Maiko Gublerはベルリンにスタジオを構えるヴィジュアルアーティストである。彼女は3Dモデリングツールを用いて、デジタルデータの彫刻作品を制作する。彼女の作品には、色彩と形状の組み合わせに意図的なズレがある。液体のような形状にのせられた大理石のパターンや、ぐねぐねと曲がった円筒に組み合わされたグラデーションのパターンなど、現実であまり見たことがない、しかしはっきりとその物感を想像することができる、不思議な質感を持っている。まるで3Dモデルの形状と表面の色彩がそれぞれ別の参照先を持っている、その構造自体を提示しようとしているかのようである。彼女の作品は1枚の画像として完成しているものもあれば、実際に物質として出力されているものもあるが、作品が画像であるか物質であるか、というところには境界を引いていないように見える。「彫刻作品」も「彫刻作品の画像」も、「鑑賞によって作品が知覚される」という点は共通するからである。彼女の制作は、ヴィジュアルと物質の認知上の差について、画像を形として認識できるのはそもそも何故か、という根源的な部分へのアプローチであるように思える。そういった意味でMaiko Gublerの作品は、鑑賞者に知覚される「イメージ」そのもの、サイズと重力のない世界をベースにしながら鑑賞者のイメージを彫り刻む、「イメージの彫刻」であると言える。

※本記事は、ネットで活動するアーティストの作品を3Dプリンターで実体化させるプロジェクト、DMM.makeに掲載の「3 Dimentional Surface #3: Maiko Gubler」の連動企画として、お届けします。DMMのテキストはこちら

はじめに、あなたのバックグラウンドを教えてください。
私は日本人の父とスイス人の母との間に生まれ、スイスで育ちました。ベルリンに移る前はチューリッヒの芸術大学で学際的な基礎コースを受講していて、そこでは特にコンピューターとは関わっていませんでした。その代わり、たくさんの工芸や技術的なスキルを学びました。1年間の在学でしたが、作品制作について全体的なアプローチがはっきりと見えたと思っています。私自身の日本とスイス、両方のバックグラウンドが自分の制作に与える影響とかです。

その後、大学ではどのようなことを学んだのですか。
ベルリンの芸術大学ではデジタルメディアクラスのビュジュアルコミュニケーションを学び卒業しました。それから、インタラクティブアートのディレクターとして働き始め、Art+Com, Fork Unstable Media, DDB, Jung von Mattなどのクリエイティブエージェンシーに所属し、たとえばフォルクスワーゲンやグーグル、EAエレクトリックアーツ、ナイキなどのクライアントを相手に仕事をしていました。約10年ほど続けた後、昨年から私自身の制作活動に集中するようになりました。

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Gradient Bangles

「Gradient Bangles」が生まれるきっかけは何だったのでしょうか?
私は数学的というか計算式によって形成される3Gの表層にあらわれる色彩の勾配、傾きに魅了されてきました。ここには色と3次元のトポロジーがベースを形づくっています。物質性を保つためにも、あえて私はZCorp full colour 3D printerを利用していて、それは粗めの質感をわざと作り出すためなんです。というのも、「Gradient Bangles」は身につけられるものですが、装飾など機能性をもったジュエリーではないという事を意味するから。しかしながら、私はデザインよりアートの方が価値があるとは思っていません。お互い、それぞれ異なる意図や文脈、マーケットが存在していますしね。ただ、今回の場合では、実用的なプロダクトを制作したいとは思いませんでした。でも、そのうちどこかで作っちゃうかも……期待していてくだい。

「Gradient Bangles」は「もや」のような色彩のグラデーションが特徴的ですが、こういった色彩のイメージはどういったところからインスピレーションを得ているのでしょう?
最初のバージョンだと、表層の色を直接的に発生させ、さらに意図的に色の配置を間違えて再配置しました。一方で、最近のバージョンはあらかじめセットされているゆるい色彩のパターンにインスパイアされています。

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Still Life with Marble

私が興味を抱いているのは、私たちのリアリティーの連結を明らかにすること、と同時にますます見えにくくなっているテクノロジーのほぐれた縫い目を再び明白なものにすることです。

