2016年の日本の豊穣な地下シーンを50組のアーティストと楽曲で振り返る。Japanese track maker / musician 2016。#1-25


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2016年、日本の地下シーンは沸騰前夜といってよい豊穣な一年でした。このような燃え上がる創造性の発現、そしてジュラ紀のような多様性の爆発は今まで経験したことがないものです。もちろんそれはこの数年の間に準備されてきたものだと思いますが、煮えたぎるような盛り上がりが可視化されることはありませんでした。ローカルな動きがオンライン経由でさまざまに繋がり合っていき、それが目に見える形で一気に顕在化したのがこの一年だったのではないでしょうか。

とりわけ重要なのが〈Orange Milk〉からの一連の衝撃的なリリースです。そして、UKのレーベル〈flamebait〉ではカオティックな側面を持つアーティストが、USの〈Squiggle Dot〉からはポップでアバンギャルドな感性にシンクロした作品が、〈H.V.R.F. CENTRAL COMMAND〉のHardvapour作品に混じり日本のアーティストがリリースされていたのも印象的でした。見渡すと世界の感性が日本のいろいろな局所的空間とシンクロし合っていることが分かります。

震災以降シーンが下火になり音楽メディアが消える一方で、地下茎のようにアンダーグラウンドでは新しい根が育ち、表現の部分ではむしろ熟成が進んだように思います。日本で表面化するより先に、その結実が海外の目利きたちに発見されていったというのが本当のところだったのかもしれません。

日本、海外という区分け自体はもう意味がなくなってきているとは思いますが、膨大なリリースのなかで日本の作品をあえて抽出してみると、その豊饒さを改めて感じてもらえると思います。だけど実際はそんな数ある面白い作品をこの冬は筆が追いつかず、全く紹介できていないという気持ちに苛まされていました。その代わりというわけではないのですが、年の終わりにいっきに50人の作品を紹介して2016年を締めたいと思います。一般的には順位をつけるのでしょうが、優劣を付けるのが苦手なのでアーティスト名のアルファベット順で並べてみました。

1. 7FO, “Water Falls Into A Blank”

7FOは、大阪を拠点に活動する音楽家。本作は〈RVNG Intl.〉の新プロジェクトとしてリリースされた。レゲエの影響を思わせるローファイで透明感のあるダビーな安定したビートに、フレッシュで透明感のある音響が交錯する。湖に浮かぶ光のゆらめきのような世界で、音の生き物たちが軽やかに舞い踊る箱庭的ユートピア。

2. Akobae, “[α ω α к є] му [ѕ σ υ ℓ]”

ネットの奥底から発掘されたきたようなコラージュ感覚とそこに垣間見えるセンスは、オンライン上でkawaiiとゴシック、そしてスピリチュアルが交雑し変異したような独特のもの。ノイズにより覚醒したドローン作品から、オンラインの落とし子といったコラージュ作まで。変名がいくつかあるようで、その全容はよく分からないけれど、強固で一貫したセンスを感じさせる。

3. alma, “Peach”

Lilyも参加の新宿眼科画廊の展示を終えたばかりのalmaは、ジェンダーの問題意識からさまざまな表現活動を行なっている。身体から発せられる声はとても繊細で、まるでそれ自体が電子音であるかのように、響きの中に溶け出していく。表現の前へ自身を投げ出していく全体を賭けた姿勢は、アーティストという存在の本来のあり方を思い出させてくれた。彼女のような存在が現れた意味を私たちは考えなくてはならないだろう。

4. 荒井優作

早熟な鬼才あらべぇから名義変更し荒井優作へ。モノクロームの映画の中で吹き荒れる静謐な嵐のような粒子の粗いアンビエント。彼が撮影した写真にも独特のポエジーがあって、とてもよいです。

5. brf, “BRF-KU EP”

オンラインの表現集団Baconの商品を取り扱うIsshi MiyakeのBRFより、東京の街のサウンドからつくられたというハードコアテクノ。鋭すぎる五感により写真のように鮮明に焼き付けられたのは、街の姿というより現代の都市を疾走する文化のポートレートのようなものかもしれない。

