて、その背後でシュールで強固な世界観を作り出している。漫画のリリースや映像の発表なども、精力的に行っている。(S)

Enitokwa – o.n.s.a.

京都の老舗茶門屋「宇治香園」共同でのリリースとなる今作品は、茶園で録音されたフィールドレコーディング音や、実際に茶が器に注がれるまでの具体音といった生の音に、電子音やピアノが精密に配置されミックスされた、ドキュメンタリー手法がとられている。しかしそこには「記録」としての一面だけではなく、日常的時間と音楽的時間が互いを含有し、同調しあって、また別のひとつの姿が顕れている。「生活」という現実の次元、「音楽」という想像の次元、それぞれの境界が融和した、稀有な一枚。(T)

Former_Airline – The Discreet Charm of the Ghostmodern World

Former_Airlineの7番目のアルバム。冷たく研ぎ澄まされたミニマルなトラックと、幽玄的なノイズの配合が、不思議なハーモニーを奏でる。バリエーション豊かな音色が、独特のストイックさでゆっくりと重ねられていき、独特のダビーな音像を作り出していく。抽象的だけど、どこかユーモラスな構えもあって、とてもバランスがよい。レコードで聴いてみたい。(S)

日本の豊穣な地下シーンを50組のアーティストと楽曲で振り返る。50 Japanese track maker / musician 2017。#26-50

日本の豊穣な地下シーンを50組のアーティストと楽曲で振り返る。50 Japanese track maker / musician 2017。#26-50

MASSAGE /
MASSAGE / S=Yusuke Shono, T=Kazunori Toganoki, N=Shigeru Nakamura

GOODMOODGOKU & 荒井優作 – 色

goodmood gokuと荒井優作による耽美的かつ冷めたプロダクションが描く世界では、たとえば24時間という1日の単位は引き伸ばされ、「俺とステキな女の子たち」とのエピソードやある種の夢がつながっていく。ここで鳴っているのは現在進行形のヒップホップ・R&Bだが、それがラップとともに総体として心象風景を描いたり時間旅行へ誘うような詩でもある。ぶっ飛ばしてくれるものは大抵、スイートであり抵抗なぞする余地もない。(N)

H.TAKAHASHI – Raum

Where To Now?〉からリリースされたフルレングスLP。iPhoneを用いたという作曲方法は、ギミックではなく、場所の制約なく音楽制作をするため編み出された方法だそう。アンビエントというキーワードがますます注目されるようになった本年だが、高橋は吉村弘から芦川聡などの日本のミニマリストの作品から、エリック・サティにジョン・ケージ、ブライアン・イーノ、レデリウスなど、アンビエント・ミュージックの歴史をの流れを再び遡り、現代的な解釈によりあたらしいサウンドを作り出した。電子的パルスの響きが幻想的な模様を波紋のように放出し、聴くものの身体をやわらかな音の絨毯で包み込む。空間的なその感性は、建築家という職業に由来しているのだろうか。稀有な美しさを持った作品。(S)

長谷川白紙 – アイフォーン・シックス・プラス

〈Maltine Records〉より、iPhoneに関する叙事詩をテーマに描いたという長谷川白紙「アイフォーン・シックス・プラス」。高速で打ち出されるジャズのリズムが、複雑な和音と歌声に絡み合う。躁的なハイパーさのある楽曲にも、全体としてはどこか柔らかく、軽くポップな印象。歌詞があまり聴き取れないのだけど、奇妙な詩情ただよう歌がとてもよい。ジャケットはアーティストの山形一生が手掛けた。(S)

Iku Sakan – Prism In Us All

大阪出身、現在はベルリン在住の、アーティスト/DJであるIku Sakanの初のLP。同じく今年マンチェスターの「Natural Sciences」からリリースされたカセット作品『Human Wave Music』にも通ずるが、まさにタイトル通り、光がプリズムを通して、屈折し反射しあうかのように、反響音の強いパーカッションときらびやかな音たちが飛んでは跳ね返り、リズミカルに多面体を描き出す。抑制の効いた音作りでありながら、角度を変えれば無限に色彩を変化させるかのように、聴く度に新しい発見と、移ろいの美観をあたえてくれる。(T)

Jobanshi – Koko

〈Bedlam Tapes〉よりリリースされた本作は、エレクトロニックな音響のなかに自然音が融合されたアンビエント・アルバム。揺らめきのような繊細な響きが、聴くものを淡く和やかな幸福感で包み込む。子供時代に見た風景を表現したという、どこかファンタスティックな感じのする音響など全体を通して、とても和やかで優しい。本作の予告ビデオのナレーションは、本サイトで連載を持つ捨てアカ氏が担当したとのこと。(S)

Jun Kamoda – The Distorted Haunted Ballroom EP

イルリメや(((さらうんど)))のメンバーとして知られる鴨田潤の、ラップ同様にトラックメイカーとしての才気のほとばしりが感じられる作品。不規則に連打されるトランペットと打楽器がうねるように複雑なリズムを作り出し、聴くものをレイブ的な熱狂へと引きずり込む「Body&Soul」、短く刻まれたシンプルな反復ビートがゲットーな楽しさを放出する「(((BYE)))」、エコーの掛かったボーカルサンプルがジャングルのような幻想的な色彩を描く「Dopey Forests」と、バラエティに富んだ3曲が収録されたEP。(S)

角銅真実 – 時間の上に夢が飛んでいる

様々な場所への楽曲提供・演奏を行い、バンドceroのサポートメンバーとしても活躍する、打楽器奏者/作曲家である角銅真実初のソロアルバム。各パート間の絶妙なバランスもだが、自由自在に伸びては縮み、あちらこちらへと飛んでいくかのような楽曲の軽妙さと、彼女の歌声がとても楽しい。その身軽さは、形自体は明瞭でありつつ、夢と現を行き来するかのように不安定で止まりをもたず、聞こえてくる全ての音が本当でも嘘でも、どちらでも信じてしまえるような気持ちになる。形容が難しいのですが、こちらのインタビューを是非読んでみてください。(T)

Kazumichi Komatsu – Aggressively Unedited

京都をベースに活動するアーティスト・音楽家MadeggことKazumichi Komatsuの〈angoisse〉からのリリース。こちらは笹塚ボウルにて行われた”Bower Room R1″でAbleton LivとPure Dataを用いて行われた24分のライブ音源。絞り出されるように積み重ねられていく音の雲に、高音域のフラグメントが積み重なねられ、柔らかく抽象的な形を描く。目的もなく、感情もない、知らない国の映像を眺めているような、実在の希薄さ。曖昧で形をとらない思念のように、それらは現れては消えていく。(S)

koeosaeme – Sonorant

koeosaemeはRyu Yoshizawaが2014年にスタートしたプロジェクト。高橋幸宏率いるサウンドクリエーター集団、OFFICE INTENZIOに所属していたり、キャリアのあるアーティスト。〈Orange Milk〉よりリリースされた本作の内容は、音の粒子が自由自在に飛び回る華やかな電子音楽。切り刻まれた電子音、歪んだボーカル、メロディやリズムが渾然一体となった複雑性の中に、カオティックな美がときおり顔を覗かせる。独特のグルーブ感が特徴で、静と動のような激しい陰影のある作品。(S)

