Internet Fashion: Silvia Bianchi / Shallowww

インターネットの記号で遊ぶ、ファッションブランドShallowww。
彼女たちが生み出したファッションの新しいレイヤーとは。

Interview & Text: nukeme, Translation: Kato Mina

インターネット以後の感覚を洋服上で表現するいくつかの試みやムーブメントの中において、Shallowwwは象徴的な作品を発表している。インターネットそのものをテーマやモチーフとして用い、インターネットとファッションの両方の領域を拡張しながら、どちらの層も魅了し続けている。かねてよりTumblr上で散見してきたShallowwwの活動のバックグラウンドについて、メンバーの一人であるSilvia Bianchiにインタビューを行なった。Shallowwwの作品がインターネットとファッションの関係性を考える上で象徴的なのは、デザインの中で扱われているモチーフがインターネット上からサンプリングされたものである、ということだけではない。デジタルデータという非物質的なものを、洋服という物質の上に出力することで起こる誤変換を作品化し、デジタルデータと物質の性質の違いを露呈させていることにこそ象徴性がある。インターネット上の画像が元の意味を消失して拡散していくことと、ファッションにおける洋服のイメージが上辺だけで消費されていくことは暗喩でリンクしている。スウェットを基調としたベーシックなアイテム展開は、シーズン性を超えて着用可能なワードローブとして機能しており、これは一時の流行を追いかけ続けるファストファッションやトレンドそのものに対する皮肉のようにも思える。Shallowwwはその名の通りファッションの浅薄さを暴いているが、同時に可能性を提示してもいる。それはメディアとしての洋服の可能性であり、インターネット以降の世界において、言語に依存しないコミュニケーションツールとして、洋服やその画像がどのように機能し得るか、ということを含んでいる。

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まずは、メンバーのバックグラウンドについて聞かせてください。

Silvia Bianchi ShallowwwはBerta Muñoz、Ricardo Juárezと私(Silvia Bianchi)によるプロジェクト。私たちはそれぞれバックグラウンドはバラバラだけど、元々仲が良くてファッションに対する皮肉的な視線が共通していた。Bertaと私は、スタイリスト兼トレンドウォッチャーとして活動していて、ヴィジュアル撮影で何をやったらいいのか分からなくなっている時期もあった。もともとBertaは心理学、Ricardoはグラフィックデザイン、自分は記号学を学んでいて、ファッションは全員が独学。Ricardoとは他にも協同で2010年からBarriobajeroという実験的なクリエイティブ・コンサルタントも手掛けている。他のグラフィックデザイナーみたいに、自分たちの作品がプリントされて、着てもらえることを夢見ていた。それで、自然と力を合わせる結果になったのかもしれないね。

BarriobajeroやShallowwwを立ち上げた経緯を教えていただけますか?

Silvia BarriobajeroはShallowwwのプロジェクトの一環。私とRicardoは少しの間ストックホルムに住んでいたのだけど、当時、腕のいいファッションデザイナーたちとオフィスを共有していて、素敵なスタジオを借りていた。若い人たちが起業をして、生活のために自分たちのプロジェクトを進めていくのを見ていて、インスピレーションや新しい刺激を受ける毎日だった。

Shallowwwのブランドのコンセプトについて教えてください。

Silvia その名の通り【Shallowは英語で浅薄の意】、Shallowwwはインターネットの表層的なイコノグラフィー、その記号学、テキスチャー、パターンなどに影響されている。私たちの目標は美学2.0と、その周辺にあるデジタルの形象をテキスタイルに移し替えて、スクリーンプリントやデジタルプリントで表現をすること。リピートやグリッチが生成する不調和な雰囲気、その先にあるディストピアな世界、それは画像が元の意味をなくしてしまって、デジタルの辺獄で、ただ装飾のために残っているという状態。さらにブランド名は、人間の一番浅薄なレイヤー、私たちが洋服を着ることによって作り出されるレイヤーのことでもある。あと、Shallowwwのチームは3人で成り立ってるから、3つの「w」は3人の存在の意味も持っている。

Barriobajeroでは洋服以外にも、キュレーションや出版、アートディレクションなど多岐にわたる活動をしていますね。Shallowwwとはどのように名義を使い分けているのでしょうか?

Silvia BarriobajeroはShallowwwと同じ様な価値と美的感覚を持つのだけど、Shallowwwの本質は明らかに商業より。Shallowwwの衣服はトレンドの研究の結果であって、私たちはいつも革新性、流行と皮肉のバランスを追求している。Barriobajeroはリサーチ、サブカルの実践とカルチャーの促進に専念する実験的なクリエイティブコンサルタントで、商業的というよりはアートを志向している。

平面のデザイン(ウェブデザインとか、グラフィック、写真など)と、洋服のデザインとで、異なる点はなんでしょうか?

