東京を拠点とするサウンドギャラリーEBM(T)と、ベルリンを拠点に活動を行う3hd Festivalが共同開催するフェスティバル「インフラ INFRA」が8月19日から8月26日東京にて開催される。テーマは「Inside the Outside World —外の世界の内で—」。日本国内・国外から、カテゴリーを超えたユニークな活動を行っているアーティストたちを集結させ、「現代」を測るインフラストラクチャー(基盤、基礎)を考察しようという試みだ。実験や遊びといった純粋な活動により宿される表現のコアは、たとえ日本のような商業的都市でもひび割れのようにいくつも芽吹いている。それらは窮屈な実空間からより自由なオンラインへと生息域を拡大し、グローバルな環境の中で凝縮や離散を繰り返す。その日々の運動は、わたしたちの生活圏、日常からは遠く、ますます不可視のものになっているのではないだろうか? こうした環境の中で、新しい時代のリアリティを可視化し、実空間に移植する「INFRA」の試みは、とても貴重かつ意義あるものとなるだろう。世代や空間を超え、さまざまな場所にある点を結ぶように作られたこの多面的なライナップは、どのように実現したのか。EBM(T)のNile Koetting、松本望睦、そして3hd Festival主催者のダニエラ・ザイツに話を聞いた。

Ni = Nile Koetting,
No = Nozomu Matsumoto,
D = Daniela Seitz

まずベルリンの3hd Festivalとの共同開催ということに驚いたのですが、共同開催に至った経緯を教えていただけますか?

Ni &No ダニエラ・ザイツ(インフラ INFRA、3hd Festivalのキュレーター)のパーティ兼レーベルCreamcakeを知って、Facebook上で彼女と他愛もない会話をしたことが最初のきっかけです。後に彼女が始めることになる3hd Festivalに、ナイル(Nile Koetting)が出演し、松本(望睦)もサウンドデザインを手がけ直接関わるようになりました。それと並行して、3hd Festivalのようにアート・音楽・パフォーマンスなどのさまざまな表現が同時にありながら、「鑑賞すること」が生活の中で当たり前にある状態を東京でもつくれたなあ、と大味なプランをこの時に考えていたんです。3hd Festivalはフェスティバルであると同時に、そこに集まった人たちのコミュニケーションをより刺激的にする場でもあるんですね。

ダニエラさんはINFRAにどのような可能性を感じて、共同開催を決めたのでしょうか?

D さまざまな種類の構造やプラットフォームで遊んだり、新しいものを作り出したいんです。それは既存の仕組みから持続可能な十分なサポートを得ることができないからかもしれません。だからインフラという言葉について考えるとき、私はいつも「物事のやり方」について考えます。集団としてどのように活動するのか?どのように意思決定を行うのか?プログラムをどのようにキュレートするのか?誰が私たちをサポートしてくれるのか?そこから利益を受けるのは誰か?Anja Weiglと運営しているCreamcakeや3hd Festivalの活動は、アート、パフォーマンス、テクノロジー、デジタル文化が出会う、ベルリンにおけるインターネットミュージックとアンダーグラウンドミュージックの文化の新しい構造を作り出し、提供しています。それはこれまでになかったものです。INFRAでも同じです。さまざまな人々、アーティスト、オーディエンス、カルチャー、言語、アイデアで、独自のインフラストラクチャとプラットフォームを再編成することはとても面白い。カメレオンのように。雑誌や政府の組織など、誰にでもこれを勧めたい。ホコリをかぶった既存の構造、手続き、リーダッシップを変化させ、同じ使命を持った周りの人々とつながろうとして欲しい。

商業的な都市である東京とベルリンは真逆の性質を持つ都市であるようにも思います。このような横断的なプロジェクトの意義はどこにあると思いますか?