6. Cemetery, “DENIAL”

東京で活動するアーティスト集団CONDOMINIMUMの主催者、渡邉弘太のCemetery名義。猥雑な都市のノイズをかき消す雨のような詩情に溢れている。かすかに歪んだガラスのような硬質な響きが鉱石のような世界を作り出す、メロディアスかつロマンチックなアンビエント作品。

7. CARRE, “GREY SCALE”

80年代のインダストリアルを継承しながら現代のエレクトロミュージックの音楽のエッセンスを感じさせるデュオ。近藤さくらとの展示も記憶に新しい本作は、深宇宙に潜り込んだかのような抽象的でモノクロームの音響が広がる傑作。15年の作品だが、カセットが本年リリースとなった。スピーカーのような装置を用いたパフォーマンスもとてもインパクトがある。

8. Constellation Botsu, “ちゅざけんなッズベ公!!”

島根在住のトラックメーカー。切り刻まれ破片となったシンセ/ハーシュノイズは繊細かつ破壊的で、マダラ模様に進行する時間感覚は想像を超えたグルーヴを纏い、聴くものを酩酊に導く。そのサウンドのみらず、Tweetされる言葉から、アートワークまでその独特の表現に世界からの注目が集まっている。

9. CVN, “Unknown Nerves”

CVNはJesse RuinsのメンバーNobuyuki Sakumaのソロプロジェクト。複雑性とシンプルな骨格の間を繊細なバランスで揺れ動く、ハイファイで硬質な感触を持つサウンドを作り出す。彼が間に見つけ出した新鮮で力強い美学は、〈Where To Now?〉をはじめ〈Orange Milk〉、〈Dream Disc〉、〈Flamebait〉などさまざまなレーベルに見出され、作品がリリースされた。

10. dagshenma, “NYP1232016”

dagshenmaは京都市在住の樋口鋭太朗による電子音楽のプロジェクト。高周波のようなノイズが、彫刻のように硬質な構造物を描き出す。アンドロイドのような人工的質感をまとったそのサウンドは、低温度の世界観に貫かれており、上質なノイズ/エレクトロとして聴くことができる。京都を拠点とするMadeggとのユニットAcrylも注目。

11. DJWWWW, “Arigato”

DJWWWWは、一度の休止からふたたびオンラインでsimforartなる新しい音楽メディアを開始したKenji Yamamotoの音楽名義のひとつ。この世界のありとあらゆる場所から音を見つけ出し、縦横無尽に組み合わせる豊かなセンスは自身のレーベル〈Wasabi Tapes〉とも共通した感性を感じさせる。純粋な遊びから生まれたというその音のコラージュは新しい感触に貫かれていて、深い音楽愛から新しい音楽フォーマットを作り出してしまったかのよう。オンラインアンダーグラウンドの成果のひとつの結実として記憶に刻まれたマスターピース。

12. EMAMOUSE, “eyeballnized”

もはや謎が神話レベルに高まりつつあるPsalmus Diuersaeから作品を発表する数少ない日本人。自作の独特なイラスト作品に登場する奇妙なキャラクターを模したマスクをすっぽりと被ってライブを行ったり、自撮りをアップするなど、虚構と現実の間を往復する不思議な人物。ゲームミュージックのように繊細に組みあげられたデジタルサウンドや、風変わりなデジタルフォーク的作品も作り出す。エンディングへと疾走するような激しく、めくるめく変転する展開はクセになる心地よさ。

13. former_airline, “Our Fantasies for Science and Pornography”

Former_Airlineは東京在住の久保正樹によるプロジェクト。金属的でノイジーなテクスチャーの音響が、張り詰めたテンションを持続させながら無人の都市を飛翔して行く。ミニマルなパターンの中に豊穣な情景が作り出されてくさまは、クラウトロックのよう。

14. GENSEIICHI, “Berlin”

インプロヴィゼーションユニットa snore.のメンバーでベルリンへと拠点を移した、GENSEIICHIによる作品のタイトルは「Berlin」。ミニマルテクノ的な圧を感じる変則的なビートの上でノイズのパターンが展開していく。低く抑えられた速度が、奇妙な白昼夢のような世界を作り出している。