Silvia ファッションのアイテムはとても複雑で技術的、そして実用的な問題についても常に考えなきゃならない。でも、私はこういう問題を解決して行くのがとても好きだから、パソコンとスタジオを離れて、新しい生地やボタンなどを買いに行くことや、プロセスの最後に実際にモノを手に取ることができることがとても嬉しい。

 

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「Internet Souvenir(インターネットのお土産)」というタイトルのコレクションで、大理石や水面のようなモチーフを使用していますが、こういったモチーフはTumblrのトレンドにもなりましたね。こうした特徴的なテキスチャーを用いたコレクションはどうして生まれたのですか?またタイトルでもある、「Internet Souvenir」という言葉にはどういった意味が込められているのでしょう? 

Silvia 「Internet Souvenir」はオンライン上でヴィジュアルの価値だけで人気になったヴィジュアルを用いて、その物質の価値が徐々になくなったり、現実世界から離れていく形を写し出すこと。こういった絵柄から生地を制作するのは、物質的実体をよみがえらせて、元の形に戻してあげる事だと考えている。例えば、大理石から彫刻が造られ、水が体を潤わすように。インターネットとヴィジュアル・フィードが「記憶」の仕組みをどのように変えたかについて表現するため、選んだ最初のイメージが大理石だった。大理石は彫刻や建築などに使われているものだけど、それをパターンに変えて、冷たさ、重さなどの物質としての価値を消して、ただのミームになってしまう様子を観察することは面白い経験だった。大理石のパターンを人間の体に巻き付けて、モデルをまるで彫刻の様に仕立てて、特徴のなくなった大理石で温かい洋服を作る、そんな挑戦だった。実は、「Internet Souvenir」は、私たちの前のコレクション「Meme Index」に少し似ていて、現代のパターンが記号のように機能すること、そして若い世代がヴィジュアルの普遍言語に代表されてしまっている様に感じることに焦点を合わせた。2つのコレクションは私たちの美的感覚のメカニズムがTumblrやInstagramのようなイメージ・フィードのネットワークによって、少ないバリエーションの繰り返しに影響されてしまっている事を反映している。

リピートやグリッチが生成する不調和な雰囲気、その先にあるディストピアな世界、それは画像が元の意味をなくしてしまって、デジタルの辺獄で、ただ装飾のために残っているという状態。さらにブランド名は、人間の一番浅薄なレイヤー、私たちが洋服を着ることによって作り出されるレイヤーのことでもある。

大学で記号学を学んでいたそうですが、作品に活かされていますね。そこで学んだことが、インターネット的な記号を服へ乗せるという発想へ繋がったのでしょうか?

Silvia そのとおり。オンラインのプラットフォームに晒されたシンボルやサインなどが消失してしまうこと、シニフィアンとシニフィエとの関係性がなくなって、ヴィジュアルの拡散と反復を通じて新しい感覚と新しいレイヤーが作られることに興味がある。

 

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アラビア語をモチーフにした作品について。他にもTumblr上では、日本語やハングルなどをモチーフにした作品が流行しています。これは、アルファベットでの検索ではたどり着けないインターネット上の場所についての神秘性や、あるいは政治性についての暗喩のように思えますが、いかがでしょうか?

Silvia その通り。私たちはもう国々の境界線はないと考えていて、だからクローズドなアルファベットはいずれなくなると考えている。すべてがグローバルなスケールに代わりつつあり、記号や画像の新しい言語が生まれて、ローマ字はユニバーサルな言語ではなくなるだろうね。

ZARAにデザインをコピーされたことも話題になりましたが、それを知ったときどう思いましたか?

Silvia もちろんとても腹が立ったよ。裁判に持ち込んで戦おうとも思ったけど、やっぱり時間とお金の無駄だと思い直した。そんな訳で、これを機会に自分たちをプロモーションとして、オンラインでスパムすることにした。面白いことに、「Meme Index」のコレクションの一部だった彼らが真似たTシャツは、まさに画像やロゴが簡単にオンライン上でミームになってしまう事がコンセプトだった。私たちはそれから、彼らが真似たTシャツの画像を#copy #shallowwwなどとハッシュタグし続て、そうしたら一ヶ月でその商品の販売は取りやめになった。その時は「やった!」と思ったね。

Shallowwwで特徴的なのは、スウェットなどアイテムがシンプルなことだと思いますが、そうしたラインナップになっているのは意図があるのでしょうか?

Silvia 私たちはファッションの教育を受けていないから、基本的なアイテムから始めざるを得なかった。次のコレクションはもっと複雑にする予定だけど、バロックのグラフィックやパターンを、動きやすいラインと組み合わせるのが好きというのもある。

また一方で、寝具もラインアップに加わりましたね。ブランドとしては変則的なアイテムですが、どうして寝具だったのでしょう?

