きっかけはSmegmaのメンバー、JackieとEricとの出会いだった。自宅で定期的に行われているというセッションは、Jackieが焼いてくれたクッキーと一緒に楽しむ気楽なものだったが、とてもディープな体験だった。ミュージシャンであろうがなかろうが、誰でも音を出してよい。まるで事故のように生まれた面白い音、出来事。そういうものを見つけて遊ぶ。それを自分たちの家で、庭で、ライブで人々と共有する。そんなふうにこのシーンは始まり、継続してきたのではないだろうか。そういう気がしてポートランドのノイズミュージックのシーンに興味を持った。Smegmaのインタビュー記事「DIY before it existed: An interview with Smegma」によると、移り住んだばかりの70年代のポートランドはまだ保守的な街だったという。多くの観客から受け入れられているわけではなかった彼らは、マネージャーを付ける代わりに自分たちで全てをやることにした。DIYという価値観がなかった当時から活動している彼らは、今でも精力的で、様々なイベントを主催し、地元の若いアーティストたちとも垣根なく交流している。そんな場所から生み出される表現がおもしろくないわけがない。
 そして、ポートランドのライブ会場を回っているうちに、日本人女性エミと偶然出会った。彼女はポートランドの街で仕事をしながら、この土地のノイズミュージックのシーンを追いかけているという。当初どうやってそのシーンに接続したらいいのかわからなかった彼女も、追いかけていくうちに様々なアーティストや場所にたどり着くようになった。見知らぬ土地で、手探りでコアなシーンに接続していく嗅覚と情熱。久しぶりにそういう人と出会って、もっと話を聞いてみたくなった。これはそんな彼女に、ポートランドのノイズミュージックシーンについて聞いたインタビューである。

ポートランドのノイズシーンに興味を持ったきっかけというのはなんでしょうか? 
ポートランドに来る前、東京に住んでいた時からノイズが好きだったのと、Smegmaがポートランドのバンドと知って、そこから渦巻いてるシーンがあるはずだと思ったんです。あとドキュメンタリー映画の『People Who Do Noise』の影響もあったり。

それ以前はどんな音楽を聴いていたんですか?
高1の時に観に行った少年ナイフのライブの前座で出ていたDMBQにショックを受けて、追っかけているうちに対バンのインディーロック、ハードコア、ノイズ・エクスペリメンタル系のバンドや、ボアダムスなどを知って、放課後は制服でライブハウスへ出向くといった高校生活を送っていました。20歳前半は当時最盛期だったサイケデリックトランスにどっぷり浸かりつつ、20代後半はダンスミュージックのパーティシーンに移行しました。ポートランドに来てからは、こちらの四つ打ちはサッパリなので潔く諦めて、今またアングラな音楽シーンを掘り下げているところ。

日本からポートランドに渡って、現地のシーンにどういう風に接続していったのですか?
フリーのローカル・カルチャーを扱った新聞のライブスケジュール欄や、Myspace、フェイスブックで情報を探ったり、ライブツアー経験のある日本の友達にバンドを教えてもらったり。藁をもつかむ気持ちで片っ端からライブに行くうちに、繋がっていったという感じです。そこで出会った人に「こういうのはどう?」って紹介してもらったりとか。そのうちノイズ・エクスペリメンタルシーンがハウスショウで盛り上がってることを知りました。

ハウスショウというと日本の音楽シーンではあまり馴染みがないですね。 
そうですね。ジャンルにかかわらず、駆け出しのバンドや、主にエクスペリメンタルミュージックのバンドは、家の地下でライブをやるんです。ポートランドは一軒家が多くて、みんなシェアして住んでて、たいてい地下にも部屋がある。そこでバンドの練習をしたり。飲み物は持ち込みで、夏場なら庭でクックアウトしながらだったりでゆるいのがいい。最近はハウスショウは減ったと言われているけど、探せばないことはないですよ。

ポートランドのシーンは、世代間の壁が低いように思いました。日本ではあまりそういうことはないので、印象的だったのですが、そういったことは感じますか? 
20代の頃にサイケトランス好きが高じて、本場のヨーロッパへバックパックで旅行した時にも思ったんですが、ポートランドに限らず欧米ではどんな音楽シーンでも老若男女入り乱れていると思う。日本もいまの30-40歳代の層がアーティストでもオーディエンスでも、ずっと残っていてくれたらってことだよね。これは自分にも言い聞かせてます(笑)。あと世代だけじゃなくて、バリアフリーも。中規模以上のヴェニューに行くと車いすの人を大体一人ぐらいは見るので、そういう壁もなくなっていったらなと思う。

ポートランドは人がどんどん入れ替わっていく街だと聞いたのですが、5年の間シーンを見てきて、変化は感じますか? また、シーンは活発でしょうか? 
5年の間に主要なヴェニューが潰れてしまいました。エクスペリメンタル系のライブが面白かったArtisteryや、カートコバーンとコートニーラブが出会った箱と言われていて、老舗のSatyricon、中規模の箱でいろんなジャンルのライブをやってたBerbati’s Pan(現Voo Doo Doughnutがある街角)、21歳以下 でも入場できた Slab Townはクローズの危機の直前にKickstarterで再建の資金を募っていたけど叶わず。あと、ボヤでビル自体の防災が甘かったことが発覚して、休止から自然消滅してしまったEast Endも。East Endは毎年、独立記念日にヴェニュー前の通りを封鎖して、メタル祭りを催してたんです。ポートランドは人口に対してヴェニュー数はかなり多い街だけど、こうして羅列すると寂しい現実ですね。 
 ポートランドに来た当初、ハウスショウで知り合った友だちはLAやNYCに引っ越してしまったけど、先ほど引き合いに出した映画『People Who Do Noise』に出演している半分は、いまも現役でライブしている。その様子からすると、移りゆくところもあれば留まるところもあるって感じでしょうか。年齢にかかわらず好きなことを続けてる人たちは目に付くしね。
(※アメリカのヴェニューの年齢制限は厳しく、未成年とみなされる21歳以下はほとんどのヴェニューに入れない。入れる箱でもフェンスで21歳以下ゾーンがくっきり分かれていたりする)