Laxenanchaos – Mental Akses

覆面ブレイクコアアーティストのLaxenanchaosの初のカセットテープによるソロ・リリース。微分法的に刻まれていくビートが、シンプルな音色と次第に交錯し、波のうねりのようなゆらぎを作り出していく。打ち鳴らされる高速ドラムは全体を通して抑えた調子で、どちらかというとその電子的な残響のほうが耳に残る。強靭なビートの奥に、儚さも感じさせる作品。(S)

Le Makeup – Hyper Earthy

レッドブル主催の音楽フェスティバル「AT THE CORNER」にも出演を果たしたLe Makeupの新作。特徴である歪んだ電子音に、アコースティックな味わい。織りなされるさまざまな音の表情は、楽曲全体として柔らかな印象を形作っている。繊細ともいえるタッチには、どこかエモーショナルで個人的な感触がある。写真のように瞬間の気分を書きた止めたスケッチのような楽曲。定式化されたダンスミュージックの退屈を吹き飛ばすのは、こういう個人的な視線なのかもしれない。(S)

LSTNGT – Holy Machine

巨大なビル群の合間を、光の軌跡が高速で過ぎ去っていく。SF小説の表紙に描かれているような未来都市のビジョンにピッタリのサウンドトラック。トランシーでエモーショナルなそのサウンドから立ち上がるニュアンスはとてもはっきりしているのに、イマジネーションを喚起する余白もある。蛍光管を用いたライブもめちゃくちゃかっこよい。(S)

Masahiro takahashi – でんでん虫の殻の中の音楽

アーティストのユニス・ルックの展示『Music of inside the snail’s shel でんでん虫の殻の中』に合わせて制作された音源が、カセットとなってリリース。アコースティックと電子音、環境音が交わりながら、適度な湿度と空気を含んだ、ゆったりとした味わい。想像上の生態系の中で、有象無象の生物や植物たちが、各々のざわめきと共に協演しているかようでもあり、聞き手によって異なるイマジネーションとスケープが膨らむであろう、有機的なアンビエント・ミュージック。(T)

メトロノリ – 湖に行って!

一曲だけのシングルだけど、これといった派手な出来事はなにも起こらない。だけど、しびれのような、かすかな存在の感覚だけが残る。なにかがただ「ある」というような佇まいのある不思議な一曲。Simに手紙付きで掲載された須藤なつ美監督の映像も素晴らしかった。(S)

NHK – Exit Entrance

NHK yx KoyxenはKohei Matsunagaのソロプロジェクトで、90年代よりMille Plateaux やPANなどの名門レーベルから作品をリリースするなど、20年のキャリアを持つ人物。本作は、NYの名門〈DFA〉よりリリースされた。美しく仕上げられた音像を持つそのサウンドは、実験的で歪つなミニマルテクノ。そのタイトルや本人同様に、どこか匿名性も感じさせる。持ったアルバムの制作中に急逝した友人・コラボレーターのMika Vainioに捧げられた楽曲も収録されている。(S)

Old Man Archives 『The Remnants of love』『Across the river』

『OLD MAN ARCHIVES』は日常で目にする老人たちの語りをその場で録音し、本人の年齢の数だけ限定でリリースする、という少し変わったアーカイブ・プロジェクト。これまでに5本の作品が発表されているこのシリーズ、美しいパッケージも魅力的だが、カセットというフォーマットの脆弱性や不可逆性に呼応しながら、独白から浮かび上がる匿名の記憶は、当人でしか体験しえなかった境遇や出来事、そこに生じる感情や想いが入り混じった澱のようなもので、それは「かけがえのない」と同時に、誰しもが時間の経過と共に持ちうるという、自然に「ありふれた」存在でもある。それに耳を澄まし、想いを馳せるということは、個人を超えてうまれる、集合的な記憶に対峙するかのような感覚もあり、郷愁ではなく、どこか宙づりにされてしまったかのような、そんな不思議な気持ちにもなる。(T)

http://oldmanarchives.xyz/

パソコン音楽クラブ – SHE IS A

(僕のような)90年台のカルチャーを謳歌した者にとって80年代の文化には、軽薄で浅はかといった悪いイメージが伴っている。そうした「ダサいもの」とされていたものをあえて取り上げて解釈し直していくことも意味のある手法だと思うけれど、今のVaporwaveシーンには、もっとピュアな姿勢を感じる。Vaporwaveのメタ的な視線のほかに、より強く感じるのは、夢の中にずっとい続けたいというモラトリアム的な姿勢のほう。これだけ世界が病んできているのだから、わたしたちはポストモダンの生理的な欲求に従って、デジタルなプラスチックの幻想を量産し続け、消費し続けるほかはない。その先にはきっと、誰も全く見たことのない光景が広がっている。(S)

Phew – Light Sleep

70年代後半からのキャリアを持つアヴァンギャルド・シンガー、電子音楽家、Phewのライブ会場限定で発売していたCDRから編集された6曲入りのLP。彼女の特徴的な声による朗読の下で、重厚かつヌケの良いエクスペリメンタルな電子音が炸裂する。実験音楽の持つスリリングな前衛性と、今のシーンにも繋がる現代的な感性の両方を併せ持った怪作。(S)

Rhucle – Wonderland

環境音のサンプルに、ゆったりと響きわたるシンセサウンドの組み合わせが耳にひんやりとした質感を残す。どこか非現実的なそのゆらめきに身を委ねているうちに、眠っていた意識がゆっくりと覚醒していく。今年はマンスリーで作品をリリースするなど、一年を通して多くの作品をリリースした。(S)

Ryushi – Soul

SEAGRAVE〉よりリリースされた、関西で活動する3人組Ryushiのアルバム。タイトルの「Soul」は、土地から立ち上がってくる魂のイメージがリズムと融合したらどうなるのか?という制作中の考えから付けられたもの。スモーキーな電子音響に、街角の片隅から綴られた詩情が重ねられていくポエトリーリーディング。JjakubとIce_Eyesによる狂気のリミックスも収録。(S)

Saskiatokyo – FANTASIA

saskiatokyoの初となるEP。物憂げな声質のボーカルの下で、デジタルな空気感を持った音のテクスチャーが絡み合い、複雑なモザイク模様を織りなす。歌詞はよく聴き取れないのだけど、素晴らしいと思いながらも夢のように実体のない、とある場所について語っているそう。予定調和に収束しない不協和音のような独特の響きが耳に残る作品。(S)