Silvia Shallowwwはクローズドなコレクションではなくて、オープン・テクスタイルのプロジェクトだから。新しいアイテムが年中リリースできて、さらにファッションが自由に組み合わせが出来るゲームのようになり、インテリア・雑貨、アウター、アンダーウェア、寝具など、液体の様に自由に、その境界線と遊びながら、新しいコンセプトのオープンソースファッションを提案したいと思っている。

YUNG LEANがMVでShallowwwを着ていますがどういった繋がりですか?シーパンク的なMVですが、同じくファッションの方も注目を浴びているシーパンクについてはどう考えていますか?

Silvia 彼のことは最初知らなかった。彼がストックホルムで一番の仕入れ業者からTシャツを買ってくれたみたいで、ミュージックビデオで着てくれたみたい。それから、彼のことを知るようになって、「Internet Souvenirs」のコレクション・リリースパーティーに招待して、披露してもらうことになった。それから、今は彼の「White Marble Tour」の衣装を作っている。シーパンクは大嫌い。でも、Yung LeanとSad Boysはシーパンクだとは思ってない。彼らの音楽はとても素晴らしいし、すごく頑張っている。

最新コレクション「2k15」は、消費文化に対する皮肉のようなメッセージを感じますが、そのコンセプトについて教えてもらえますか?

Silvia 「2k15」をコレクションのメインのテーマに使用した理由は、ファッションの退行について話題にしたかったから。大きな企業が2014年の冬物をリリースしている今、誰が一番新しいものを作れるかの競争になっていて、新しいものも2日で古くなる気がしてしまう。そんな中「2k15」と表示した大きなロゴを作って、プリントした。それからさらに面白く、積極的になれるようにと、2015年を期限に制作を進める事に決めた。「2年間、新しいコレクションはなし、新しいシーズンもなし。」それが私たちのテーマであり「特集」。私たちのブランドはインターネットのトレンドや、ニュースのタグ付けのブレインストーミングのように機能していて、各アイテムがそのどれか一つと対応している。#www #http #w3g #prism #jpeg2000。Shallowwwはファッション消費者のセルフパロディーであり、空虚でスポンサードされたメッセージを媒介する、身体を用いた皮肉めいた遊びでもある。

 

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今回のコレクションに関連した本を発売するそうですが、どのような本なのでしょう?

Silvia イタリアの写真家、Bea De GiacomoとスタイリストのAnna Carraroとコラボレーションで制作したzine。私たちのコレクションと「WE BUY GOLD」の美学を新しく解釈した表現を依頼して、32ページの半分が金、もう半分がカラーの自費出版のzineを作った。長く続くシリーズの一作目になる事を祈っている。新しいフィールドに挑戦するのが大好きだから、ミラノのファッションウィークでの出版記念パーティーで、膨大なスケールの「WE BUY GOLD」ロゴ入りの洋服を作って、借りていた会場のショップを「WE BUY GOLD」のシップに改装してしまった。とてもかっこ良いものになったよ。

Shallowwwはマドリードが拠点ですが、スペインには取り扱っている店がないですね。スペインは新しいカルチャーを取り扱う店が少ないのですか?

Silvia 最初に始めた頃、Ricardoと私はストックホルム、Bertaはマドリードで、私たちが帰る時には、Bertaがいなくて、私はイタリアに通ってた。Shallowwwはオンライン上で、世界中に販売されるところから始まったけど、新しいコレクションを作る為に顔を合わせるようになっただけで、私たちが今マドリードにいるのはただの偶然。実は、私たちはフェイスブックのシークレットグループ、Skypeのチャットとコールやwhat’s appを使ってやり取りをしている。スペインは新しいカルチャーを取り入れないわけじゃないけど、マドリードは砂漠の真ん中にあるから情報が届くのが遅いのかもしれないね。

またマドリードでオススメの場所やカルチャー、注目すべき人物、動きなどがあれば教えてください。

Silvia La Casa Encendidaという素晴らしいアート施設とよく仕事をしている。それとMatadero Madridもとてもクール。マドリードには多くのアーティストが拠点をおいていて、今、私たちの新しいスタジオもEllen Gallenとシェアしている。ほかには、Manuel Fernandez、Emilio Gomariz、Claudia Matenなど。ファッションブランドだと、MoupiaとSHOOPかな。

どこの国に一番影響されていますか?

Silvia 私はイタリア人だから、もちろんテイストやスタイルはふるさとのイタリアに大いに影響されてる。でも、スウェーデンやスカンジナビアの美学からもたくさん勉強したよ。

好きなサイトがあればおしえてください。

https://soundcloud.com/
http://dismagazine.com/
http://novembremagazine.com/

今後の発表の予定などがあれば教えてください。

Silvia 最近Slugabedの新しいミックスをリリースしたばかりで、他にも多くのミュージシャンとのコラボも行なっている。

http://soundcloud.com/shallowww 
http://
facebook.com/shallowww

http://instagram.com/shallowww 
http://
vimeo.com/shallowww

Photo: Bea De Giacomo, Stylist: Anna Carraro, Model: Sidney Geubelle