D INFRAの最初のアイデアはベルリンと東京間の交換プログラムを行うことでした。活気のあるふたつの都市の間の異文化間の芸術交流を刺激し、観客が参加できるこれまでにない機会を提供することを目的としていたのです。東京にもベルリンにも、エネルギッシュで、ハイテクで、ハイスピードの音楽とパワフルなインターネットアートのシーンがあります。日本は世界の電子音楽の発展に大きな影響を与えてきました。多くの革新的な音楽制作技術やビデオゲーム、サンプリング文化、ニッチなポップカルチャー、そして大きな影響を与える未来観のコンセプトが生み出された場所です。日本から来た影響や技術の多くは、ベルリンを拠点とする先端のミュージシャンやアーティスト、パフォーマーのプロジェクトに反映されています。逆に日本の視点から想像してみれば、ベルリンのイメージはハウスミュージックとテクノミュージックによって長年定義されてきたと思います。けれどシーンの先端では、音楽の多様性にラディカルな変化が起こっています。今、街のアンダーグラウンド文化から生まれている真に冒険的なサウンドと音楽スタイルとはなにか?INFRAでは、その視点で両方の都市の新しい未来志向の音楽のハイブリッドを紹介します。

フェスティバルのコンセプトについてお聞きしたいと思います。まずはタイトルでもある「インフラ」について、この言葉に文化的な基礎のようなものを構築しようというヴィジョンを感じました。アーティストの創作活動において、あなたはどのようなインフラが最も重要だと考えていますか?

Ni &No 以前でいうと、美術大学に通うことで、同じ世代の表現をシェアしたり、影響し合ったものが形になっていくということがありました。アートの基礎であったアカデミーなどは、インターネットの登場により、今までと違った意味を持ち始めているように思います。学科や学部などは急速に多様化する表現から遠ざかり「bot化」しているため、直接現場に足繁く通う人と、PCやスマホの前スクリーン上から観察する人とが大半は分離している状態だと思います。もっと軽やかでコミットしやすい、前述した通りコミュニケーションをより刺激するような拡張されるような場を設けるには、鑑賞すること自体を生活の一部としてプログラムできたらと思っています。入り口としてはコンビニで立ち読みした雑誌に載ってるカフェとかレストラン行く感覚で「あ、これ観に行こう」っていうぐらいの。鑑賞態度のインフラ。みんな色々「見る」けど「読む」ことは中々しないので。そしてそれは、アーティストの表現にとっても新しい場であるし、新しいインフラなのではないかと思います。

プレスリリースではインフラのひとつでもある「インターネット」という言葉にも触れられていますね。EBM(T)もまさにオンライン上のプラットフォームであるわけですが、この巨大なインフラの登場であなたが感じた変化とはどのようなものだったのでしょうか

Ni &No 「巨大なインフラ登場」っていうほど革命的ではなかったような気もします(笑)。(90年代は)パソコン自体扱いが難しいものだったし、インターネットはアクセスし辛いからこそ場所たりえていた。それが、00年代にかけて段々と没場所化して行くのは薄々と感づいていました。今度は逆に「GO」などで場所と仮想空間の再位置づけが始まっていて、わざわざ「GO」しなきゃ行けない現実空間っていう距離感が生まれた。「空間」っていう概念自体、「場所」や多様性から一番遠いので不思議な距離感ではあります。モバイル化・ポータブル化で便利になったからこそ、周りにあるものや出来事をわざわざ見落としやすいように自分たちをセットしているように変化したと思っています。

D インターネットはアンダーグラウンドの音楽文化を完璧に活性化したと思います。グローバル規模でのアクセスの民主化は、ミュージシャンに力を与え、情報を解放し、会話を作り出し、信じられないほど新しいレベルの創造性を発火させています。インターネットのおかげで、今日のポップミュージックはこれまでになく曖昧なものとなり、多様化しています。これは、日常の中で私たちが特定の文化に積極的に参加し、そこから発展した多くの創造的なアプローチを示唆しています。「ポップ」はジャンル、フォーマット、シーンやスタイル間の差を溶解させ、ハイブリッドへ向かうことを特徴としています。前衛や、新しいエクスペリメンタルな音楽などの領域は、もはやはっきりと区別できません。その交わる場所で活動する新しい世代のアーティストは、構成的な複雑さや、テクノロジーを用いたオンライン、そしてヴァーチャルな実験から生み出されたサウンドを操ることに集中しています。彼らの芸術的実践には、多様な文化的背景や社会政治的状況を反映した作品が含まれます。その成果はクラブやギャラリーに存在しています。INFRAは、このような型破りなポップとエレクトロニックミュージックのハイブリッドを展示し、今の音楽の多様性を拡張し、ベルリンと東京の先端のアーティストをサポートするものになると思います。

今回のフェスティバルで提示されたテーマ「Inside the Outside World —外の世界の内で—」についてお聞きしたいと思います。「外の世界の内」とは矛盾する響きを持った不思議な言葉ですね。もし可能なら、どのような思考過程を経てこうしたキーワードにいたり着いたのか教えていただけますでしょうか?