SAYOHIMEBOU – The Gift from Neon Planet

トレードマークは、ネオンカラーのおかっぱ頭のアンドロイドのようなキャラクター。きらびやかでラグジュアリーな音色とファンタジー感のある和やかな旋律が、フォトショップで加工されたきらびやかな都市的光景を描く。遠くで鳴ってるような響きを持つボーカルは、どこか遠い未来のスペースオペラのよう。複雑なカットアップ・コラージュ、ポップかつクリアな音色を持つ自由に飛び回る電子音はまさに今の音という感じで、Vaporwaveの作法に沿ってはいるけれど、確実にそれを更新しているような感覚がある。(S)

seaketa – My Sumaho

タイトルは「My Sumaho」。ザッピングしていくようなコラージュ感覚の詰まった、エレクトロニックな実験音楽。「いるか息」や「tiny翻訳」といった人を食ったタイトルのように、音もどうにもとらえどころがない。全体にわたってぬめりとした不思議な印象を作り出している。(S)

$ega & The Rainbow Streets – 想いで100景

Noumenal Loom〉からリリースされた$egaの作品は、DJWWWW名義のスタイルから距離を起き、豪華なバンド的なサウンドへと舵を切った内容。ハウスミュージックの牧歌的な部分を抽出したような多幸感と、見知らぬ国を旅するロードムービーのような切なさがある。ただただ過ぎ去っていく風景を見て懐かしさと悲しさを覚える理由。どこかにおいてきた遠い記憶のような美しさには虚構的な要素があって、ハリボテのような美しさは、たぶんハリボテだからこそ美しいのだ。(S)

Suburban Musïk – The Gold Ink’

CONDOMINIMUMが設立したレーベル〈CNDMM〉からの限定7インチの第3弾は、EVIAN VOLVIKによるユニットSuburban Musïkの初EP。低音の方向へと歪み切った、荒れたテクスチャ―、ビリビリと重く深く響くビート。野生的で凶暴な底に暗い美しさがある。ラストの吠えるように歌うゴシックなボーカルの曲も良い。(S)

SUGAI KEN – UkabazUmorezU (不浮不埋)

インターネットが世界のリスナーたちの距離を狭め、私たちは物理的距離や時間から自由になった気分になることがある。しかし、我々全員が個々の人生においてどこで生きてきたか、その中で五感が感じ取ってきたものはあらゆる表現につきまとう。日本の伝統的な…という冠とともにレビューされる本作であるが、「浮かばず埋もれず」に多くの日本で生きてきた人間が懐かしくもつきまとうような感覚を思い出させる環境を創り出す作品である。美しく、まるで幽霊のように。(N)

Swan Meat & Yoshitaka Hikawa – KNIFE SPLITS ICE

日本のYoshitaka Hikawaと、シカゴ在住のサウンドデザイナーで詩人のReba FayによるプロジェクトSwan Meatが1年に渡るオンライン上のコラボレーションにより作り上げた作品。切り刻まれて破片となった音素がデジタル的なテクスチャーとなり、鋭利で抽象的な世界像を作り上げている。Fayのポエトリーはどこか冷たくて、あまり人間的な感じがしない。まるでマシーンが作り出したポエジーのようだ。インスピレーションとなったというFayの病院での体験がどのようなものかはわかないが、神話的といってもよいほどの冷たさと、非人間的なイメージは、そこに由来しているのだろうか。(S)

toiretstatus – Nyoi Plunger

ディズニー・アニメの誇張された動きのように、想像力が生み出すものすごいグルーブ感。彼の音楽に出会ったときはびっくりしたけど、本作はよりそのスタイルを進化させていて、ポップさも増している。伸びたり縮んだりする時間のような感覚は、音楽が時間芸術だということを思い出させてくれた。どうなってるのか全くわからないけれど、耳の奥ををかき回す心地のよい混乱がある。最高に奇妙ですばらしい電子音楽。(S)

Tomoko Sauvage – Musique Hydromantique

パリ在住のサウンド・アーティストであるTomoko Sauvageによる、名門Shelter Pressからリリースされた今回のアルバムは、元製紙工場で録音されたというバックグラウンドも相まって、その特殊な空間と彼女の身体が深く共振した、音響作品。水のフォルムを手の動きによって形成し、音の彫刻を作りこむイメージ、と述べていたが、聞き手である私たち自身も、これらの音に、文字通り「触れて」いるかのような感覚がある。水や空間といった媒介物を通して、私たちの聴覚器官が文字通り「触覚」として音を受容するということは、根源的な知覚であるがゆえに、普段の意識には昇らない。その始まりに遡ってみれば、より自由で広がりをもった、音と音楽との接点があるかもしれない。(T)

豊平区民TOYOHIRAKUMIN – リフレクション

札幌市在住の日本では数少ないVaporwaveアーティストのひとり豊平区民TOYOHIRAKUMIの、2016年の〈New Masterpiece〉からのリイシュー「メモリーレーン」を20のリミックにより再構成した作品。リミックス陣には猫シCorp.、VAPERROR、CVLTVRE、t e l e p a t hなどそうそうたるメンツが並ぶ。切なく消えてしまいそうな夢の物語。記憶を反芻するように、熟成した芳醇な湿気のなかに曖昧なイメージが表れては消えていく。(S)

Ultrafog / m do – Split

Ultrafogと、USカンザス在住のRYAN LOECKERによるプロジェクトm doの〈angoisse〉からリリースされたスプリット・カセット。硬質で重い音の雲を漂うようなUltrafogのA面に、ミニマルな音響がゆったりと波のようなパターンを描き出すm doのB面。アンビエント/ドローンといったカテゴリーを超えて、オンラインで繋がりあって拡張していく実験音楽のシーンの確実な成果物。ただただ豊かな音の質感に抱かれながら飛翔する極上の体験を楽しみたい。(S)

woopheadclrms – Kamechiyo

Wasabi Tapes〉より愛知県を拠点に活動するトラックメイカーwoopheadclrmsの作品。ものすごい速さで流れ去るオンライン上のコンテンツのエッセンスだけ抽出し、濃い部分だけ音に置き換えたような、個性的で色とりどりの音たち。コラージュ的な手法でつくられたそのサウンドは、まるで生きているように自由奔放。斬新だけどどこかユーモラスな感覚もある。YouTubeにあがっている作品群もすばらしいものばかり。(S)

Yoshimi – apanese Ghosts II

YOSHIMIは菱田吉美という名義で映画のサウンドトラックやCM音楽を手がけるなど、作曲家として長いキャリアを持つ人物。本作は怨霊、翁、生霊、鬼、妖怪、物の怪、来訪神、良きも悪きもが現実と非現実の境を超えて都市空間に流出してくるさまを描いた作品とのことで、物語性を感じるシネマティックな音像はまさに〈PYRAMIDS〉の音という感じ。そのハードさや暗さも含めてイギリスのレーベルと日本的感覚の親和性の高さが証明された作品といえるかもしれない。和楽器とエレクトロニックな音響がノイジーなテクスチャーの中で溶け合っていて、その独特の間や湿り気は、やはりこの日本の風土から生み出された感覚だと思う。新しさと古さを乗り越え、独特の佇まいを獲得した作品。(S)