House show @Alice Coltrane Memorial Coliceum

Han Bennick & Mary Oliver special orchestra by Creative Music Guild @Redeemer Lutheran Church

追いかけている特定のアーティストはいますか?  
年上アーティストの代表格だと、Smegmaのメンバーは自分が出ない様々なライブにも出没し、世代下のアーティストと交流していて、それは大きい。ThronesのJoeもしかり。Daniel Mencheは最近、日本でツアーで回っていたのも記憶に新しい。彼のライブは、頻繁にライブ形態を変えていて、いつも実験的。ポートランドに来た当初、頻繁にハウスショウをしていたMattは、家の都合で最近はやらなくなってしまったけど、Red Neckという名前で今も活動している。彼はホラー映画が大好きで、ハーシュノイズのプレイ中にブルーベリーを顔に塗りたくって最後に死んだふりという芸が定着していて面白いです。Soup Purseという名前のソロ活動と、去年からシェアハウスの住人たちと始めたユニークなインプロバンドFiascoでもシンセなどを担当してるToddの家が、Alice Coltrane Memorial Coliseumという名前で頻繁にハウスショウをしていたのだけど、家が売りに出されるとかでみんな出て行かないといけないとかという噂。今はどうなってるかどうかわかりません。彼は話も面白くて、Soup Purseとしてのライブは、毎回内容が違っていて楽しませてくれる。Gordon Ashworthは自分でライブ企画をしたり、夏にノイズとメタルが交互にプレイするフェスを2年続けてやったり、全米各地・ヨーロッパや日本へもツアーに出ていて、とても精力的。Oscillating Innards、Concernなどの名義でも活動しています。Golden Retrieverという2人組もよく観に行きます。カラフルなコードが複雑に入り組んでる壁モジュラーシンセと、ベースクラリネットの組み合わせで、毎回映画音楽のような壮大な空間を作り上げています。シンセのMatt Carlsonはソロ活動も頻繁。先日、教会で15人くらいのオーケストラ編成を彼が率いるエクスペリメンタルとクラッシックを融合させた特別ライブがあったのだけど、こういうフュージョンは大好き。もっと音楽のジャンルはクロスオーバーしたらいいと思う。あとMASSAGE 10の表紙を飾ったBrennaと彼女のパートナーのBirchの実験音楽プロジェクト、MSHRも注目してるアーティスト。彼ら独自で創作したシンセとライティング装置から、毎回予想できないパフォーマンスは見逃せない。
 あとノイズではないけど、1939 Ensembleはオススメ。元Breedersドラマーで現在ポートランドでドラムショップを経営してるJoséと、バンド以外ではミュージックスクールでドラムを教えているドラム一筋のDave、シアトルから数年前に移ってきたJoshがサックスとムーグシンセという現3人組。前出の二人はドラムとバイブロフォンをライブの中盤でスイッチするというのが独特で、BATTLESやPeter Brotzmannなどの前座を務めたり、知名度がじわじわ上がって来ています。

今、ポートランドで注目の場所はありますか? 
以前ほどこの箱というのは減ったけど、強いて言えばProjection MuseumValentine’sYale Unionは面白い企画が多い。体毛がビリビリするほどの爆音に包まれたければ、The KnowKenton Club。あと、教会でアンダーグラウンドシーンのライブが企画されることもあって、個人的にはそういう環境がとても好き。天井は高いし、音の響きが間違いなくいい。神聖な雰囲気との対照も面白いし。前にCharlemagneが演奏したカレッジの教会に、巨大な円形のオルガンがスペースシップの如く天井から吊ってあって。子連れで来てた人たちにも有無を言わさないほどの爆音。
 ハウスショウは機会があれば是非体験してもらいたい。日本じゃなかなかできないし。家にあるなんだこれは!なアートにも圧倒されるだろうし、崩れそうな階段とか一度も掃除したことないようなバスルームとかに出会うことも(笑)。今はもうやっていないのだけど、Noise Pancakeといって、日曜日の昼からノイズとパンケーキの平和な融合が繰り広げられる企画もあったり。ポートランド郊外には、溶接スタジオで開催されるノイズライブがあったことも。それも今はやっていなくて残念。工具むき出しというインダストリアル感満載で、ノースウエストらしい素晴らしいラインナップだったのだけど。

もし日本からそういったシーンを訪れるとしたら、どうすればよいでしょうか?
とにかくポートランドに来てください! もしくはポートランドのアーティストを日本に呼んでください‼︎

エミ オオタキ ジョイス
短期語学留学でポートランドに来てから、街と自然の絶妙な調和にすっかり魅了され気がつけば5年。ローカルアパレルブランドでデザイナーをしながら、藍染めやキノコ狩りにはまる生活。ポートランド音楽ブログ、ゆるりと更新中。 http://emioopdx.tumblr.com