Ni &No 今、色々なところで社会的・政治的に内向きな構造や、内省的な社会の構造が多く見られます。インターネットの登場で社会・世界の窓が開かれていく動きと同じ速さのスピードで、逆の力が強くなるのも実感しています。タイトルに込められた意味は、そういった二次元的なステートメントから、より多次元的な思考の仕方を実践、トレーニングすることに意義があると考えたことから来ています。外向きと内向きの関係の矛盾にこそ、表現や個人、歴史の多様性に気がつくチャンスがあるのではないでしょうか。フェスティバルとして、今、アートや表現にどんな可能性と意味があるかと考えたとき、自然とそういった既存のフレームだけではなく、アーティスト自身が意識的に自分のポジションや、プラットフォームを実感できるようなフェスティバルにすべきだと考えました。タイトルはそういった気持ちや、考えが積もって自然と出て来たように思います。

またコアな表現を担っている表現者が、非常に幅広くラインナップされていることに驚きました。個々にセレクトされた意図があると思いますが、もし彼・彼女たち全体を覆うイメージのようなものがあれば、教えていただけますでしょうか?

Ni &No 自然と、有機的な形でラインアップが作られていったと思います。また、外から見た日本、そして中から見る日本の二つの視点から、一人一人の表現がどのような流れを作れるのかというオーバービューがラインアップの下地となっているように感じます。また、全体を通し、スタイルや方法にとらわれず、非常に流動的な表現を行なっているアーティスト・クリエーターとのコラボレーションにより、個々の内なる世界と他者の外の世界、また逆に流動的で常にフィードバックを起こすような関係をフェスティバルで起こすことが狙いです。なのでラインアップも非常に流動的で、同時に非常にコアであると思っています。

最後に、とてももりだくさんなこのフェスティバルの見どころを教えていただけたらと思います。

Ni &No みどころは全部!と言いたいところです。ホテルなど普段は作品鑑賞をしないであろう場所での鑑賞もありますし。アートギャラリーで展覧会を見て、コンサートを楽しむ。そしてワークショップで他の人々と知り合い、最後にパーティーで締めくくる。フェスティバル全体を通して参加したら、また異なった見え方が生まれてくるはずです。
 あえてMASSAGEの読者におすすめをするのであれば、山本現代で開催の8月20日(日) 18:00〜のTCFによるコンサートとGreen Musicによるコンサートでしょうか。現在の電子音楽を率先しているレーベルPANからもリリースするTCFは今回特別に、「インフラ INFRA」フェスティバルに合わせ特別ライヴを予定しています。彼の近年のプラクティスである、人工知能を元に作曲を行う、まさに近未来的ライブの形を体感できる機会となっています。

Ni &No また、Green Musicはパリを拠点とするアーティスト、トモコ・ソヴァージュとベルリンを拠点とするフランチェスコ・カヴァリエのデュオ。今回初来日で、文字通り緑色のオブジェ楽器をモチーフのみを扱い演奏をする非常にユニークなグループです。音楽とパフォーマンスの関係や、モノとパフォーマンスが一体となった、一夜のライブとなります。両アーティスト共に山本現代で展示もしているので、彼らの展示を楽しむこと・彼らの音楽を楽しむこと、両方出来るという点ではオススメです。
 オンラインでは、なかのひとよによるウェブ展示を企画しています!「#WHITE_PAPER」という、インフラ内にリンクが設置され、そこから参加できるような展示になる予定です。

他のプログラムも全て、オフィシャルサイトにて確認ができます。
インフラオフィシャルウェブサイト:http://www.infra-festival.com/ja/

8月20日(日)18:00-21:00
山本現代 http://www.yamamotogendai.org/japanese/

パフォーマンス: TCF「0A F0 11 6B 5」
トーク: イェンナ・ステラ、TCF「アルゴリズミック言語」
コンサート/パフォーマンス: グリーンミュージック「≓ AO」
トーク: グリーンミュージック「瞑想的な音とオブジェクト」

http://www.facebook.com/events/1903689109886524

チケット予約:リンク

インフラ INFRA 2017
Inside the Outside World 外の世界の内で
August 19 – 26 | Tokyo 8月19日-26日、東京
http://www.infra-festival.com