Yullippe – Selfish&Anchor

大阪を拠点とするプロデューサーYullippeの最新作は、鋭利かつ重厚なインダストリアルテクノ。電子的な質感をまとった本作は、ボーカルを押さえてより硬質なサウンドに変化を遂げた。工業的なカッコよさと雄大な自然のようなアンビエンスが融合されて、エレクトロニクスの歪みのなかでそれが陰影を作り出している。美しさの中にも現代的な感触を感じさせる作品。(S)

夕方の犬 – Paint Room

夕方の犬による「Paint Room」はピアノとバイオリンによる6曲入りのEP。クラシカルな楽曲がうっとりとするような張り詰めたアンビエンスと、叙情性を紡いでいく。シンプルな音の美しさとその響きに耳をやると、意識がどこか遠くへ行ってしまいそうになる。その静かな世界は孤立していて、止ってしまった時間のような切なさがある。(S)

YXIMALLOO – THE BEST OF YXIMALLOO 1

ドイツのレーベル〈Konpakt〉が、当時、制作者不明の音源を探すために「WANTED(指名手配)」と名付けてリリースしたという逸話もある、イシマルーこと石丸尚文。80年代の録音を中心に厳選された自身の自主レーベル〈桜れコーず〉からの2枚組LP。ただただ音楽を作り続けてきた行為のピュアな積層が、ゆったりとした時間感覚の中に結晶化している。(S)

http://www014.upp.so-net.ne.jp/yximalloo/

日本の豊穣な地下シーンを50組のアーティストと楽曲で振り返る。50 Japanese track maker / musician 2017。#1-25

Vapor Aesthetics: A look back at 2017

“Vaporwave Is Dead” 以降の現行Vaporwaveシーンにフォーカスする連載。
2017年の最後に今年の出来事を振りかえる。

Sute_Aca /
Sute_Aca / Text: Sute_Aca, Title Image: 50civl

“Vaporwave Is Dead” アンダーグラウンド的な本質は死してなお生き長らえるVaporwaveの「今」を観測し続けたこの連載、今回はその総括として2017年を振り返ってみよう。

まずは先日、Vaporwaveコミュニティが大きく湧いた出来事から。ゲームスタジオDynamic Media Triadが現在開発中のビデオゲーム『Broken Reality』のデモバージョンが、新たなトレーラーと共にリリースされた。

近年ではVaporwaveデザインにインスパイアされたゲームが数多く生み出されている。ドイツのゲームスタジオSupyrbがiOS向けに開発中のゲームアプリ『M Δ R B L Θ I D』、オーストラリアのゲームデザイナーDan Vogtが開発したゲームアプリ『DATA WING』などが著名であるが、『Broken Reality』はその先駆けであった。蒸気の美学に満ち溢れた三次元空間を自由自在に行き来し、探索をしたり、友だちを作ったり、ソーシャルランク向上のため有象無象に「いいね」を押して回ったり、消費活動に勤しんだりすることを目的としたアドベンチャーゲームだ。あらすじはこうである。「あなたのコンピューターおよびインターネットを始めとするほとんどのデジタルサービスは『NATEM』という大企業の管理下におかれています。『NATEM』はさまざまなテクノロジーサービスをよりよく統合するため、インターネットを現在の2Dから3次元コンピュータグラフィックスへ変換。ユーザーは、物理的な空間と化したウェブサイトを自由自在に移動できるようになり、コンピューターから得られる体験はもはや現実となりました。あなたも『NATEM』の世界を体感しませんか?」

『#SPF420』以来、インターネット上で不定期に行われてきたVaporwaveフェスにもリアリスティックな潮流が。VR(ヴァーチャル・リアリティ)だ。Esprit 空想ことGeorge Clanton率いる〈100% Electronica〉は、VaporwaveをモチーフとしたVRムービーを数多く手掛けるYoutubeチャンネルUnreality Journeysと共同したライブストリーミングイベントの告知を行なった。出演はEsprit 空想、『Deep Fantasy』で知られるS U R F I N G、新人作家Satin Sheetsの三者。詳細について〈100% Electronica〉はこう記述している。「誰もが2Dのコンピューター上でYoutubeやFacebookを見たりチャットをしたりできますが、VRヘッドセットでは3Dを楽しめます。100人もの人々がこのVR世界を訪れて探索でき、グランド・セフト・オートのようにリアルタイムでパフォーマンスと対峙することができます。バーチャルミュージックフェスティバルとして想像してみてください。 あなたは、アプリでVRの世界で自由に歩き回ることができます。」先着100名に専用のアプリが配信され、VR世界でライブ体験ができるという画期的なこのイベントに、多くの好事家たちは画面に釘付けとなった。しかしモニターはローディング画面を保ったまま、およそ三時間が経過。現地では夜も更けた頃、機器の不調だとGeorge Clantonは申し訳なさそうに詫びた。その日、VR世界への扉が開かれることはなかったが、100% Electronicaは後日改めてライブパフォーマンスを行うと告知している。インターネットの仮想現実、というまるで虚構のような世界で得た体験は、果たして現実となるのだろうか。

初期のVaporwaveも、もともとは別名義の乱用の上に成り立つ虚構だった。それが今、良くも悪くも現実のムーブメントとして成り立っている。シーンが形成される以前よりVaporwaveスタイルの音楽活動を続けてきた骨架的は、4年ぶりに新作のアルバム『Opal Disc』『Sunset Melody』を2作同時リリース。そこで7年もの間「vaporwave」というタグを付けることを頑なに拒んでいた彼は、今年すべてのアルバムにそのタグを冠した。初期Vaporwaveの意匠が顕現したとても重大な出来事と言っても過言ではないだろう。