「Still Life with Marble」では大理石が液状化したような作品を作られていますね。こうした「液体」や「鉱物」のイメージは、どういったところから来ているのでしょうか。
このシリーズを作った2009年の終わり頃には、3D作品の一般的な認識はまだかなり一元的なものでした。特殊効果であったり、商業的なイメージにこっそり使われていたりというのがほとんどだったんです。一方で、現実以上のリアリティーを表現する写真家や肉感的・魅惑的な3D作品は、よりリアルな感じを持っていました。「Still Life with Marble」は上記のテーマに踏み込んでみた作品です。物事や物質的な価値と「写真のようなリアル」のイメージとの整合をとり併存させるというか。レンダリングした3Dの人工モデルとスクラッチで作ったデジタルなオブジェクトを並置してみたのです。最近では、デジタルなマーブルのパターンは円柱や胸像などでありふれたものとなっているかもしれませんが。でも、リアルに対する意識を拡張したものだと私は考えています。

あなたの作品について、「もやのようなグラデーション」や「液体」などの特徴はデジタルの3D空間に対するご自身の気持ちを表しているように感じました。つまり、「不定形で曖昧なもの」ということを表現しているのではないかと思ったのですが、いかがでしょうか。
確かに、不確定という言葉はよいかもしれませんね。ただ、彫刻のイメージやヴァーチャルなモデル、具象的なオブジェクトの区切りをぼやけさせる表現については、それら全てを均一化させることでも、互いの表現ジャンルを対抗させようとしているわけでもありません。私が興味を抱いているのは、私たちのリアリティーの連結を明らかにすること、と同時にますます見えにくくなっているテクノロジーのほぐれた縫い目を再び明白なものにすることです。

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About Making Architecture

最近、3Dプリンターでは金属やゴムのような素材も出力可能になっていますが、今後、あなたの作品でそういった素材を利用する事はあるのでしょうか。
ゴム素材についてはとても興味を持っていますし、いつか試してみたいと思っています。また、すでに金属の鋳造に関連してワックスプリントを試したこともあります。けれど、私は3Dプリントの即時性を好んでいますし、短時間でモデルを形成できる方法を失いたくはないですね、ベストなアイデアがあれば、それを採用しますけども。今は、私は3Dプリンターの従来の技術を組み合わせることを試しているところです。

ところで、キノコ狩りが好きだとうかがいましたが。
ふふっ、はい、確かに。人工的には栽培できない、野生のオーガニックなもの特有の形態や形状に惹かれるんですよね。森の中に分け入って進んでいく体験が大好きなんです。それは、意識を鮮明にし、自分の中の本能が研ぎすまされる行為です。そして、何か食べられる物を手にして戻ってくる事は、人間としてとてもつつましく手応えのあることだと感じています。

影響を受けたクリエーターなどはいますか。好きなアーティストを教えてください。
現在、素晴らしい仕事を行っているアーティストは本当にたくさんいます。でも、私がいつも立ち戻ってくるのは、イサム・ノグチとジョン・ケージですね。

日本のカルチャーについては、どのように考えている、あるいは感じていますか?
私自身、日本人とスイス人のハーフなので、多義的な感情が伴います。日本のカルチャーに対する親しみと当惑の感覚があって、それは私にとって喜ばしいミクスチャーなんだと思います。そう、とてもありがたい事だと思っていますよ。あと、もっと日本の言葉をしゃべれるようになりたい。特に、工芸品に対する意識や日本の伝統的な美学である侘び 寂び、儚さ、不確かさ、あるいは普遍的な事などについてです。
私は宗教的な人間ではありませんし、そして、おそらくはとても西欧的な解釈だと思いますが……私自身と神道にはたくさんのコンセプトの関わりがあると考えています。融合の概念というのでしょうか、それぞれ異なった実体が混ざりあって、複雑に関係をつくり絡み合っていく。私の作品にも使用している融合の概念。たとえば、日本ではお婆さんが伝統的な着物を着て、でも腰の辺りにはケータイをぶら下げています。また、自然への意識を育んでいながらも、アンドロイドのような完全な人工的なものへの抵抗感のなさ、開放性も維持しています。私は日本にいる時はいつでも、さまざまなリアリティーが無理なく相互関係を持っていることに、とても心を揺さぶられるのです。

今後の作品の発表の予定などあれば教えてください。
9月に出版される中国のファッション誌「Kumobakudan」で写真家のMichaël Smitsとのコラボレーションがあります。また、http://dustredux.com/の立ち上げについても楽しみにしていますし、そこで私はいくつかのテキスタイルを作成しています。現時点では、個人的なプロジェクトに取り組む時間を作る事は難しいのですが、それでもやはり、新しい作品に取り組み完成させたいですね。だって、もっともっと新しい何かを発表していくことが大好きですから!

Maiko Gubler http://maikogubler.com