15. Hakobune, “Impalpable Ashes”

多作で知られるドローン界を代表する才人。アトモスフェリックな音像のなかに神々しく荘厳なサウンドスケープが浮かび上がる。至福の美しさを持つ、アンビエントドローン作品。

16. H Takahashi, “Body Trip”

アンビエントユニットUNKNOWN MEの結成も記憶に新しいアンビエント作家のH Takahashi。結晶を形作るように空間を浮遊する音の像が見たことのない姿を描いていく。スピリチュアルというよりは、日常にある感覚を拡大したかのような優しく朗らかな奇妙さがある。春のような温かみすら感じる、ニューエイジの新しい時代を導いたアンビエント作品の金字塔。

17. Kazuya Suwa, “Above the Head / World is Echo”

レーベル〈Squiggle Dot〉の最初のリリースを飾ったKazuya Suwaの最新作。サイケデリックな夢を漂っているかのようなストレンジな世界観にポップさが光るそのスタイルには、どこか人肌のような温かみや陽気さも存在している。その軽やかさは、今の時代の感性という感じがする。

18. KΣITO, “Juke Shit 3”

Juke/Footworkの遺伝子から、多彩な進化を作り出す早熟な鬼才。本作は縦横無尽に進行するビート、ジャポニズムを意識してか和楽器の音色が絡み合う実験作。

19. Kentaro Minoura, “あー ep”

画家として知られる箕浦建太郎の音楽家としての一面が発揮された作品。音色がそぎ落とされた、静かに荒ぶるノンビートなノイズが徐々に解き放たれて行く1曲目。対極的に終末に向かうようなメランコリックさをたたえた2曲目のアコースティックな演奏でエンディングを迎える。

20. Lisachris, “LINE EP”

トラックメイカー、DJ、モデルと多彩な活動を見せるLisachrisのサウンドはベースミュージックの感性を下敷きにし、オンライン的なコラージュ感や高解像度の視覚イメージも掛け合わせたエッジ感の強いスタイル。そのエッセンスはDiploのMad Decentにも通じるような形式を独自に変容させてしまうような軽やかなセンスを感じさせる。

21. 鶴岡龍とマグネティックス, “Luvraw”

BTBを解散したトークボックス奏者のLuvrawの新次元を見せた新しいプロジェクト、鶴岡龍とマグネティックス。南米の甘く狂気に満ちた夜を思い起こさせるような、危険で楽しい、生の快楽に満ちたエキゾチックな楽曲集。

22. LSTNGT, “Boarding Gate”

トランスを新しい角度から解釈したかのような、身体をドライヴする至高のシンセサウンド。きらびやかな情景を描き出すそのメロディは、生まれ出た生命を表現するかのように、自由にその形を躍動させていく。ただ美しいだけでなく、聴くものの視聴を内側から突き破る破滅的な衝動を揺さぶる傑作。

23. MANTIS, “Resolution EP”

MANTISは、Moss(モス)とLa-Pachu(ラパチュ)によるデュオ・プロジェクト。エレクトロミュージックやダブの影響を独自の言語で昇華し、重くもたつくようなビートの上に高密度に敷き詰められた音像が複雑に交錯する暗く硬質な音の世界を作り出す。本作は、去年のアルバムからのヴァイナルカット作品だが、異なるヴァージョンとPoleのStefan Betkeによるリミックスが収録されている。

24. Madegg, “New”

Madeggは京都在住の音楽家/アーティスト。全ての像がぼやけたようなモノクロームのサウンドスケープが、霧が晴れたように新鮮な音遊びの世界へと移行。さまざまな音楽がキマイラのように結合し、異形の進化を遂げる。音楽が見た夢のような分裂病的鮮烈さをもつ抽象的なエレクトロミュージック。

25. Metome, “FEATHER”

Metomeは大阪を拠点として活動するTakahiro Uchiboriによるソロ・プロジェクト。高精細なテクスチャーと変形されたボーカルに、断片的な音像が編み物のように組み込まれ複雑な姿を見せる抽象的なサウンドの構造物。安定感のあるクオリティに旺盛な実験精神が掛け算された、アップデートされたエレクトロニカ的感性。

[関連]Japanese track maker / musician 2016。日本のトラックメイカー/楽曲50。#26-50