またVaporwaveはカセットテープやレコードという実体を伴った物理フォーマットとなって当たり前に手元に届いている。インターネット上で生まれたにも関わらず、Vaporwave作品の多くはカセットテープを筆頭に、レコードやCDといった物流フォーマットとなってリリースされることが非常に多い。去年はおよそ700以上もの作品がカセットテープとなって世に放たれた。年が明けてその余波は、日本のディスクユニオンにてVaporwave中古カセットコーナーとなって観測される。それほどまでに現行のVaporwaveシーンではフィジカル至上主義的な思想が蔓延っている。そしてそれは年々エスカレートしており、今年がその最たるものだったように思う。アーティストが新作の告知を行えば、必ずと言っていいほどカセットテープについてのリプライが飛び交う。Facebookのコミュニティ『Vaporwave Cassette Club』の参加者は今年7300人を突破するなどの熱狂ぶりだ。〈Olde English Spelling Bee〉からはMacintosh Plusの『Floral Shoppe』がLPとなってリリースされ、〈Hologram Bay〉からBlank Bansheeの全作品がCD、カセットテープとなって。〈Neoncity Records〉からはマクロスMACROSS 82-99の『Sailorwave』『A Million Miles Away』がCD、カセットテープ、LPでリリースされるなど、今年1年だけでVaporwaveの金字塔とも言うべき名盤たちが相次いでフィジカルに姿を変えた。しかしその反面、Macintosh Plusの『Floral Shoppe』のカセットがDiscogsで10万円近い値で取引されるなど高額転売の横行(最悪なことに、レーベルオーナーまでもがマニア向けの法外なマネーゲームに手を出している。)、それに手が出せないコレクターたちによって密造されたブートカセットの蔓延など様々な弊害を生じさせている。〈Dream Catalogue〉を主宰するHKEやOneohtrix Point NeverことDaniel LopatinもTwitterで苦言を呈したほどだ。今年〈New Masterpiece〉が発刊した『蒸気波要点ガイド』すらもコミュニティ内でPDF化され、質の悪いブートとなって出回った。また、〈Olde English Spelling Bee〉の『Floral Shoppe』のLPについて沈黙を貫いていたVektrodは「このフィードで共有されていないのならば、それは非公式だ」という趣旨のツイートを残し自身のBandcampページから『Floral Shoppe』『札幌コンテンポラリー』の2作をリムーブ。何やら物々しい動きが見られる。そんな不穏な話はさておき、カセットテープリリースが盛んな去年を経て、今年は新たな試みがあちこちで行われた。レコードの帯をカセットテープ用にリアレンジした「Obi Strip Cassette(Obi付きカセットテープ)」が猫 シ corp.によって発明されたり、仮想夢プラザの超大作Vaporドローンは〈Ephemera Archives〉によってカセットテープ16本に収められ、〈SEA OF CLOUDS〉によるフロッピーディスクでのリリース、またMDフォーマットを採用した〈Crystaltone〉、さらにLuxury Eliteの『Fantasy』や、death’s dynamic shroud.wmvの一員として知られるJames Websterの映像作品がビデオテープでリリースされ〈Baudway Video〉というVHS専門のレーベルが誕生するほどだ。Vaporwaveシーンが日々進化(深化)を続けるのに伴って、フィジカル部門も独自の生態系を築き上げている。

国内での動向についても振り返ってみよう。Vaporwaveは2012年から2013年にかけて日本でも話題を席巻したものの、それ以降ブームは終わったものだと多くのリスナーは見切りを付け、シーンは瞬く間に縮小していった。一方で海外では人気が途絶えることはなく、今年〈New Masterpiece〉から世界初のVaporwave専門Zine『蒸気波要点ガイド』が登場するなど日本でも当時とは異なる形で大きく盛り返すこととなった。それに伴ってVaporwaveに対する解釈も日に日に拡大していく。9月には「Vapor地獄」という個展が開催され、多くのイラストレーターや彫刻家、写真家、映像作家などが各々の解釈によるVaporな作品を展開した。日本のニコニコ動画界隈のコミュニティにおいても、もはや記号と化したヘリオスの胸像がイラストとなって意味もなく登場することも珍しくなくなった。80-90年代へのノスタルジア、レトロな家電広告、インターネットアート。もはや「Vaporwaveっぽい」の一言に該当する別文脈の諸々をもスクリューしながら肥大していくVaporwaveというミーム。アメリカでは5万人以上もの生徒数を誇る名門大学ニューヨーク大学がウェルカムウィークに際して制作した公式ビデオにおいてもVaporwaveの意匠が用いられている。また、去年韓国のアイドルグループNCT DREAMの『Chewing Gum』のミュージックビデオにおいてパステルカラーを基調としたVaporwave風デザインが採用されて以来、K-POPなどにもVaporwaveの美学が散見されるようになる。今年はDIA「Can’t Stop (듣고싶어)」、GIRIBOYの『Whyyoumad』、さらにはサウンド面からVaporwaveにアプローチしたようなJazzyfactの『하루종일』、CLCの『어디야? (Where are you?)』が話題となった。消費社会と企業文化の残滓をこねくり回して創り上げられた初期Vaporwaveの美学が、今や大企業によって再び消費され始めているというシニカルな現象が各所で起きている。

そんな中、今年起きた最も大きな動きといえば「#takebackvaporwave」というハッシュタグをきっかけに巻き起こった一連の運動だ。Esprit 空想ことGeorge Clantonは、InstagramなどのSNSにおいてハッシュタグ「#vaporwave」が心無い人たちによって荒らされ、Vaporwaveと何ら関連のない画像が溢れかえるばかりに留まらず、人種差別や誹謗中傷といったヘイト活動に用いられていることについて言及。彼の一連のツイートを発端に、懐かしさとシュールレアリズムに満ちたかつてのVaporwaveの原風景を取り戻そうという運動が「#takebackvaporwave」というスローガンを込めたハッシュタグを掲げてスタートした。が、現状が変わることはなかった。このタグはもはや忘れ去られようとしており、結果的にVaporwaveの無力感を露呈する結果となる。今年1月、Vaporwaveの手法を非人道的なプロパガンダに流用した”Fashwave”や”Trumpwave”が大きな議論を巻き起こす。対抗するようにアンチ・トランプをテーマに掲げたアルバム『Fire Wall』が企画され、参加者を募ったもののプロジェクトは頓挫。12月、FCC(米連邦通信委員会)は「ネットの中立性」を撤廃することを決定。冷徹な現実世界と呼応するように、Moshe LupovichことwosXが提唱するHardvapourが〈H.V.R.F. CENTRAL COMMAND〉を泉源に毒ガスのように噴出し、硬質なビートが緩やかな蒸気の波を埋め尽くそうとしている。La Mano Friaの主宰するレーベル〈Sud Swap〉からリリースされた築地市場の豊洲移転問題を題材にしたToyosu Tekko VisionsによるVaporwaveアルバム『築地』に代表されるように、リアリズム志向な作品も数多くリリースされた。Google翻訳のリアルタイムカメラ機能が、画面ごしの現実世界を不自然な日本語で埋め尽くしたVaporな出来事から幕を開けた2017年。この年を表象するのは「現実」そして「拡張」というふたつのキーワードであろう。蒸気の波は、もはや現実へと漂い始めている。

最後に、そんな2017年を象徴するベストディスク5枚を選出した。上半期ベストと内容が被るものもあるが、ぜひ2017年の終わりに耳を傾けていただきたい。

2017 BEST DISC 5

Vektroid – Seed & Synthetic Earth

Ramona Andra Xavier、常にアップデートされていく彼女を未だにVaporwaveの枠組みに収めて語るのは極めてナンセンスではあるが、彼女がかつてMacintosh PlusやNew Dreams Ltdなどの名義で打ち立ててきた金字塔、そしてヒューストンのラッパーSiddiqとの共作『Midnight Run』を始めとする近年の諸作、それらの根底に共通して根付くのものは、きっとギークなアウトサイダーなりの解釈によって再構築した「ポップさ」だと思う。Vektroidによる最新作『Seed & Synthetic Earth』は、そんな彼女なりのポップネスが突き抜けたような快作。躍動感あふれるメロディがMIDIな音色を引っさげて飛び跳ねていく疾走感、織り成されるグルーヴはむせ返りそうな程にエモーショナル。思えば、彼女が今年9月にFACT Magazineに提供したMIXはこのリリースへの布石だったように思う。蒸気のミームに毒されたナードたちを置き去りに進化を遂げていく最新鋭のVektroidを聴くべし。

Nmesh – Pharma〈Orange Milk Records

サンプリングミュージック史に刻まれるべき傑作。

Psychic LCD – FACADE〈Ailanthus Recordings〉

Lasership StereoやDiskette Romancesなどの名義でも知られるPsychic LCDによる4年ぶりの新作『FACADE』が〈Ailanthus Recordings〉から。2013年に〈Fortune 500〉からリリースされた前作『Nexxware』で発揮されていた審美性はより研ぎ澄まされ、展開されていくのはヴァーチャル・リアリティ空間に溶け込んでいくようなサウンドスケープ。アンビエントの再評価の著しい昨今、ぜひ耳を傾けていただきたい一作だ。Psychic LCDはもともと、Lasership Stereo名義で『Soft Season』『Meet Local Singles』の2作を同レーベルから発表しており、本作『Facade』によって6年ぶりに〈Ailanthus Recordings〉へと復帰を遂げることとなった。6年もの間最前線でシーンを牽引する〈Ailanthus Recordings〉には心から大きな賛辞を送りたい。

Various Artists – Memories Overlooked: A Tribute To The Caretaker

Leyland KirbyのプロジェクトThe Caretakerのトリビュートアルバム。キュレーターはNmesh。およそ90名以上ものVaporwave作家陣が参加する大ボリュームのアルバム。デジタルはアルツハイマーの支援団体に寄付されるとのこと。V/Vmなどのエイリアスで法外なサンプリングを繰り広げていたLeyland KirbyとVaporwaveが結びつくのはとても面白い現象。 実際、NmeshのもとにLeyland Kirby本人から好意的なメッセージが届いている。

chris††† – social justice whatever

現行Future Funkシーンの代名詞的な存在である〈Business Casual〉を主宰し、今年はさよひめぼうといった多くの先鋭的な才能を見出してきた凄腕のレーベルオーナー、chris†††ことJohn Zobele。SNS上では自身の存在すらミームと化し、圧倒的な存在感でVaporwaveシーンに君臨するインターネットミームの権化による最低最悪のミックステープ『social justice whatever』が自身のBandcampからリリース。彼自身も「the worst album ever.」と称すように、その内容は、商業的にヒットを収めた往年の名曲や、著名なインターネットミーム動画をmp3でぶっこ抜き、歪ませ、切り刻み、その断片を繋ぐというよりも雑多にぶちまけたかのような驚愕の内容。用いられている楽曲はスクリューによって捻じ曲げられ、原型を留めていない。この時点で元ネタへのリスペクトは皆無であるが、極めつけは、再生されている音楽は、聴いている最中にまるで飽きたとでも言わんばかりに突如としてスキップされ、次の曲、次の曲へとせわしなく転換していく点だろう。アメリカのレコメンドエンジンEcho Nestは、膨大なビッグデータをもとにSpotifyユーザーの視聴傾向を分析したところ、48.6%のリスナーが音楽が終了する前にその音楽をスキップしているという結果を発表。カット&ペーストされたEDM楽曲のドロップ部分のみが寄せ集められたジャンクフードのような動画が無数に蓄積するYoutubeチャンネル、その対極に位置するLorenzo SenniによるMIX、おびただしい数の情報が流れ行く濁流のフィードに乗ってWebブラウジングをしていくような不健全さ、それによって生じる多幸感。これは大量消費社会への賛美歌なのか? はたまた鎮魂歌なのか?

2018年、Vaporwaveはどこへ向かうのだろう。

捨てアカウント
島根県出雲市在住者。2015年ごろからリビングルームとインターネットを拠点に活動開始。〈New Masterpiece〉が発刊した史上初のVaporwave Zine『蒸気波要点ガイド』やニューエイジ・ディスクガイド『NEW AGE MUSIC DISC GUIDE』などに寄稿。レーベル〈Local Visions〉を主宰。すぐに捨てるはずだった使い捨てアカウントに愛着が湧いてしまい、捨てられないまま現在に至る。

Interview with David Quiles Guilló

世界最大級のデジタルアートのビエンナーレ「THE WRONG」に見る、オンラインキュレーションの可能性

MASSAGE /
MASSAGE / Text: Yusuke Shono, Translation: Noriko Taguchi, Goh Hirose

「The Wrong」はDavid Quiles Guillóが設立した、世界最大級のデジタルアートのビエンナーレ。その規模は本当に巨大で、全体像を把握するのが困難なほど。さまざまな国から集った100以上のキュレーターたちが、1500以上のアーティストを組織し、パビリオンと呼ばれる自分自身のバーチャル空間、あるいは大使館と称される実際の空間で、それぞれの鑑賞体験を作り出す。

こうしたビエンナーレの規模の拡張は、オンライン文化の拡大しつつある勢力を反映したものである一方、The Wrongの運営方針である徹底した地方分権にもその理由がある。参加キュレーターたちには、純粋に自分たちのコンセプトを表現する自由が与えられている。美術館におけるキュレーションとは真逆にも見えるこうした方針は、まさにこのビエンナーレの名称「The Wrong」にもダイレクトに表現されている。どんな間違いにも価値があるのだ。自由だけどカオス。そんなThe Wrongの設立者のDavid Quiles Guillóにオンラインキュレーションについて話を聞いた。

過去にマガジンやNOVA festivalを手掛けていますね。そこから2013年にthe wrongがはじめったのは何かきかっけがあったのでしょうか?
The Wrongは、2001年以来から始まった僕の仕事の自然なゆっくりとした進化だった。どのプロジェクトもずっと続くものではなく、働き始めてから僕が目指してきた目標への次のステップのようなものなんだ。

このような大きなビエンナーレは例を見ないと思いますが、ここまで巨大となった理由はなんだと思いますか?
ドアをできるだけ大きく開いて、どれくらいたくさんのキュレーターやアーティスト、特集が展示されるべきかを制限しない計画だった…。美術館や博物館には物理的な限界があるけれど、インターネットには一定の物理的な制限はない。できるだけたくさんのキューレションされたアートを迎えることがこのビエンナーレの利点かな。

非常に大人数が参加していますが、どのようにコントロールしているのでしょう?
フェイスブックのグループとメッセンジャーを介してメンバーとキュレーターにコンタクトはしている。キュレーターは、自分たちが展示するアーティストと接触している。コミュニケーションするときには、一種のピラミッド型の構造だけど平等なやり方で、メッセンジャーで誰とでもやりとりできるようになっているよ。

回ごとのテーマやコンセプトはありますか?
The Wrongには「サブタイトル」とコミュニケーション戦略が含まれた、概要があるけれど、それはみなが取り組まなければならないテーマというわけではない。テーマはいつも自由だね。パビリオンや大使館のテーマを決めるのはキュレーターなんだ。

オンラインで展示を行うことの利点はなんだと思いますか?またそこにどのような可能性を感じていますか?
オンラインのものはワンクリックで手に入る。可能性は無限であり、視野は無限に広がり、技術が進歩するにつれて、アートはその先へと飛翔する。

フィジカルなイベントを「大使館」と呼んでいますよね。様々な国から作品が集まっていると思いますが、そこに地域性を感じることはありますか?
オフラインでのビエンナーレは期間限定のイベントで、世界中の都市にある、ギャラリー、機関、アーティストが運営するのスペースなどの「大使館」で行われる。ライブパフォーマンス、ワークショップ、アーティストトーク、展覧会などのフィジカルなプロジェクトを見ることができる。

アートの由来を問うことはないけれど、アーティストの言葉や名前から、その起源や地域性を見逃すことはできないね。確実に言えるのは、デジタル領域ではすべての情報が光速で移動するということ。ツールは数多くあるけれど、まだとてもわかりやすくて、ほとんどのデジタルアーティストがそれらを使っている。デジタルアーティストは今、オンラインやどこでも、世界中で起こっているすべてのことからインスピレーションを受ける。それは多くの場合、とてもゆたかな広がりと、多文化的な視野を生み出すだけじゃなく、一定の同質性も作り出すんだ。

あなたがこのデジタル文化において、信じる価値はどのようなものですか?
コラボレーション。

多くの作品を見てきたあなたからみて、3回の開催の間に作品はどのように変化してきたでしょうか?
そうだね。アートを作り出したり、開発したり、組織したり、そして、あるいはディストリビューションするための重要な要素として、いろいろなソーシャルメディアのチャンネルがますます使われるようになった。ソーシャルメディアは、いまやデジタルアーティストのパレットのもう一つの色彩となった。

多すぎて語るのが難しいかもしれませんが、今回の見所を教えて下さい!
まだ見なければならない作品があまりにも多いから……まだ選ぶことはできないかな。だからこの質問には、来年の1月31日(展示の終了日)になってはじめて答えられる。フックになるような最初のリンクを探しているなら、オンライン時間に余裕があるなら、メインページに飛んでみて、退屈したならサイトを離れることを勧めるよ。

プレスリリースには2021年まで予定の記載がありますね。The Wrongのこれからのビジョンについて、教えてください。
ビジョンを持たないようにとても努力してるよ。The Wrongの可能性を制約したくはないからね。参加者が望むなら、どんなものでもよいんだ。

Homeostase – Sao Paulo

The Wrong Club – Cologne

Artwork by Mit Borras of apel at The Wrong.

Artwork by superficial studio of Hybrid Body at The Wrong.

Artwork by Anne Horel of postinternet.art at The Wrong.

The Wrong
http://thewrong.org/
3回目となるThe Wrongは、2017年の11月1日から、2018年の1月31日まで開催。

八広HIGHTIの13年

MASSAGE /

てくてくと見知らぬ川べりの土地を歩いていくとたどり着く、バラックのような建物。都心で遊んでいる身からしたら、ちょっと遠いなあと思ってしまう距離感。けれどその廃墟みたいな空間に一歩足を踏み入れたら、よく見知ったアンダーグラウンドな熱気がある。当時、美大出身のアーティストたちが、自分たちで居住空間を手作りして、夜な夜な友人などを呼んでライブなどを行っている面白い場所があると噂になっていたのを耳にして、記事を掲載したのがMASSAGE8号のとき。その八広HIGHTIの13年の活動をまとめた展示が本日より始まった。

展示を見てはじめて、つい最近までその空間が存続していたということを知って驚いた。あのころジャンルをまたがって面白い場所を見つけて遊んでた友人たちも、震災のあとはばらばらになってしまったから、なんとなく勝手に彼らも活動をしていないのだと思いこんでいた。その場所から彼らはどんな風景を見続けていたのだろう。長い期間だからきっと変化もしてきただろうけど、住んで、作って、遊ぶをそんな長い期間にわたって繰り広げてたなんて、あらためて理想の生活の形だなあと思う。

けれど、そんな場所がもう今はないという事実に、なんとも言い知れぬ喪失感も感じてしまった。たしかにそうした生活を送れるのも人生の限られた期間だけなのかもしれない。また自分が知らないだけで、今も生まれたり、消えていったりする面白い場所がほかにもあるのかもしれない、とも思う。世の中が内向きになっているのか、自分が内向きになっているのか、人間関係を超えて感覚で繋がることがなんだか前より難しくなった気がするけれど、そういう場所で生み出された感覚はきっとその人の作品とか感性を通して、転生していっているはず。またいつかそういう感覚と出会えたらと思う。

「HIGHTI 展」
相川勝 矢代諭史 工藤幸平 中野恵一 
2017年12月21日(木)〜2018年1月28日(日)
http://akibatamabi21.com/exhibition/

「Bananza!」

オンライン環境の影響を記録し視覚化する、アートディレクターデュオTeYoshのプロジェクト

MASSAGE /

アムステルダムを拠点に活動するTeodoraとSofijaによるアートディレクターデュオTeYoshより、VRライド「Bananza!」が届きました。

「Bananza!」は、デジタル時代における成長をテーマにした作品。タイトルの「バナナ」は、子供と大人、両者から好まれる果物ということから、デジタル文化のシンボルとして登場します。

主にオフラインの世界で育ったこれまでの世代とは違って、今日の子供たちは、多くの経験や概念を、デジタルメディアを通じてはじめて経験し、認識し、その後、現実でそれらと出会うことになります。「Bananza!」はそうした子供達の現代の生活、ゲームやGoogle検索、絵文字などといったメディアやアクションに、影響を与える私たちの環境をテーマにした作品です。

Vimeoの360度ムービーに対応しているので、アプリなどで是非体験してみてください。

TeYoshは、オンラインのカルチャーの影響から実際にオンライン上のプロジェクトも発表しています。

そのひとつ、「Dictionary of Online Behavior」は、ソーシャルネットワーク上で現れた行動を記録し、コミュニケーションの方法を変えた新しい言語の事象を作ろうとする、進行中のプロジェクトです。

インターネットを取り巻く環境をモチーフとした作品も、随分見慣れた感じになって来ました。けれど、いまのそれは新鮮というより、どこか安心感を感じるものになってきた気がします。人間とテクノロジーの関係は今ではほとんど不可視のものになりつつありますが、彼女たちの美的実践は、無意識下で変化しつつある私たちのリアリティ、習慣、思考、世界の認識に影響を与えるルーツを辿り、明らかにするということなのかもしれません。

TeYosh
http://www.teyosh.com

Visible Cloaksの新作ビデオ、「Keys」が公開。

MASSAGE /

来日したばかりのVisible Cloaksの発売予定のアルバムから、「Keys」の新作ビデオが公開されました。ご存じの方も多いかもしれませんが、彼らのジャケットや映像を手掛けているのはBrenna Murphyというアーティスト。MSHRというオーディオビジュアルのユニットでも活動しています。ポートランドからNYに居を移したそうで、これから売れっ子になっていくのかもしれませんね!

JACOB – Intracerebral Hemorrhage

MASSAGE /

〈& Options〉から、コペンハーゲンで活動するJacob Stoumann FosgrauことJACOBの作品「Intracerebral Hemorrhage」が届きました。ひんやりとした湿り気のあるサンプルのコラージュが、いくばくかの憂鬱さを含んだ夢心地なメロディと絡まり合い、切り立った崖のようなソリッドな音楽性を作り出している。そこから見える風景はどこか寂しくて、人なき世界の後を覗き見たような孤独な美しさを感じさせる。J. J. Cookというユニットでも活動しているよう。昔の作品もとても良いです。

過去と今をコネクトするレーベル
〈New Masterpiece〉。

MASSAGE /

結構前の話ですが露骨KITの別名義、虫ミュージックの「月へ行くなら」というアルバムをよく聴いてた頃がありました。その独特の感触はどこにも当てはまらないパズルのピースのようで、当時はうまく形容するのが難しかった。時代がちょっと早すぎたのかなと思うと同時に、今ならそんな特異なスタイルの作品とも毎日のようにインターネットを介して出会える。幸せだけどちょっと恐ろしい時代になったと思うわけです。

そんなはまらないピースのような感覚に、ピタッと当てはまるような新しい名前があるかどうか。たとえばVaporwaveも今、その名前がなかったら集まることのなかった繊細な感覚の受け皿になっている側面がある。曖昧な感覚をより多くの人々の間で共有していくために、輪郭をはっきりさせていく仕事が必要なのは間違いないことです。

あまりしっかりした音楽メディアがない代わりに、その輪郭を描くことがもしかしたら今の音楽レーベルの役割なのかもしれません。日本にもいくつもレーベルがあるけれど、Vaporwaveと接続した〈New Masterpiece〉の最近のリリースが際立ってきている気がします。

ちょっと前にDiploがRihannaに曲を聴かせたとき、「空港でかかってるレゲエみたい」と発言したことが話題になりましたが、その逸話を受けて作られた架空のジャンル「エアポートレゲエ」を集めた〈New Masterpiece〉のコンピレーションは、ひねりが効いていて痛快、内容も非常に良かったです。最近の音楽家たちのメタ的な視点というのは、アカデミックなそれというより、あくまでも空想の奥に、夜中のチャットルーム的な感覚を確かに感じ取ることができる。その地に足がついた新しい生活感が私たちの同時代性なのだと感じます。

一方で、〈New Masterpiece〉は虹釜太郎の膨大なリリースを2週間に一度2作配信。別アカウントではありますが、故人となってしまったうっど漫まん aka WOODMANの作品をアーカイブするなど、過去に作り出されてきたさまざまな異色の感覚を持った音へのアクセスを作り出してもいます。

https://woodtapearchives.tumblr.com/post/156311755353/information
https://woodtapearchives.bandcamp.com

対照的に、札幌在住のVaporwaveアーティスト・豊平区民TOYOHIRAKUMINや、Vaporwave的な感触を更新した作品をリリースするSAYOHIMEBOUのリリースや、爆速で売り切れた『蒸気波要点ガイド』の発行などといった現代のあたらしい音楽性を紹介する仕事も行っています。日本の音楽の過去と現在をつなぎ合わせる彼の試みは、世代間の断絶が大きくなってしまった現在だからこそ、より価値のある刺激的な試みなのではないかと。今後のリリースも楽しみにしています。

カタルーニャ、バルセロナ拠点とするレーベル、〈angoisse〉の日本ツアーが12/9(土)よりスタート。

MASSAGE /

angoisse〉といえば、UltrafogやCVN、Cemetery、 Kazumichi Komatsu(Madegg)など、日本の音楽家の作品を数多くリリースしたり、オーナーのDavid. M. RomeroがCVNによるプロジェクト〈Grey Matter Archives〉にミックスを提供するなど、日本のシーンとも繋がりの深いバルセロナのレーベル。その〈angoisse〉の東京・岡崎・大阪の3都市を巡るジャパンツアーが12/9(土)よりスタートする。

今回来日するのはカンザスシティのレーベル〈c- (1221)〉のファウンダーであるmdo、ブルックリンにて〈Broken Call Records〉を主宰する現行NYアンダーグラウンドの一員Gaul Plus、サンタフェの実験音楽家Theodore Cale Schafer、そしてレーベル・オーナーのDavid.M. Romero。

国内からは同レーベルから作品を発表したCVN、Kazumichi Komatsu、Cemetery、Ultrafogの4人がラインナップ。さらに、H.Takahashi, Mari Sakurai, 荒井優作, Le Makeup, fri珍などの気鋭アクトも各公演に登場。

大阪公演では、〈angoisse〉のアーティストに加え、PUGMENTやShintaro Matsuoらが参加するグループ展も同時に行われる。

レーベルと関係の深い日本勢や海外勢に加え、現在のシーンを代表するアーティストたちが集結する本ショウケースは、新しい美学を形成しつつある現行実験電子音楽シーンの今を生で体験できる貴重な機会となるだろう。

angoisse showcase in Japan
2017.12.9 (sat)@ WWWβ
Line up: [angoisse showcase]
mdo *LIVE, Theodore Cale Schafer *LIVE, Gaul Plus, David.M.Romero, CVN *LIVE, Cemetery *LIVE, Kazumichi Komatsu *LIVE, Ultrafog *LIVE

[Lounge]
H.Takahashi *LIVE, takao *LIVE, Ken, St.Croix, Mari Sakurai
+ angoisse exhibition & merchandise

WWWβ http://www-shibuya.jp/schedule/008523.php
Facebook https://www.facebook.com/events/127841754559384/

angoisse in Zakioka
2017.12.15 (fri)@ひかりのラウンジ
Line up: David.M.Romero, Theodore Cale Schafer *LIVE, Ken, Ultrafog + mdo *LIVE, woopheadclrms *LIVE, methodd *LIVE
fri珍 *LIVE

Facebook https://www.facebook.com/events/152215342062317/
RA https://jp.residentadvisor.net/events/1037805

angoisse in Osaka

2017.12.16 (sat) @マルコノスタルジ (大阪府大阪市北区中津6-13-31)
Live/DJ: mdo, Theodore Cale Schafer, David.M.Romero, Ken, Cemetery, Ultrafog, 荒井優作, Le Makeup, 7gmk, Kazumichi Komatsu
GroupShow: Shintaro Matsuo, Ryan Loecker, Theodore Cale Schafer,
David.M.Romero, Ken Nicole, 7gmk, PUGMENT, 荒井優作, 小松千倫, and more..
shop:ナイスショップスー

https://angoisseoasaka.tumblr.com/